おっさん、二千年前を懐かしむ
「すまなかったのう……二人とも」
――数分後。
さっきまであんなに刺々しい態度を取ってきた老婆が、俺たちに深く頭を下げてきた。
「レナがかかっていた病気は、代々ワシらに伝わる“呪い”のようなものでな。許しておくれ」
「呪い……」
オウム返しに訊ね返す俺に対し、老婆は
「うむ」
と頷いた。
「先代の鍛冶技術を引き継いだ者は、例外なくその呪いにかかる。はじめはちょっとした痛み程度だったものが、少しずつ全身にまで広がっていっていくんじゃ」
「…………」
こりゃあ徹頭徹尾、俺の症状と同じだな。
大魔神にかけられた呪いは、少しずつその痛みを増していっている。
ドラゴンゲーテを倒した時だって、ユキナがいなければ気絶していたかもしれない。前まではちくっと胸が痛む程度だったのにな。
「ワシの旦那も息子も、その呪いに今も苦しんどる。そのうえ大事な孫――レナまで同じ症状になってもうたら、もうどうしたらいいか……」
「いやいや、無理もねえさ。俺たちのほうこそ、無理に家に入って悪かったな」
老婆の心労を思えば、多少つっけんどんな態度を取られたとて、不快に思うことはない。
他の家族がどこにいるのかはわからないが、その人たちも治療してもらったほうがいいかもな。
「そうだ」
ややあって、レナが俺たちを見渡して言った。
「私を訊ねてきたくらいです。もしかしたら、あなたたちの目的は……」
「はは、察しがいいな」
俺は後頭部を掻きながら、彼女からの質問に答える。
「そうだ。こいつの――ユキナの防具を作ってもらいたい。素材ならここにたんまりあるからな」
「なるほど、ドラゴンゲーテの……。たしかに良い防具が作れそうですね」
布袋の中身を見せた途端、レナの目つきが文字通り変わった。
目をキラキラ輝かせて、欲しかった獲物をついに見つけたかのような――。
そんな表情だったのである。
……ああ、たしかにこの女は変態鍛冶師の末裔だな。当時のあいつと顔がよく似ている。
「そうじゃ。あんた……名前をロアルドといったんじゃなかったかな」
突如そう切り出したのは老婆。
たしかにさっきはそう名乗ったが、いったいなんなんだ?
「実は先代が遺した遺書が代々語り継がれていてな。え~と、たしかこのへんに……」
そう言って老婆は部屋の押し入れを開けると、そこから小さな小箱を取り出した。
そのなかには一つだけ封筒が入っていて……ザバル・ディステーナと乱雑に書かれていた。
「ザバル・ディステーナ……」
忘れもしない。
俺の剣を作り上げた、変態鍛冶師の名前そのものだ。
「…………」
懐かしむようにザバルの名を呟いた俺を、老婆は一瞬だけ見やると。
封筒の中から一枚の手紙を取り出し、その文面を読み上げた。
「――もしロアルド・サーベントが、呪いを癒すヒーラーをともなって姿を見せた暁には、秘伝の素材を作って剣を作れ。その人間にとって必要なものだ……。だそうじゃ」
「な、なんだと……?」
いったいどういうことだ。
ザバルの野郎、未来を見通してやがったのか。
あいつにはそんな特殊能力はなかったはずだが――俺の知らない“なにか”を、あのおっさんが掴んでいたってことか。
「いったいなんでしょうかね……。意味深すぎて、ちょっとよくわからないですけど」
今まで黙って話を聞いていたユキナが、ぼそりとそう呟いた。
「はは、しょうがねえさ。あいつは昔からそういう奴だった」
「…………え?」
「レナって言ったか。その秘伝の素材って、いったいなにかわかるか?」
「ええ、もちろん存じております」
レナはそう言って一呼吸置くと、俺とユキナを見渡して言った。
「――――大魔神エクズトリアから採取した秘蔵の素材。ロアルド・サーベントさんが来た時には、それを用いて最高の剣を作ってほしいということです」
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