第42話 焉極
ここ暫くは何かと忙しくして
いたが、その日は久々の非番が
ひづると被っていた。
以前から休みがよく被る私達は
お陰で交友を深める事となり
今の信頼関係が出来上がったと
言えるだろう。
そして昨日の夜から、ひづるが家に
泊まりがけで来ていた。
私が御厨と面談していた時。何と
彼女は 三門優也 に接見して
いたというのだ。
眷属となった太田と辻浦が
一緒と知って安堵はしたものの、
その三門が病院に移送された事に
私は驚きを隠せなかった。
ましてや、彼が負わされていた
もの、そして『封』の緩みや
茲許の異常な『凶事報告』に係る
全ての 根源 が、何か一つの
恐ろしい モノ に集約して行く
様は、私が忘れかけていた
漠然とした恐怖を呼び覚ました。
「朝ごはん、トーストと適当な
ワン・プレートでいい?」
「何でもいいー!じゃあアタシが
コーヒー淹れるよ。」
まるで心煩う事など何もない様な
平和な日常。その一つひとつを
私はしっかりと記憶に残していく。
それは、習い性になっている。
「ねぇ、国ちゃん。そう言えば
あの後の会議で、イケオジ見たわ。」
若干遅めの朝食を摂りながら、
ひづるが言った。
会議とは、三門優也の一件から
急遽、集められた『三塔会議』の
事だ。通常は四半期に一度の
定例で、儀礼に則って奈良で行う。
今回は緊急の招請が掛かり、
御厨の執務室で行われたという。
当然、父も来ていた。
「イケオジ? 簶守の凪啓さん?」
「多分、違うよ。それ国ちゃんの
親父さんの配下の人だよね?全然
イケテナイじゃん。」「確かに。」
「何ていうか。もっとこう、渋い
男前な? オッサンだけど。」
ひづるが言うぐらいだから、多分
かなり目を惹くのだろう。
「…そもそも私、あまり家業の
方面は。」正直言って、知らない
人の方が圧倒的に多い。
「マジか。イケメン室長が霞んで
見えたわ。名前ぐらい聞いときゃ
良かったな。」
そんな話をしていた所で携帯に
着信がきた。
御厨忠興
「国ちゃん、電話。鳴ってるよ。」
「あ、あぁ。うん。」
「なにサガってんのよ。誰から?」
「室長。」「…うぇ。マジか。」
仕方なく通話を押す。
御厨からの連絡は、休み中に大変
申し訳ないが、折り入って話があり
今日でないと色々都合が悪いので、
出て来られないか、と。
「それって、ヤバいじゃん!ナニ
その訳あり気な呼び出し方は!?」
ひづるが矢鱈と大袈裟にする。
「知らないよ、何か折り入って私に
情報共有しとかなきゃいけない事が
あるんじゃないの? ひづるも来て
くれるよね?」
「いや、それは。ダメでしょ。」
「何で?」「だって…何か、さ。」
「一人で来いとは言われてないし、
赤坂のホテルとか言ってたし。」
「……まじ? それはちょっと、
アレだ…私もついて行く。」
かくして私はひづると共に、御厨の
要請に応じる事となった。
ひづるを伴い、赤坂のホテルの
ロビーに着いたのはそれから大体
一時間ほど経った頃だった。
御厨忠興は、直ぐに見つかった。
向こうも一人余計に連れて
いたから、私がひづるを連れて
来たのと偶然、同じ状況に
なったのだが。
「あ、イケオジ。」彼等の姿を
見た途端、ひづるが言った。
「あの人?」「そう。何だこれ
この状況…謎すぎるわ。」
向こうもこっちに気付いたらしく
長身二人が同時に席を立った。
「すみませんね、お休みのところ
わざわざ呼び出して。」
御厨はそう前置きをすると、隣の
男性を紹介した。
「こちら五百旗頭成湫さんです。
鬼塚さんはお会いしていますが、
国森さんは初めてでしょう。
五百旗頭さんはこれから又、
京都に戻りますから、どうしても
今日、お越し願った訳です。」
「五百旗頭です。多分、ご記憶は
ないでしょうが、貴女がまだ
幼い頃に一度お目にかかっている。
この度は、忠興が大変お世話に…」
「成湫さん!」何故か御厨が
割り込んで来た。しかも全身を
使って。
矢張り、大人気ない。
「…ああもう!早く帰って下さい。
顕子さんに会いたいと言うから、
こうして場を設けているんです。
用が済んだら…!」
「私に? 何故ですか?」
この男には全く見覚えがない。
「私は『晩祷』という御役目を
持っている。貴女の後見人の様な
ものです。いま一度、お目に
かかっておきたかった。」
「後見人…ですか。」疎遠には
しているが、父はいる。しかも
親戚縁者だって。
また一つ、謎が増えた気がした。
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