唯一無二の親友

「えっと……引き出しってのはここか」


 ムラマサの姿が消えた後、俺は彼が最後に言っていたデスクに歩み寄る。

 なにか特別な防御魔法でも展開していたのか、このデスクだけまったくの無傷だな。


「…………」


 ちょっとした緊張を抱きながらその引き出しを開けると、そこには封筒が入っていた。

 中央部分にはでかでかと“ロアへ”と書いてあったので、これがおそらく、俺に見せたかった手紙だろう。


 深呼吸してから、その封筒を開ける。


―――――


 この手紙が読まれてるってことは、僕の思念体とはもう別れたってことだね。

 ……まあどうせ、僕のことだから本心を伝えることはできなかったと思う。

 だからたぶん、あっさりした別れ方になったと思うけれど――。


 ロア、今まで本当に頑張ってきたね。


 君が大魔神と相打ちしたと知った時は、世界が救われたっていう喜びよりも、喪失感のほうが大きかったよ。


 たぶんこれは……ザバルも同じことを思ったんじゃないかな。


 世界平和ももちろん嬉しいけれど、僕らが願ったのはそれだけじゃない。

 平和な日がきたら、また君と一緒に酒を飲みかわして、しょうもないことで盛り上がって、可愛い女の子を見たらみんなで元気を出して……。

 そういう、前みたいな楽しい日常を楽しめれば充分だった。

 またみんなで集まって、馬鹿みたいに騒げれば充分だった。


 でも、君は眠ってしまった。


 せっかく世界が平和になっても、そこに君がいないんじゃ……虚しいばかりだったよ。


 ……まあ、あんまりしんみりするのも僕らしくないね。


 ヒーラーさんには僕の魔法を譲渡したけれど、ロアにはまた別のものをプレゼントしたいと思う。


 まあ、なんの魔法も効力も施していないものだけどね。

 でもそれがきっと、僕らにとっては最高の武器であり防具になるはずだ。


 ――ふふ、頑張って作ったんだ。

 ぜひお守りにしてくれたまえ。


世界最強の魔術師 ムラマサ・ヒューテスト


――――――


「プレゼントだって……?」


 直接渡せばいいものを、なんだってあいつはそんな回りくどいことをするんだ。


 そんな疑念を持ちつつ封筒をまさぐると、なんともう一枚――入っていた。


 俺と、ザバルと、ムラマサと、そして過去に親しかった友人たち。

 そいつらが一堂に介して、酒を飲んで騒ぎまくっている絵だ。


 ……いや、絵にしてはあまりにもリアルすぎる気もするが……。


「あ、それは魔法写真っていうやつですね」


 ふいに近寄ってきたユキナが、俺にそう言ってきた。


「魔法写真?」


「はい。最近開発された魔法具で、その時の様子を静止画として残すことができるんです。まだ開発されたばかりなので、ちょっと荒めな静止画しかできないんですが……この魔法写真は、すごく綺麗ですね……」


「…………」


 はは……。

 いったいどんなプレゼントかと思ったら、昔の友人たちを静止画として残してたってわけか。

 ほんとにあいつムラマサは……馬鹿な奴だよ。


 そんなことに費やす時間があるなら、他にもっと有意義なことがあるだろうに。


「仲良かったんですね……。ロアルドさん」

 押し黙る俺に向けて、ユキナがそう呟いてきた。

「ちょっと羨ましいです。私はもう、幼馴染たちと別れちゃいましたから……」


「なに言ってんだ。ここにいるだろ」


「…………え?」


 目を瞬かせる彼女の頭に、俺はぽんと手をのせる。


「俺だって、この時代には知り合いらしい知り合いもいねえ。その意味じゃおまえと同じ一人ぼっちだ。だからこれから……俺たちがなればいい。唯一無二の親友にな」


「あ…………」


「ま、俺は良い歳こいたおっさんだ。おまえにとっちゃ嫌かもしれんが……」


「そ、そんなことないです‼」

 俺が言いかけたところで、ユキナが語気強く否定してきた。

「私こそ、ロアルドさんの親友なんておこがましいですけど……。今後も一緒にいてくれたれたら嬉しいです‼」


「はは……そうか」


 おっさんと美少女が親友。

 明らかに異質極まりないが、俺としても彼女の治癒能力には助けられてきたからな。ユキナ自身も一緒にいたいというなら、それこそ願ったり叶ったりだろう。


 ――ありがとうな、ムラマサ。


 おまえのおかげで、俺もこの時代で新たな一歩を踏み出せそうだ。

 この魔法写真……大事に保管させてもらうぞ。

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