第49話 不死山
『百鬼夜行』に導かれて、着いた
場所は、まさかの東京国際空港。
つまり出発地点に戻って来た、と
いう事になる。
異界を通って来ている訳だから
それもまぁ、ない訳じゃないけど
乗客は《まさにこれから離陸する
時に何かしらのトラブルがあって
待たされている》と思ってる
みたいだった。
それは太田が得意の『結界』と
咒で、時空や記憶や諸々の辻褄を
合わせてくれた事による。
それにしても
あの神は一体どうして。
分室に戻った私たちは、神からの
要求 に対する策を協議していた。
国ちゃんの親父さんの手術は成功
したものの、未だ意識のない状態に
ある今。実質、御厨が総括という
立場になる。
そして急遽、モニターを使った
全国的なWEB会議が展開されて
いるのだが…。
この時点で既に 神 から宣言
された回答期限を一時間ほど
費やしていた。
「…すみません。僕がもう少し
押せれば良かったんですが…。」
辻浦が申し訳なさそうに言う。
会議はWEBだったが、出席者は
全員 彼を認識しているだろう。
「いえ、あれがベストでした。寧ろ
神に妥協させた事は奇跡と言える。
下手にやり取りせず持ち帰ったのは
賢明でしたよ。
それよりも、あの『蔭御霊』の
要求内容です。『國御霊』に会うと
言うのも、単に四方山話をしたい
訳でもないでしょうからね。」
私も御厨の言葉には同感だったが
相手は 神 なのだ。人は矢鱈と
理由 を求めてしまうけど、神に
それが当て嵌まるかどうかは
わからない。
それよりも。
「それはそうと、何であの神は
アタシ達の前に顕現したんだろう?
富士の『國御霊』にハナシを付け
易いとか思ったのかな?」
つい、疑問が口をついて出る。
「いえ。それは私が居たから。
そうですよね? 御厨室長。」
突然、国ちゃんが爆弾発言をした。
今までずっと黙っていたのは神気に
当てられたせいだとばかり思って
いたんだけれど。
「それどういう事?」「ごめん。」
「謝るトコじゃないよ。それより
何で国ちゃんがいると神様に襲撃
されなきゃいけないのよ?」
「それは!」御厨が引き継ごうと
慌てるが、それを国ちゃん柔わりと
制する。
「さっき、機内で聞いたんです。
私の中に 座す 御方から直接。
それに。私には今、辻浦さんも
太田さんも見えています。」
「顕子さん…?!」
「有難うございました、御厨室長。
もう大丈夫です。私の咒は、既に
解かれています。」
余りにも凛とした表情だった。
逆に、御厨の方が情けないぐらい
動揺を隠せないでいる。
「私は今まで、何も知らずに生きて
来ました。多分、皆様の方が経緯を
ご承知だと思いますので、詳細は
割愛します。
飛行機の中で私は『蔭御霊』に
呼ばわれました。それが私の中の
『國御霊』を呼び覚ました。
同時に非常に膨大な情報共有と
最適化が為されたのです。」
そう言うと、国ちゃんは小さく
息を吐いた。
相当に疲れたのだろう。元々、
色白の彼女の顔が更に白い。
会議は彼女に釘付けになっている。
そもそも、彼女の中に『國御霊』が
座すなど想像も出来ない事だ。
「話の途中でゴメンなんだけど。
『國御霊』って、富士山に
居るんじゃないの?」
「今世紀。丁度、父の國護篤胤の
代に当たった加護命の『封じ直しの
儀』に於いて。」
国ちゃんが私に目で頷きながら
続ける。質問への答えというより
モニターを介した全員に対して。
「ご承知の方も多いと存じますが、
その儀式の際に。母は自らの命を
対価に『國御霊』と契約を期した。
荒ぶる御霊の分霊を私に施す事で
御本軆には富士の『封』へとお戻り
頂いた訳です。
当時の惨状をご記憶の方も少なく
ないかと思いますが。」
国ちゃん、遂に『お母さん』の事を
思い出したんだ。
偶に見ていた 悪夢 は、その
記憶の片鱗だったのだろう。
辛い記憶かも知れない。
それでも彼女の表情は清々として
瞳には 強い意志 が見て取れた。
「『蔭御霊』が何故、今こちらの
世界に戻られたのか。その理由は
わかりませんが、切掛は神門阜に
ありました。
『蔭御霊』は『國御霊』の妹。
鏡の様に対称であり背中合わせに
存在している。この神々の邂逅が
どれだけの影響を及ぼすのか。
国土に於ける『封』への影響も
併せて考えると予測は決して楽観
できるものではありません。
この場をお借りして、一つ提議を
したいと思います。」
国ちゃんの発言は、WEBを介して
会議出席者全体へと流れたが、
それは大きなザワつきとなって
揺り戻された。
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