第40話 ◾️◾️



私は、望まれるべくしてこの世に

生 を受けた。


父も母も、私が生まれた事を迚も

喜んだに違いない。

兄弟姉妹も立て続けに生まれたが

それでも私の存在を何よりも尊び、

敬い、大切にしてくれた。


だけど、ある時。 私は。


私を 信奉する者達 に騙され、

捉えられ穢され閉じ込められた。


それは真っ暗な闇の中。幾ら

助けて と叫んでも、誰も来ては

くれなかった。

 父は、もう遥か手の届かない所に

あり、母は死して黄泉へと降った。

兄弟姉妹たちには私の声は届かず

私は、たった独りぼっちで長い長い

時間を過ごさなければならなく

なった。


私は 概念 であり、人が有って

初めてその 貌 を持つもの。

 人の信仰によって 存在 し、

人の 願い により國の弥栄安寧を

齎す。


 しかしながら私は 自然 であり

現象 でもある。


      故に、私は…。




何故に、私の自由 を奪うのか。

私は、只。至極 自然 に

在りたいだけなのに。

 色んなものを見て触れて感じて。

心のままに感動したり喜んだり。

痛みや悲しみも勿論、あるだろう。

それでも私は全て受け取ろう。


私は生来、闇を照らす者 では

なかったか。

 

何に故に、こんなに暗い土の中に

閉じ込められなければならぬ。

いつ終わるともわからぬ闇の中で、


    私は。


怨み ばかりを募らせてゆく。

募りにつのった苦しみ、憎しみ

それらは激しい 呪詛 となり、

私の喉から迸る。

 この世の全てを蹂躙してやろう。

そして破壊し尽くしてやろう。



私の瞳は光を失い、虎視眈々と

その機会を伺っていた。




時折、外を覗く事ができる程度の

小さな隙間が開くことがある。



だから私は、その時を狙って、

外に出ようと必死に抵抗した。

 私を閉じ込めようとする者達を

吹き飛ばし、焼き尽くし、大地を

揺らし、天に叫び、海を呼んだ。



 でも、一人の女が私に話しかけて

私は、それにうっかり耳を貸して。



 騙そうとしても無駄だ。


私を再び閉じ込めると言うのなら

悉く滅べ。歯向かう者は全て。


口では私を 奉る というけれど

それはお前たちの都合で、私には

何の益もない。



女は覡か。そして、母 か。


ならば、命よりも大切なものを私に

寄越せ。それを以て 恙無し と

してやろう。


悲しいか、恐ろしいか。だが

それは私にとっても同じこと。


何の咎もない無垢なものを、勝手な

理屈で縛り上げ、その 存在 を

蹂躙する。それがどれだけ傲慢で

醜く惨いことか。


私の母だって、この私の有様を

目にすれば悲しまれるに違いない。




 お前の命よりも大切なもの



私は、この 幼子 の眼を通して

様々なものを見たいのだ。

美しく愛しく、輝かしいものを。





我は◾️◾️ この國の弥栄安寧と

秩序を、自らの意に因って贖うもの。

諸刃の剣、原初の光。生命の源。


    誰の指図も受けぬ。



 だが



この無垢な幼子に免じ、

此度は 万事、恙無し とする。



 

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