ざまぁ回 傲慢なベルフとリースの失墜

「はぁ? また依頼失敗だと?」


 一方その頃。

 ロアルドとユキナを追放したCランク冒険者――ベルフ・ゼオータは、帝都のギルドマスターから厳しい表情を向けられていた。


「どういうことだよおまえ。前もたかがカマキリンに負けたばかりじゃねえか」


「は、はは……。なんだか調子が悪くてな……」


「はん。単に実力が足りねえだけじゃねえのか」


 ヘラヘラと言葉を紡ぐベルフに対して、苛立ったように後頭部を掻く中年のギルドマスター。


 ちなみにリースについては、ベルフの横で居づらそうに縮こまっている。


 Aランクへの達成目前と噂されていたベルフたちは、今や見る影もない状態に陥っていた。


「おいおい……。あいつら、また依頼失敗したのか?」

「しかも今度はゾンビラビットに負けたんだってよ。頑張れば初心者でも勝てるモンスターだぜ?」

「落ちぶれんの早すぎね? いったいなにがあった?」


 ギルドマスターに叱責されている間にも、ベルフとリースは周囲から嘲笑を買っていた。


 ――無理もない。

 ベルフたちは冒険者になってまだ二年。

 そんな短期間で多くの功績をあげ、それゆえにAランク昇格はほぼ確実と言われきた。


 言わば多くの冒険者に注目されていた二人であり……その二人がDランクモンスターさえ倒せないとなると、周囲に衝撃を与えるのは当然といえた。


「なーにがCランク冒険者だよ。ほんとはお偉いさんと癒着でもしてんじゃねえのか?」


 極めつけはそんな噂まで広がってしまい、ギルドマスターは肩をぴくっと震わせる。


 ――そう。

 冒険者のランク付けは本来、かなり慎重に執り行われるものだ。


 対象者の実力はもちろんのこと、将来性、人格、知能の高さ……。

 いくつもの評価項目を丁寧に審査した上で、見事に合格した者のみが、上のランクへ昇級することができる。


 なぜならばこれが、冒険者ギルドへの信頼性に直結するからだ。


 不相応に高いランクを与えてしまっては、その冒険者本人の命が失われかねない。そしてもちろん、達成できるはずだった依頼も不達成に終わってしまう。それがもし緊急を要する依頼だった場合には、もはや目も当てられない。


 ゆえにランクの昇格は、前述のように慎重に執り行われる。

 もし不適当なランク上昇が認められた場合には、そのギルドマスターに厳しい処罰が下されるほどに。


 そしてベルフやリースの冒険者ランクを上げた張本人こそが――。

 今目の前にいる、中年のギルドマスターだった。


「ま、まあそう怒らないでくれよ。次はしっかり成果をあげるからさ……」


 びくびくしながらベルフがそう言った、次の瞬間だった。



 ――速報! 速報!――


 ――Cランク冒険者のロアルド・サーベントとユキナ・エミフォートが、連日の誘拐事件の首謀者を拘束!――


 ――人質にされていた女性たちは、みな無事に帰還!――


 ――Cランクながらに大活躍を収めた二人に、心からの賞賛を送るべし――



「な…………!」

「う、嘘でしょ……⁉」


 魔法掲示板に浮かび上がった文字列に、ベルフとリースは驚きの声をあげる。


 嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ。

 ドラゴンゲーテを倒しただけじゃなくて、まさか連続誘拐事件まで解決するなんて……‼


 なにかの間違いであってくれと願うベルフだったが、しかしこれは夢ではなかった。


 この場にいる誰もがロアルドとユキナを大絶賛し、彼らこそ真に有望な若手だという。

 ベルフたちよりも、よっぽど高ランクにふさわしい人物ではないかという。


「くそ……! なんでだよ……!」


 意味がわからなかった。

 パーティーのお荷物を追放したのだから、むしろ俺たちのほうが良い結果を残せるはずなのに。

 なんであいつらのほうが活躍してんだよ……‼


「はあ……」


 その魔法掲示板を眺めていたギルドマスターが、ため息混じりにベルフに問うてきた。


「なあ。いま名前が挙がった二人、もとはおまえらのパーティーにいただろ? なんで最近は二人ともいねえんだ?」


「あ、いや、それはえっと……」


「客観的に見れば、おまえらは単なるパーティーのお荷物だったわけだ。ロアルドとユキナがいるから良い結果を出せていただけで、単体ではさして力を持っていない」


「ち、違う! 俺らはパーティーの荷物なんじゃ……」


「よってベルフ・ゼオータとリース・ジェニファス。おまえたち二人を、Dランクへの降格処分とする!」


「あ、ああああああ…………!」


 気づいた時、ベルフはその場に崩れ落ちていた。


 嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。

 こんなことが、こんなことがあっていいはずがない……!

 俺は今頃、Bランクにでも昇格しているべき人間なのに……‼


「ま、本当はDでもいけるか怪しいからな。当面はEランク用の依頼しか受けさせねえから、そのつもりでいるように」


「あ、ああああぁぁぁぁああ……!」


 トドメの一言を刺され、ベルフとリースはその場で泣きじゃくるのだった。

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