ざまぁ回 ベルフの焦り
一方その頃。
「ぜぇ……ぜぇ……。やっと出られた……‼」
ロアルドを追放したCランク冒険者――ベルフ・ゼオータは、息もきれぎれにバルフレド洞窟から脱出した。
ダンジョン主たるドラゴンゲーテならいざ知らず、他に出没するモンスターは雑魚ばかり。強くてもDランクモンスターがいいところだったので、自分が苦戦を強いられる理由がまったくわからなかった。
それだけじゃない。
最近まではダンジョン探索など朝飯前だったのに、何度か戦闘を重ねるだけで疲労が溜ってしまう。自分は同世代と比べてスタミナがあるほうだと思っていたのに、そのプライドが一気にへし折られてしまった。
「はぁ……はぁ……。もう夜になってるじゃないの……!」
そしてこの洞窟に苦戦していたのは、なにもベルフだけじゃない。
恋人でもありパーティーメンバーでもある女――リース・ジェニファスも同様だった。
先日までは涼しい顔で大魔法をぶっ放し、そこいらのモンスターなど簡単に屠っていたのに……。
今では詠唱に時間がかかるわ、それでいて威力は弱いわで、まさに踏んだり蹴ったりの状態だったのである。
今回はたまたま調子が悪かっただけだと思いたいが、さっきまでのリースは、客観的に見て到底Cランク冒険者とは感じられなかった。
よくてDランク程度――場合によってはEランクと同格とさえ思えてしまったのである。
「おい、どうしたんだよリース。さっきまでのおまえ、リースらしくなかったぜ?」
「な、なに言ってるのよ。ベルフだって新米冒険者みたいな動きだったわよ?」
「なんだって……?」
「だってそうでしょ。ボーンナイトなんて、Cランク冒険者なら誰だって勝てる相手なのに……」
「…………」
正直むっとしてしまったが、さりとてベルフは反論の材料を持ち合わせていなかった。
――ボーンナイトなんて、Cランク冒険者なら誰だって勝てる相手なのに……。
これは実際にその通りだし、今までのベルフなら剣の一振りだけで勝てた相手だ。なのにこっちの攻撃はまるでダメージにならず、あまつさえ敗走してしまう始末。
この事実だけを並べたら、新米冒険者と言われても言い返せない状態だった。
「ま、まあ、いま言い争ってたって仕方ねえしな。一気に二人もいなくなったんだ、連携がうまく取れなかっただけかもしれねえし」
「そ、そうね……」
ぎこちない会話を繰り広げるベルフとリース。
二人がいなかったせいで、うまく連携を取れなかった――。
苦しい言い訳なのはベルフ自身もわかっているが、そうでも思わないと、精神状態をうまく保てないのだった。
だいぶ苦労してしまったが、パーティーのお邪魔虫だったユキナは無事に追放できた。一緒にむさいおっさんも追い出せたので、ここからは優秀なパーティーを作ることができるはず。
そうして俺たちは、一気に有名なAランクパーティーになってやるんだ……‼
そう意気込んだベルフは、近隣の村に寄って馬車に寄り、帝都に戻るのだが……。
そこでさらに、信じられないものを見ることになるのだった。
★ ★ ★
「お、おいおい……! なんだよこれ!」
「き、きっと何かの間違いよ……‼」
帝都のギルドに戻ったベルフは、そこに信じられぬものを見た。
――ロアルド・サーベント。ユキナ・エミフォート。S級モンスターたるドラゴンゲーテの素材をギルドに提供。その功績をここに表す――
そう。
魔法掲示板にでかでかと記載されていたのは、絶対にありえるはずがない文言だった。
無能ヒーラー、ユキナ・エミフォート。
冴えないおっさん冒険者、ロアルド・サーベント。
たったその二人だけで、あのドラゴンゲーテを倒したというのだ。
なにかのミスかと思って受付嬢に聞いたが、迷惑そうな表情を浮かべられただけだった。こんなしょうもないミスをするはずがない、ということだった。
「ば、馬鹿な……‼」
おかしい。
二人がパーティーからいなくなったあと、自分たちはボーンナイトさえ倒せなかったのに。
ロアルドとユキナのほうは、あのSランクモンスターを討伐できたってのか……?
ありえない。
そんなことがあろうはずもない。
「ベルフ、これはまずいんじゃない……?」
不安そうにリースがそう言ってくるが、もちろんベルフも彼女と同じことを考えていた。
今回、ベルフたちは秘密裏にユキナを殺そうとした。
せっかくパーティーの名声が高まりつつある今、一方的に仲間を追放してしまうのは外聞が悪い。
特にベルフ・リース・ユキナを幼馴染だと知っている人間からすれば、ベルフに悪印象を抱くのは必然だろう。
わざわざダンジョンの奥地でユキナを放置したのはそのためだ。
なにしろダンジョン主はSランクモンスターだからな。今のベルフたちでは勝てなくても仕方ないし、そのせいで戦死した仲間がいてもおかしくない。
だから自分たちの評判を損なわないよう、裏でユキナを始末しようとしたのに――。
こうしてドラゴンゲーテを倒されてしまったんじゃ、その計画は文字通り失敗したことになる。それどころか、ベルフたちが非人道的な策謀を行ったとして、逆に陥れられてしまう可能性さえあるわけだ。
「す、すごい、ドラゴンゲーテを倒したって……?」
「しかもたった二人で? すごすぎない?」
「あれ、でもこの二人って、もともと四人パーティーに入っていたような……」
ギルド内では、魔法掲示板での内容について、早くも噂話が起こり始めている。
すべての者がロアルドとユキナを絶賛する一方、なぜ二人なのかと疑問視する声が一番多かった。
「まずい。どうにかしなくては……‼」
生まれて初めて、ストレスによる胃痛を感じるベルフだった。
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