ざまぁ回① 充実したセカンドライフを送るおっさんと、落ちぶれ始めたベルフたち

「ここか……」


 ――ルーマス村。

 俺たちが辿り着いたのは、広大な緑の広がる村だった。


 木造建築がぽつぽつ点在しているくらいで、あとはすべて緑、緑、緑。

 時おり頬を撫でていく温風や、放牧されている動物の鳴き声など……。

 帝都とは何もかもが違う、のどかな光景が目の前に広がっていた。


 いや、いいね。

 最高だよ。

 隠居を決め込みたい身としては、こういう場所に移住できたら最高だ。


 一年間パーティーに在籍していたおかげでそこそこ金も貯まったし、もう本気でここに移住してしまおうか。

 

 俺がそんなふうに考え込んでいると、

「ロアルドさん、こういう村が好きなんですか?」

 とユキナが下から覗き込んできた。

 

 むにゅ、と。

 ……その際に柔らかい胸が当たっているのは、やっぱり確信犯だろうか。


「そうだな。こういうところに住めれば最高だと思ってる」


「なるほど、そうなんですね。参考になります」


 参考になります……?

 なにを言ってるのかさっぱりわからんが、やはり追放されたことがよほど精神にきているんだろうか。


 俺のようなおっさんがユキナみたいな美少女と一緒にいるのは良くないが、しかしこのままでは、ユキナがまたどんな目に遭うかわからない。


 その意味ではやはり、彼女と離れるのはよくないか。


 ……ひとまずは冒険者ギルドに行って、さっきのドラゴンゲーテの素材でも売るとしよう。

 武器防具の素材に使えそうな素材についてはもちろん、とっておくことにするつもりだ。


「ほれ、ユキナ」


 俺はそう言うと、ドラゴンゲーテからはぎ取った素材の一部を彼女に渡す。

 もちろん量が多すぎるので、布袋に入っている状態ではあるが。


「え、こ、これって……?」


「ドラゴンゲーテの素材だ。そういや俺だけが剥ぎ取ってたからな。これでちょうど半々だろ」


「そ、そんな……! 受け取れないですよ!」

 しかし一方のユキナは、勢いよくその布袋を突き返してくる。

「ドラゴンゲーテを倒したのは全部ロアルドさんの実績じゃないですか! それなのに、私だけが受け取るなんて……」


「そりゃたしかにドラゴンを倒したのは俺さ。けど、その後ダンジョンを無事に出られたのは……紛れもなくユキナがいたおかげだろ」


「あ……」


「だから遠慮なく受け取れ。これは俺とユキナの功績なんだから」


「……ぐずん」


 は?

 なんか急に泣き出してるんだが。


「おいおい、急にどうした?」


「だって、私ずっと邪魔者扱いされてたから……。ベルフもリースも、私は何もしてなかったからって、私にはあまり報酬をくれなかったから……」


「…………」


 なるほど。

 そうか。そういうことか。


 俺はなるべく三人の輪には入らないようにしてたんだが、そんな卑劣なことが行われていたとはな……。

 そりゃ傷つくよな。


 俺はしがないおっさんに過ぎないが――やっぱり、このまま彼女を放っておけねえな。


「気にするな。それはベルフたちが異常だっただけ。おまえはずっと頑張ってきたんだから、もっと自信持ってもいいと思うぞ」


「う、うわあああああっ!」


 そう言って俺の胸に飛び込んできたユキナを、俺は黙って受け止めた。


★ ★ ★


 一方その頃。


「ぜぇ……ぜぇ……。い、いったいどういうこった……?」

「わ、私に聞かないでよ……!」


 ベルフとリースは、いまだにアウストリア洞窟のなかで立ち往生していた。

 

 転移結晶を使って、洞窟の外に出たところまでは良かった。


 しかしやはり、しがないおっさんと無能女の最期を目に収めたい――。

 新たな門出を決め込む身としては、あの二人の死をしっかり確認しておきたい――。


 そんな気持ちが高ぶった結果、ベルフはリースを引き連れて戻ることにした。

 

 もちろん、それでドラゴンゲーテと戦うことになっては意味がない。

 だから最深部をちらっと見たら帰ろうかと思ったのだが――。


 魔物たちが、異様に強くなっていた。

 いや、正確にはベルフたちが弱くなっていた。


 道中を阻む魔物たちを突破することもできず、引き返そうとしたとて背後の魔物を倒すこともできず……。

 

「ぎ、ぎゃあああああああ!」


 骸骨剣士――ボーンナイトの剣をまともに喰らい、ベルフは情けない悲鳴をあげる。

 なんとか急所だけは免れたが、もう少し運が悪かったらやばかったぞ……?


「ちょ、ちょっとベルフ! なにやってるの!?」


 背後では、魔法を放つ準備をしていたリースが苛立ったような声を発していた。


 ――が、弱体化したのは彼女も同じ。

 長時間かけて準備していた炎魔法を、ボーンナイトの胴体に浴びせるも――。

 

 シュボッ、と。

 まったく傷を負わせられなかったのである。

 

「お、おまえこそなにやってるんだ! 初級魔法なんか打ってる場合じゃないだろ今!」


「う、うるさいわね……!」


 意味がわからない。

 どうしてこうなった……?

 まさかとは思うが、ユキナかロアルド、どっちかが関係しているのか……?


「くそ、とりあえず撤収するぞ! 急に本調子を出せなくなったようだ!」


「お、おーけー!」


 そう言って、ベルフたちはD級モンスター……ボーンナイトを相手に、情けなく逃走をはかるのだった。

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