おっさん、優秀な素材をいっぱい手に入れる
「それで、いったいどうしたんだゼウス」
一気に後退し始めた古代龍ゼウスに、俺は純粋な疑問を投げかける。
「覚悟は決まってるかってのはなんだよ。なんか失礼なことしたか? 俺たち」
「い、いえ、そのようなことは…………‼」
でかい図体と野太い声でそう恐縮されるもんだから、相変わらずギャップが半端ねえな。
――古代龍ゼウス。
見た目は神聖な雰囲気を放っているものの、実はこいつはもともと大魔神の手下だった。
やたらと高圧的な態度を取ってきたり、俺の大事な剣をへし折ってきたり、とんでもない奴だったんだよな。
けどまあ、当時の俺は勇者と呼ばれていた男。
そんな古代龍をも一撃でぶっ飛ばした経緯がある。
――い、命だけはお助けくださいなんでもします……‼――
と平伏されたことから、もう人里で暴れないこと、ある条件を受け入れてもらうことで許したんだよな。
その条件がすなわち、俺の移動手段として働いてもらうこと。
こいつは移動速度だけはべらぼうに速いので、背中に乗れさえすれば、目的地がどこであろうとあっという間に到着するのだ。
当時は転移結晶なんて開発されていなかったし、それだけでかなり重宝したんだよな。
「りゅ、龍神様に恐縮されてる……! いったいどういうことですか……?」
「ほほほ。それだけロアルド殿がすごいお方ということじゃよ」
「普通の人じゃないとは思ってましたけど、ちょっとさすがにびっくりです……」
背後ではユキナとエスリオが変な会話を繰り広げている。
……というか、龍神様ってマジか。
現代では神様として尊敬されてんのかよ、こいつが。
「はは、ずいぶん偉くなったもんだなおまえも。まさかの神様扱いかよ」
「え、ええ。なぜだか私は人間たちに神と思われることが多く……! おそらくこの見た目からだと思いますが、ハイ、ハイ」
そうだ! と古代龍ゼウスが変な汗を掻きながら言う。
「せっかくなら、どうでしょう? 私の身体に埋め込まれているエメラルドストーンを、ロアルド様に献上しようかと思うのですが……。おそらく人間界でお金になるでしょうし、武器防具の素材になるやもしれません!」
「ほう……」
俺は顎をさすりつつ、後ろにいるエスリオに問いかける。
「婆さん、どうだ。この素材、武器防具の良い素材になると思うか?」
「そうですな。レナに聞いてみないことにはわかりませんが、あの孫なら涎を垂らして剣を作りたがると思います」
「……わかった」
俺はこくりと頷くと、古代龍ゼウスにちょっと無茶ぶりをしてみせた。
「したら、そのエメラルドストーンを出せるだけ出せ。最低50」
「か、かしこまりましたッ‼」
古代龍ゼウスはぷるぷると身体を震わせると、身体の各所にあるエメラルドストーンをぽろぽろと自身から引きはがした。
……力を入れるだけで外れるのか。
なかなかに便利だなそれは。
「あ、あの、ロアルドさん……」
と。
俺たちのやり取りを見守っていたユキナが、おそるおそると言った様子で俺に話しかけてきた。
「これはいったいどういうことですか……? ロアルドさん、神様と友達だったんですか……?」
「チ、チチチチチ、違います! ロアルド様のほうがむしろ神様ですハイ!」
それに答えたのはなぜか古代龍ゼウス。
……この様子を見るに、二千年前のことがよっぽどトラウマになってるようだな。
当時この古代龍は、大魔神を倒しに行こうとする俺に立ちふさがった。
しかも超大事な剣を折ってきたもんだから、俺としてもブチ切れるよな。あれは作るのにめちゃめちゃ苦労した剣だったのだ。
だから俺は激高して、古代龍ゼウスを本気でぶん殴った。
たった一発だけのパンチだが、それが古代龍にとって相当痛かったようでな。
勝てないと悟った古代龍が、「なんでもするから許してほしい」と命乞いしてきたのである。
あの剣、ドラゴンゲーテとは比較にならないくらいの強敵を倒しまくってやっと作った業物だったからな。
当時の俺も簡単には怒りが収まらなかったのである。
「ま、人生色々あるってことさユキナ。俺からはこれ以上言えねえが……」
「す、すごいですロアルドさん……。ベルフもリースも、ロアルドさんまで追放するなんて勿体なさすぎますね」
「いやいや。おまえが言うなって」
そんなやり取りを繰り広げつつ、古代龍ゼウスはすべてのエメラルドストーンを剥がし終わったらしい。
すべてかき集めてみると、合計で六十二個あった。
よく頑張ったほうじゃねえか、たぶんな。
「そ、それでロアルド様。今日はいったいどんなご用でしょうか……?」
「そうだな。ムラマサが住んでた孤島覚えてるか? そこまで連れてってもらいたいんだが」
「そ、それはもう超絶お安い御用でございます‼ さあさあ、早く私めの背中にお乗りくださいませ」
そう言ってヘコヘコしながら低姿勢になる古代龍ゼウス。
俺たち三人をみんな乗せてくれるようだな。
「だそうだ。ユキナにエスリオ、遠慮なく乗ってやれ」
「すごい。神様の背中に乗るなんて……!」
「ほっほっほ。長生きはするもんですのう……‼」
そうして俺たちは古代龍の背中に乗り――あっという間に、ムラマサが住んでいた孤島に到着するのだった。
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