闇魔法を使う聖女とはこれいかに
「――だから、僕が長年開発し続けてきた魔法の集大成を、君に授けたい。君ならきっと……使いこなせるだろうから」
大賢者ムラマサはそう言うと、ふいに両手を前方に掲げ始めた。
その瞬間、彼の両手がほのかな魔力を帯び始め、淡い光を放ちだす。
「ま、待ってください……!」
またしても話についていけなくなったのか、そんなムラマサにユキナが制止をかける。
「神様の力を持ってるとか、大賢者様の魔法を授かるとか……。あまりにも話が壮大すぎて、私には恐れ多いんですけど……!」
「ふふ、そう謙遜することはないよ。君ならきっと、僕の力を受け取れる……。そう確信してるからこその提案さ」
「で、でも……」
「……君もきっと、ここまでで痛感してきたんじゃないかい? ヒーラーとしてロアの役に立てることはあっても、それ以外のことだと頼りきりになっている。そのことについて、負い目を感じたことはゼロじゃないはずだ」
「あ…………」
大きく目を見開き、しゅんとするユキナ。
……おいおい、こいつそんなこと負い目に感じてたのかよ。
たとえ無自覚でもパーティー全体の強化をしているんだし、申し訳なく思う必要性はないんだがな。
けれど自身の能力がサポートに特化している分――その力を発揮できない場面は、どうしても歯がゆさを感じてしまうものか。
「ロアは優しいから、君にきつい言葉をかけないと思う。でも……みんながみんな、そういう優しい人ばかりじゃない。それは君が一番よくわかってるんじゃないかい?」
「…………」
そこで押し黙ってしまうユキナ。
訊ねずともわかる。
つい先日、ベルフやリースに追放された時のことを思い出してるんだろう。
「神様としての力は強大すぎるぶん、覚醒させるには時間がかかるんだよ。だからそれまでの間、僕の力を譲渡するだけさ。心配はいらない」
「おいムラマサ、そこまでにしておけ。こいつはパーティーを追放されたばかりで……」
「――――やります」
俺が制止に入ったのも束の間、ユキナが決意を称えた瞳でそう言った。
「ロアルドさんが守ってくれなかったら、今の私はいなかったです。だからすごく……歯がゆかった。あれからも私は守られてばかりで、本当はもっともっと、ロアルドさんの力になりたいって……‼」
「ユ、ユキナ……」
いつの間にかユキナは泣いていた。
いくら俺が「気にしなくていい」と言っても、こいつは優しいうえに大真面目だからな。
戦闘面では俺に任せきりになっていることに、劣等感を覚えても仕方ない。
なにせこいつは――パーティーの結成前から仲の良かった二人に裏切られているのだから。
「ふふ、その意気だ。……辛いこと言ってごめんね、ユキナさん」
そして毎回、こういう損な役回りをするのもムラマサだった。
……本当に不器用な男だよ、こいつは。
大賢者は俺に向けて一度頷きかけると、ユキナに向けて魔法の光を放出する。
シュオオオオオオオオオオオン……。
どこか不思議な音をたてながら、その光はユキナを包み込み、吸い込まれていった。
そして。
「あ…………」
その光がすべて彼女の中に溶けていった時、ユキナは自身の両手を見下ろした。
「すごい……。この力、本当に……」
「ふふ、実感できたようだね」
ユキナの様子を見て、大賢者ムラマサも満足そうに笑う。
「僕から詳しく説明しなくても、きっと君なら感覚で掴めると思う。この時代では失われている魔法も、ついでに付与しておいたから……」
「――――そこまでだ!」
「さんざん暴れおってからに、生きて帰れるとは思うなよ!」
と。
騒ぎを聞きつけたためか、《魔神再誕教団》の構成員たちがこの部屋に姿を現した。
今になって駆けつけてきたのは、おそらくさっきまで作戦会議でもしてたんだろうな。
合計で六名ほどの構成員たちが、うまいこと陣形を組んで俺たちの出方を伺っている。
「おやおやおや、良い当て馬が出てきたねぇ」
そんな構成員たちを見て、ムラマサが悪そうな顔を浮かべる。
「ユキナさん、せっかく僕の力を受け渡したんだ。ここは君の力で追い出してごらんよ」
「え、でも私の力じゃ……」
「ふふ、心配はいらない。なにせ君は今、大賢者の力を持ってるんだよ?」
ムラマサにそそのかれ、ユキナはちらっと俺を見つめてきた。
「……もしヘマがあっても俺がサポートする。遠慮なくぶちかましてこい」
「わ、わかりました」
ユキナはこくりと頷くと、ムラマサがそうしていたように、両手を構成員たちに突き出していく。
「え、えっと、それじゃあ……」
「――――あ、でもユキナさん気をつけてね。ちょっと気合を入れすぎて、君に渡した力はかなり強い。だから制御をしないとこの屋敷が……」
「デスブルード‼」
ムラマサがそう言い終わらないうちに、ユキナはなんと現代では失われたという闇魔法――デスブルードを発動する。
しかもたぶん、全力で。
「な、なんだこれはぁぁぁぁぁぁあああ……‼」
「嘘だろ、なぜこいつも失われた魔法を……!」
「やべぇ! 死ぬ! 死ぬぅぅううううう‼」
これは闇の可視放射が対象者に襲いかかるというシンプルな魔法だが――その恐ろしさに、敵陣営はもはや涙目になっていた。
なぜならこのデスブルードは、一度避けたり被弾するだけでは収まらないから。
対象者が死ぬまで何度も襲いかかってくるという、かなり凶悪な闇魔法なのだ。
「う、うおおおおおおおおおお!」
「な、なぜだ! なぜだぁぁぁぁぁああああああ!」
「ありえないぃいいいいいい!」
そうしてすべての構成員たちが気を失った頃には、この研究室は激しく荒れ果てていた。
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