最強パーティーの誕生

 その日は小屋の中で一晩を過ごすことになった。

 年季の入った建物ではあるが、中は結構広いからな。俺とユキナが睡眠を取る分には、いたって何の問題もなかった。


 ベルフから追放されて、ザバルから大魔神の剣を受け取って――。


 ここ一年間では類を見ない急展開が続いているが、むしろベルフのパーティーにいた時より充実していた気がする。

 ベルフもリースも、パーティーが名を上げ始めた時から傲慢さが目立つようになっていたからな。


「すや……すや……」


 隣で寝ているユキナも、心なしか以前より表情が和らいでいるようだ。


 こんなおっさんとの旅が嫌じゃなければ、今後も一緒に過ごしていってもいいかもしれないな。他の二人はともかく、ユキナとは以前から話がしやすい相手だったし。


 つーか、年頃の娘なんだから、本当はおっさんと一緒に寝るのは嫌なはずなんだが……。


 と。


「…………ん」


 俺はふいに上半身を起こし、周囲の気配を探る。


 いま一瞬だけ感じた邪悪な気配。

 気のせいということはありえない。

 俺たちに向けて、明らかな敵意が向けられていたからだ。


「ロアルド様、お気づきになりましたか」


 数秒遅れて、老婆――エスリオが俺に近寄ってきた。


「ああ……。あんたも感じたか」


「ええ。ロアルド様も同じ気配を感じたのであれば、もはや気のせいではありますまい」


 そう言って、エスリオはバトルアックスの柄部分を肩部分でとんとんと叩く。


「私のほうで様子を見てきます。ロアルド様もよければおともしましょう」


「そうだな。そのほうがいいだろう」


 もちろんユキナは寝かせたままのほうがいいな。

 俺とエスリオがいれば充分に勝てる戦いのはず。無駄に起こすことはあるまい。


 そう判断し、俺はエスリオとともに小屋の外に出るが……。


「な、なんだあいつらは……」


 その瞬間、俺は思わず目を見開いてしまった。


 思っていた通り、小屋の周囲には数名の不審者がいたが――その外見がなんとも不気味だったのだ。


 漆黒の鎧に身を包み、逆手にタガーを持ち。

 終始顔をうつむかせ、身体の節々が不自然に曲がっているのである。例えるならば、天井から吊るされている操り人形のごとき挙動だった。


「おい婆さん。この山には、こんな気味悪い連中がうろついてんのかよ」


「そんなまさか。私もこんなのは初めて見ましたわ」


 ……なるほど。

 ってことは、俺たちを狙ってきたってことか。

 よくわからねえが、だいぶきな臭え連中だな。


「せっかく武神様と出会えたというのに、この不躾な来訪……。万死に値しますな」


 エスリオはそう言ってバトルアックスの柄で自身の肩をトントンすると、

「早々に蹴散らしてきます。あっちのほうの獲物だけもらってもよろしいでしょうか」

 と言った。


 婆さんが指差したその方向には、五名ほどの不審者がいる。


「あ、ああ……。構わねえが」


「ありがとうございます。さっさと蹴散らしてきますので」


 エスリオはそう言うなり、猛スピードで敵陣に突っ込んでいった。


 おいおい、クソ速いな。

 やっぱりベルフとは比べ物にならないぞ、これは。


「ウオッ、ナンダキサマハ……!」

「はははははははは! ワシに刃を向けたことを後悔するがいい!」

「ババアノクセニツヨイ……‼」


 ……ああ、あっちは問題なさそうだな。

 不審者よりも俊敏な動きでバトルアックスを振り回しているので、相手に攻撃する隙すら与えない。現にもう、五人のうち二人が片膝をついている状態だ。


 なのでエスリオのほうは任せても問題ないと思うんだが――。


「なんだか妙だな……」


 全身に少しだけ気怠さがある。

 さっき《魔神剣エクズトリア》を受け取った時は何も感じなかったので、この剣の影響ではないと思うが――。


「あ、あれ。皆さんどうしたんですか?」


 ふいにパジャマ姿のユキナが外に出てきて、俺は思わず目を見開いた。


 しまった。

 無理に起こすまいと考えていたが、こんな近くでドンパチやってる以上、さすがに勘付かれてしまったか。


「気にするな。俺たちのほうでさっさと対処を――って、ん?」


 そこまで言いかけた瞬間、俺は無意識のうちに自身を見渡していた。


 気怠さがなくなった。


 いや――。

 正確に言えば、さっきまでの気怠さがたぶん俺の通常状態だ。もうすぐアラフィフのおっさんが、睡眠を妨害された挙げ句戦うことになってるんだからな。


 それがユキナが来た途端に、その疲れが消え失せた。


 ――――今までもそうだった。


 古の力を抑えて戦う以上、以前までの俺には大きな制約が課せられていたはず。

 それでもCランク冒険者としてそれなりにうまくやれていたのは……もしかしたら。


「ユキナ……。おまえ今、なにか魔法かなんか使ってるのか?」


「へ? い、いえ、何も……」


「は、はははは。そうかよ」


 やべえな。

 俺も現代ではぶっ飛んだ力を持っていると自負していたが、こいつもなかなかなもんだぞ。


「うおおおおおおお! なんじゃこれは!」


 エスリオも同じような恩恵を受けているのか、さっきよりも軽快な動きで不審者を蹂躙している。さっきまでの婆さんも充分強かったが、それがわかりやすく強化されているな。


 ――ある程度まで疲れを癒したところで、パーティーメンバーの力を底上げする――


 もしユキナが無意識にこの力を使っていたのだとしたら、今ごろベルフやリースは大変なことになっているんじゃないのか……?


「ギャギャギャギャギャ……!」


 と。

 そんな思索に耽っているうちに、五名の不審者に囲まれてしまっていた。


「ロ、ロアルドさん! 大丈夫ですか⁉」


「ああ、問題ない。気にするな」


 ユキナの叫び声を受け止めつつ、俺は不審者たちを神速で斬りつけていく。

 ユキナが来た以上、呪いのことは無視した上で、古の力を解放できるからな。せっかく強い剣を手に入れたので、どうせならその強さを確かめておきたいところだった。


「クオ……!」

「カハッ…………!」


 不審者たちは俺のスピードを認識さえできず、いいように斬られていく。


 そして――。


「ユキナ。悪いが抱っこさせてもらうぞ」


「えっ…………?」


 すべての不審者を斬りつけた後、俺はユキナを抱えつつ、数メートル離れた位置に着地。


 その瞬間――ズトォォォォォォォォオオオオン‼ と。

 不審者たちを起点にして大爆発が発生した。


「ギャアアアアアア!」

「グオァァァァァアアアアア!」


さすがにこれにはたまらなかったか、連中は一瞬で帰らぬ人となった。


 破砕魔剣はさいまけん――。

 かつて大魔神が使っていた、「斬撃」と「爆発」を同時に実現する高火力技だ。

 これを使えるようになったのはもちろん、《魔神剣エクズトリア》の恩恵である。


「よし、討伐完了じゃ!」


 少し離れた位置では、エスリオが最後の不審者にトドメを刺していたし――。

 これはなかなかやべぇパーティーが誕生したのではないかと、俺はそう思い始めていた。

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