おっさん、なぜだか美少女に惚れられる

 ――終わった。


 ドラゴンゲーテはもう身じろぎひとつしていない。


 いかにS級モンスターとして恐れられている魔物といえど、二千年前と比べれば、もうほとんどの魔物が弱体化している。あまり汚い言葉を使いたくはないが、現代のモンスターはみな「ザコ」ばかりだった。


――――


ロアルド・サーベント レベル9999 称号:時の勇者


物理攻撃力:99999

物理防御力:99999

魔法攻撃力:99999

魔法防御力:99999

俊敏性  :99999


 状態:大魔神の呪い付与


――――


 こんなふうに、もうすべてのステータスがカンストしてしまっている。


 翻って現代の魔物たちは、ステータスのどれかが五桁に入っていればいいほう。

 このドラゴンゲーテだって、物理攻撃力が12000あるくらいで、他のステータス四桁後半だったはずだ。


 負ける道理などあるはずもなかった。


 ――――ひとつ懸念点があるとすれば、ひとつ。


「ぐっ…………!」


 急に胸部に突き刺すような痛みが発生し、俺はその場にうずくまった。


 そう。

 これが大魔神のかけたもうひとつの呪い・・・・・・・・だ。


 勇者としての力を発揮した途端、全身に焼けるような激痛が走る。俺に倒されたことがよほど悔しかったのか、まったくとんでもない置き土産を残してくれたもんだよな。


 だから俺が自分の力をセーブしているのは、なにも面倒だからというだけじゃない。


 この激痛を回避するために、無駄に全力を出さないようにしている――。


 それが俺の本音だった。


「ぐうっ……!」


 つうか、やべえな。

 前に全力を解放した時よりも、よほど痛みが増している気がする。

 このままじゃ……。


「だ、大丈夫ですか?」


 と、ふいに。

 いつの間に拘束魔法が解けたらしいユキナが、一生懸命に俺の背中をさすってきた。


「すごい苦しそうです! 毒ですか? 麻痺ですか?」


「き、気にするな。なんでもねえ……」


「嘘言わないでください! ロアルドさんは命の恩人なのに、こんなの、こんなの……!」


 そう言って涙を流すユキナ。


 ……ほんとに優しい娘だよな、こいつは。

 こんなくたびれたおっさんの心配をしてくれるとは。


「気にするな。これは呪いだ。毒解除の魔法も、麻痺解除の魔法も……。そこいらの魔法じゃ治せねえんだよ」


「の、呪い……?」


「ああ。だから気にするな。いずれ治る」


「いえ、それだったら・・・・・・治せるかもしれません」


「は…………?」


 俺が目を見開いた、その瞬間。

 ユキナは俺に向けて両手の平をかざすと、うっすらと淡い光を発し始めた。


 その光が俺の胸部に吸い込まれ、溶けていく。


「おい、だから魔法じゃ治せ……ねぇ……って……」


 語尾があやふやになっていったのは、たしかに痛みが引いていったからだ。


 正確には《痛みが和らいだ》程度だけどな。

 それでも彼女のおかげでだいぶ楽になったのは疑いようのない事実だった。


「おまえ……どこでその力を……」


「……わかりません。でも生まれた時から、ずっとお爺ちゃんに言われてきたんです。私はヒーラーとしての才能があるから、絶対にその道を目指してほしいって」


「……はは、どういうことだよ。才能があるってレベルじゃねえだろ、それ」


 なんといったって、あの大魔神の呪いを緩和してみせたんだぜ?


 たしかにベルフ率いる冒険者パーティーでは足手まとい感はあったものの、こっちのほうがよっぽどすごい。


 かの大魔神は、現代にはびこっているモンスターどもよりよっぽど強いのだから。


 その大魔神に対抗しうる力を持っている人間なんて、現代ではほとんど残っていないのだから。


「つーか、おまえ何者だよ。どうしてそんな力があるんだ」


「んー……。普通の家だと思うんですけど、お爺ちゃんがあまり詳しいこと教えてくれなくて」


 ユキナはそう言うと、じいっと俺を見つめてきた。


「それを言うんだったら、ロアルドさんこそさっきのはなんですか? ドラゴンゲーテを瞬殺してましたけど」


 ぎくっ。


「はは、その、なんだ。なんとか脅威は去ったが、これで一件落着ってわけじゃねえ。昔、俺のダチが言ってたんだよ。一時の成功に浮かれ油断している時が一番危ない――ってな」


「……それ、大賢者ムラマサと同じ言葉ですね。学校では習いましたけど、日常ではそんな言葉聞きませんよ」


「…………」


 やべえ。

 墓穴掘った気がするぞ。

 ってかあのクソ野郎、俺と同じ童貞のくせに教科書載りやがったのか。


 なかなかやるじゃねえか。


「……でも、これ以上は詮索しないです。ロアルドさんは命の恩人ですから」


 と。

 嫌な汗をかいていた俺に対し、ふとユキナが天使の笑みを浮かべた。


「ありがとうございました。ロアルドさんがいなかったら、いまごろ私、この世にいなかったです。本当にありがとうございました」


 そう言ってぺこりと頭を下げるユキナに対し、俺はまた、彼女の頭をぽんぽんしてみせるのだった。













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