おっさん、思わぬ仲間を迎え入れる

 その後、レナはすぐに装備の生成に取り掛かった。


 ザバル直伝の鍛冶技術を用いた瞬間、前までは全身に激痛が走っていたらしいけどな。だが今はユキナがいるので、たとえ痛みが発症したとしても、ユキナに治癒してもらえば問題ない。


 以前バルフレド洞窟を抜けた時とまったく同じやり方で、レナとユキナとで最高の装備を作り上げていた。


 ……それにしても、やっぱり不思議だよな。

 現代の魔物とは別次元の強さを持つ強敵――大魔神エクズトリア。

 俺やザバルの末裔でさえ解けない呪いを、彼女はやすやすと緩和している。


 本当に、いったい何者なんだか……。


「して、ロアルド殿よ」

「ん?」


 俺がそう考え込んでいると、ふいに老婆が話しかけてきた。


 ちなみにレナとユキナが席を外している現在、部屋には俺と老婆しかいない。ありがたいことに、簡単なお菓子と飲み物を持ってきてくれたが――気まずい沈黙が流れている状態だった。


「ユキナ殿が離席しているのだ。もし可能なら、遠慮なく答えてもらいたいのだが……」


「…………」


 その長い前置きに、俺は次に投げかけられる質問をなんとなく予期した。


「あなたは……伝承に伝わる武神ロアルド・サーベント本人ではないかね?」


 はは、すげえな。

 常識的に考えりゃ、そんなことはありえないと思うはずだけどな。


 見たところ、もう還暦は超えてそうな婆さんだ。

 しかもザバルの家系に嫁いでいるとなれば、常人には見えないものが見えるのかもしれないな。


「……そうだ。大魔神エクズトリアを倒した、かつての勇者ロアルド・サーベント……。それが俺さ」


「なるほど。やはりそうでしたか・・・・・・・・・


 正体を明かした途端、老婆の口調が丁寧になる。


 しばらく眠っていたとはいえ、生まれた時代は俺のほうがはるかに古いからな。別にタメ口で話されようが全然気にしないが、老婆としてはそうは思わないのだろう。


「申し遅れました。私の名前はエスリオ・ディスティーナ。あなた様の伝承に憧れて、今でも現役で斧を振り回しているババアでございます」


「…………は?」


 なんだ。

 どんな話が始まるのかと思いきや、いきなり物騒な話になってるんだが。


「そ、それがどうしたんだ?」


「簡単なことでございます。私はずっと武神様に憧れて斧の腕を磨き上げ続けてきました。そしてそれは現在も継続中なのです」


「……たしかにさっき、重そうなバケツを余裕で持ってたもんな」


 しかし、なんで剣じゃなくて斧なのか、そこがわからない。


「ええ。ですからさっきのお詫びも兼ねて、私にもあなたの旅に同行させてください。決して足手まといにはなりませんぞ。ほら、このように……‼」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!

 ドドドドドドドドドドドドドド‼


 老婆――改めエスリオが力を込めた瞬間、この小屋そのものが激しく揺れ始める。


「お、おいおいおい……」


 嘘だろこんなの。

 あのベルフなんか目じゃないくらいに強いのは確実。


 つーか、Aランク冒険者……いや、Sランク冒険者にも張り合うくらい強いんじゃねえのか?


「ほっほっほ、実は私が旦那と知り合ったのもこれ・・がきっかけだったのですよ。ロアルド様に心酔し、得意武器たる斧を極めている酔狂な女……。そんな私に一目ぼれなさったんだそうです」


「わ、わかったわかった。だからもう力をおさめてくれ」


 やべぇな。

 変人の家系には、同じく変人が集まってくるってか。


「あ、ありがたい申し出だけどな。俺は別に旅に出てるわけじゃないぞ。ただユキナの願いを叶えてやりたくて……」


「ならば、私を雑用にお使いください。料理掃除洗濯皿洗い……なんでもできますぞ‼」


「……し、しかしレナは」


「ユキナ殿が症状を治めたのじゃ。もう心配はいらないでしょう」


「…………」


「ふふ、大丈夫ですぞ。私はすべて把握しておりますじゃ。もし若き女子おなごと夜をともにする際、邪魔であれば私は静かにお暇を……」


「わ、わかったわかった。皆まで言うな」


 まさかこんな展開になるとは、いったい誰が予想していただろうか。


 しかしまあ、もし今後ユキナとパーティーを組むのであれば、せめてもう一人くらいメンバーが欲しいのは事実だった。


 俺は呪いのせいで本来の力を発揮しにくい。

 そしてユキナは、現時点では解呪以外はあまり強くない。


 ここがうまく噛み合えば最強の二人組になるだろうが、まだバディを組んだ今のうちは、安定した力を出せるメンバーがほしかった。


 その点、この婆さんはうってつけなのだ。

 めちゃくちゃ強そうだしな、よくわからんが。


「ロアルドさん、できましたよ‼」


 そんな会話を交わしている間に、ユキナとレナが部屋に戻ってくるのだった。

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