おっさん、二千年来の友人と会う

「ば、馬鹿な……!」

「なぜ我らが、こんな中年などに……!」


 それぞれそんな捨て台詞を吐き捨てて、男たちは地面にうつ伏せた。


 無事に勝った……ようだな。

 さすがに一撃で倒せるとは思っていなかったが、まさにそれこそが《魔神剣エクズトリア》の威力。


 二千年前に使っていた剣よりも正直かなり強いので、中途半端な実力の持ち主では耐えきれなかったのかもしれないな。


「え…………?」


 そしてこの結果に真っ先に驚きの声をあげたのが、今回助けた女冒険者だった。


「嘘でしょ? あんなに強かった人たちを、たった一撃で……」


 いや。

 ちょっと待てよ。

 さっきまでは戦闘に意識を向けていたから、この女冒険者のことまで深く考える余裕がなかったが……。


 もしかしなくても、この冒険者は――。


「まさか……あなたはミユルさんです? Aランク冒険者の」


 変な汗をかきながらそう問いかける俺に、女冒険者はこくりと頷いた。


 やっべ。

 やっちまったぞ。


 年齢的なことはともかくとして、ランクはミユルのほうが圧倒的に上。

 そんな大先輩を前に、よもやタメ口をきいてしまうとは……!


「す、すみませんミユルさん。Cランクの分際でとんだ失礼を……」


「いえいえ、いいのですよ。今の戦い方を見るに、ロアルドさんは少なくともSランク冒険者並の実力をお持ちです。むしろ私が恐縮すべき立場でしょう」


「い……いやいや。決してそのようなことは」


 後頭部を掻きつつ、ハンカチで嫌な汗を拭う俺。


 あとが面倒くさいことになるので、ミユルのような実力者には勇者としての力を見せたくなかったんだけどな。

 ……まあ、さすがに今回ばかりは不可抗力か。


「それにしても、この人たち、結局何者なんでしょうか? 千年前がどうとか言ってましたけど……」


 ふいにこう話題を切り出したのはユキナ。


 ……そうだな。たしかにそれも気にかかるところだ。


 改めて周囲を見渡してみると、この部屋は奇妙なものがいくつも置いてある。


 本棚にびっしりと並べられた古書とか、資料が乱雑に散らばっているデスクとか……。それらはたぶん、生前のムラマサが遺したものだろう。


 だがその一方で、明らかにこの場に不釣り合いなものも存在するのだ。


「……千年もの時を超え、我らの確執は必ず果たしけり。――魔神再誕教団まじんさいたんきょうだん


 このように大仰に書かれた垂れ幕が、部屋の目立つ位置に置かれているのだ。


 ……しかも、言うに事を欠いて《魔神再誕》とはな。 

 まったくふざけた名前である。


「そうですね。実は私たちも、少し彼らを調べていたのですが……」


 沈黙する俺たちに、ミユルがそう切り出した。


「彼らが《魔神再誕教団》という組織に属していることはわかっています。そして構成員の何名かが、千年前に亡くなっていたはずの知識人であることも」


「な、なんだって……⁉」


 そりゃあいったいどういうことだよ。

 俺と同じく、時を超えて現代に蘇ったていうのか。


 たしかに全身がカクカクしていたことといい、《魔神再誕教団》の構成員たちはどこかこの世のものではない雰囲気があったが……。


「はは、訳わかんねえな。いったいなにが起きてんだか……」



「――――ま、安心してよ。その疑問は僕から答えてあげるからさ」



 と。

 ふいにどこからともなく声が聞こえてきて、俺を含めた一同がどよめきを発した。


「え、誰……⁉」

「どこにいるの?」


 ユキナとミユルがそんなふうに周囲を見渡すが、俺はこの声に聞き覚えがあった。


 いや――むしろ忘れるはずがねえな。

 こいつは当時の俺にとって、かけがえのない友人だったから。


「ふん、おまえのことだ。この時代でも生きていられるよう、また変な魔法でも開発してたんじゃねえのか」


 そう言いながら、俺は声のした方向に目を向ける。


「――なあ、ムラマサよ」


「ふふ、この一瞬で察したか。さすがだねえロア」


 そんな声とともに、どこからともなく姿を現したのは――。

 俺たちが探し求めていた人物、童貞ムラマサ・ヒューテストだった。

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