第37話 冥畺
国ちゃんが御厨に呼ばれて。
何気に手持ち無沙汰の私の所に
いつぞやの ガチ公安部 の職員が
来たのは、彼女が『室長執務室』に
入って、まだ五分程度しか経たない
頃だった。
「…てか、何やってんのよ。」
私は呆れ返ってその男を見る。
「それマジでヤバいから。絶対に
やっちゃダメなヤツだよ霊的に!」
「ガタガタうるせぇよ鬼塚。折角
憑依ってのを会得したんだ。これ
今後かなり使える技だろうが。」
中身は眷属となった 太田 だ。
しかも元上司だ。
だが、私は彼に敢て言う。
「憑依って、する方もされる方も
物凄く力を消耗するんだよ?」
下手すると、死ぬ。勿論それは
太田ではなく ガチ公安部 が。
「コイツは俺の現役時代の後輩で
笹部悠二だ、ヨロシクな。こう
見えて命知らずなヤツだ。身体
借りるぐらい気にしねぇ。しかも
今、三門の担当をやってる。」
それは知っているが。
「あの日…お前と一緒に渋谷まで
出掛けたろ?で、俺は何で暗渠に
行こうとしたんだ?」
笹部という男の身体を借りた
元上司は、いきなりそんな事を
言い出した。
「…え。それはこっちが聞きたい。
てか、太田さん。いきなり接見
打ち切って渋谷署を出たから。」
確かに、あの時。三門への接見は
太田の説教で終わったが、その後
カーナビもとい『結界ナビ』で
暗渠の位置を探し出した。
私はてっきり、彼が事前に調査
して辻浦の居場所を特定したと
思っていたのだ。
「太田さん自覚なかったの?」
「太田じゃねぇよ、笹部だ。」
「じゃあ笹部さん。」ていうか
一体何がしたいんだ、この人は。
「これから三門に再度、接触する。
確認したい事もあるしな。それに、
今はこんな状況だから却って都合が
いいんだ。
国森の事は、御厨さんに任せて
俺らはリベンジ行くぞ。」
そう言って太田、もとい笹部は
私を分室から連れ出した。
庁舎のエレベーターは、特定の
人間が ある操作手順 を踏む事に
よって、普段は誰も立ち入る事の
出来ない階に停まる仕組みになって
いる。上層階の我らが分室も実は
そうだ。
つまり、極秘案件を扱う場所と
いう事なのだ。
三門優也が拘置されているのは、
同様の仕組みながら、分室とは
真逆の 地階 だつた。
「ねぇ、太田さん。」
「笹部だ。もういい加減、慣れろ
鬼塚。俺はもう死んでンだよ。
どう見ても笹部悠二の見た目だろ。
誰かに見咎められてみろ、お前
完全にヤバい奴だぞ?」
笹部悠二の顔で、太田が笑う。
「いやいや、そうじゃなくて。
三門と話していて、それで辻浦が
暗渠にいると思った、ってのが
よくわからないんだけど。」
「俺だってよくわからねぇよ。
だからこれから確認しに行く。」
同じ眷属といっても、辻浦は
呼ばなければ態々来ない。
その辺は性格の差なのかも知れ
ないが、基本、眷属というのは
付き従うタイプ と 呼べば馳せ
参じるタイプ に分かれるという。
婆ちゃんの請け売りだけど。
「鬼塚、この廊下の先は彼岸だと
思えよ。」
エレベーターが停まったのは、
その移動体感からかなり下の階だ。
「結界から外れてる、って事?」
「さすがは元部下だな。今は鬼の
親分だが。」「…言い方。」
無機質な廊下がエレベーターから
続く。一見、何の変わりもない
庁舎のいちフロアだが、実際は相当
深い穴の中だ。
こんな所に収監される犯罪者とは
一体どんな者たちなのだろう。
それ以上に、三門優也とは
何者 なのだろう。
「辻浦。」 正直、怖かった。
いつも土壇場の判断を彼の視線に
委ねていたのだ。居なくなって
初めて、それを思い知らされた。
「何ですか? 太田さんも。というか
誰ですか、その人。後で熱出して
倒れちゃいますよ?」
横の部屋から扉も開けずに辻浦が
合流する。
対して、笹部の顔で太田が静かに
微笑う。
「眷属って、こんな出方なのかよ?
お化けだな、まるで。」
「お化けで正解じゃないですか。
それより、三門優也はこの先に?」
眷属二人は勝手に話を始める。
「ちょっと待ってよ!ていうか
アタシの眷属でしょ? ハブるの
禁止!絶対禁止!」
「わかったわかった。鬼塚親分は
絶対に三門の目ぇ見るなよ?
アレは 空っぽ だ。限定結界を
張るから、生きてる奴は適当な
所で退場して貰う。」
辻浦が来た事で心強くなったのは
太田も同じだろう。
笹部悠二の顔に凄みを効かせた
笑みを載せた。
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