ざまぁ回② 誰からも同情されないベルフ
ベルフたちの失墜は早かった。
ロアルドとユキナは、Sランクモンスターを倒しただけでなく、連続誘拐事件をも解決してみせた。
その二人がもともと、あるパーティーに所属していたことは多くの冒険者たちに知れ渡っている。
そう――。
そのパーティーこそが、ベルフとリースを含めた四人。
もちろんベルフは、メンバーを追放したことを周囲には言わない。今ではロアルドたちのほうが結果を出しているので、そんなことを広めてしまえば、自分たちの惨めさが際立ってしまうからだ。
だがベルフの傲慢っぷりは、まわりにいた冒険者たちが一番よく知っていた。
ユキナは俺たちの成長に着いてこられないザコ。
ロアルドとかいうおっさんも歳の割にはうだつのあがらないザコ――。
酒が入るとそんなふうに悪口を言いふらしていたので、それに辟易している冒険者も多かった。
しかし実際はどうだ。
二人がいなくなった途端、ベルフとリースは瞬く間に失墜した。
簡単な依頼さえこなせなくなり、すぐさまDランクに降格した。
一方のロアルド組は目覚ましい成果を挙げ続けているわけで、これでは噂にのぼるのも当然だった。
本当にザコだったのはベルフやリースのほう。
あいつら二人こそ二年かけても全然成長していない未熟者。
そんな悪口が周囲に拡散されてしまっているわけだから、ベルフたちも心労が溜まる一方だった。
「はいはい。薬草採取の依頼達成ね。ごくろーさん」
だから今日も、ベルフは縮こまりながらギルドを訪れるしかなかった。
別の職に就こうにも、今まで遊びすぎた結果、貯蓄がまったくない。だからこうして、嫌でも冒険者として活動するしかできなかった。
もちろん、最低Eランクの依頼しか任せてもらえないが。
「ほい、じゃあ達成金の10ゴールドね」
中年のギルドマスターが、かったるそうに端金を手渡してくる。
10ゴールドといえば、ちょっと良いパンを一個買えるかどうか。これではまともな食事さえままならない。
「おいおい、あいつまた薬草採取かよ……」
「やばすぎね? 前まであんなにブイブイいってたのによ」
「身から出た錆だろ。調子乗ってたからな、マジで」
そんな噂を身に受けながら、ベルフはゆっくりとギルドを出て行く。
――ユキナを追放したあの時、ロアルドたちがなにかしらの力を用いて、自分の力を奪っていったのではないか。
それがここ数日、ベルフが打ち出した結論だった。
なんの根拠もない推測だが、そうとしか思えなかったのだ。
あの日からベルフたちは急速に力を失った一方で、ロアルドたちは目覚ましい成果を挙げ始めている。
なにかしらの不正を働いて、ベルフたちの力を自分のものとした――。
そのように推察をたてればこそ、この不可解な状況にも納得がいく。
だからこそベルフはここ数日ずっと訴えかけていた。
俺たちはなにも悪くない。
ロアルドたちが不正を働いただけ。
嵌められたのは自分たちのほうなんだと――。
なにしろユキナを追放した時のことは、パーティーメンバー以外誰も見ていない。
隠蔽しようと思えばいくらでも隠蔽できるので、ロアルドたちを悪者に仕立て上げようと必死だった。
本当の悪者はロアルドであり、自分たちは被害者。
ベルフもリースも、本当はなにも悪くない――。
そのように訴えかけるも、現実はそう甘くなかった。今までのベルフの言動を知っているからこそ、信じてくれる者も全然いなかった。
「くそ……。なんでだよ、なんでだよ……!」
だからベルフは、今日も滂沱の涙を流していた。
俺は何も悪くない。悪いのは全部、無能なユキナとロアルドのほうなのに……!
「――ふふふ、今日も荒れてるようだなベルフよ」
と。
ふいに脇から小声でそう話しかけられ、ベルフは大きく目を見開いた。
急いでそちらに視線を向ければ、不気味に身体の節々が曲がっている赤ローブの男。それでいて周囲の冒険者たちはその存在にいっさい気づいていない――なんとも怪しさ満点の男だった。
「誰だおまえ。いつの間に俺の横に……」
「ふふ、まあそう警戒しないでくれたまえ。あのロアルドが憎いのだろう? 敬愛する大魔神様を倒した、あの男が」
「……は? 大魔神?」
目を瞬かせるベルフを意に介さず、男は意味深に笑いながら言った。
「ついてこい。あの男を地に墜とし、そしておまえの評判を上げる方法を……俺は知っている」
このときのベルフは知らなかった。
自分の身に、とうとう破滅が迫っていることを。
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