第28話 加護召
僕は一体どうしてしまったのか。
机に突っ伏して寝てしまって
今、目が覚めたというのが現状の
様だが。
つい先程まで全く別の場所で
途方もない衝撃を受けていた。
そんな 記憶の残滓 があるが
そもそも僕は、大学で助教の
仕事をしながら博士論文を書いて
いた筈だ。
論文制作の合間に学生たちの
卒論研究の相談に乗り、担当教授が
持つ授業の準備や補助をして…。
いや。もっと別の、 何か。
駄目だ……思い出せない。
それはそうと、僕はこの机に
見覚えがある。小学五年生から
二年間、中学入試を受ける為に
通っていた塾の机だ。
教室には僕の他には誰もいない。
廊下の灯りも非常灯の頼りない
ものだから、今は
時間外なのかも知れない。
そう思って、僕は左手に嵌めて
いる腕時計を見る。
丑 未申 何だ?これ。
アラビア数字の代わりに漢字。
どうやら十二支の様だ。
何となく気味が悪くなるが、
まだ大丈夫だろう。
しかし一体、此処はどこだ?
僕の記憶が正しければ、ずっと
以前に通っていた塾の教室に
非常によく似ている。
そんな事を思っていると、廊下の
方から子供達の声が聞こえてきて
突然、教室のドアが開かれた。
「タケシ、お前まだそんな所に
いンの? 早く帰ろうぜ!」
「……え。ユタカ?」
「お前、寝てたろ!ははは。
額に腕時計の痕が付いてるぜ?」
「早くしろよタケシもユタカも。
さっさと出ないと叱られるよ!」
「ケント。それにミチアキも。」
「お前だけだぞ、タケシ。早く
来いよ。一緒に帰ろうぜ。」
「…あ。うん、ごめん。」
僕は慌てて立ち上がると、塾の
揃いの鞄を肩に掛けた。
そして、闇の中を。
仲の良い友達と、帰る事にした。
「…で? その易占いを実際に
やらされてた人間もネットで?」
私は太田から尋問の主導を奪う。
焦っていたのかも知れないし、
何だか物凄い理不尽へのやり場の
ない 憤り があった。
「じゃねぇの?俺は単に占いで
凹んだりしてる女の子に声掛けて
スカウトするだけ。
まぁ事務所的なモンがないと、
格好付かないからさ。ちょろっと
場所借りただけだよ。
さつきソコの刑事さんが恣意的に
読み上げた調書の通りだ。」
「場所借りたンなら…ッ!」
埒が開かない。
私は太田を見る。だが彼は視線を
三門から外さない。そして言う。
「ま、おまえ の話はわかったが
御厨さんからも個人的な抗議が
行くのは覚悟しとけよ? それも
おまえ が一番ダメージ喰らう
御実家 にカチコむからな!
大体、おまえ は。神門阜を
継げねぇからって、巫山戯たコト
好き勝手やってやがる様だがな、
法は、犯すな。」
太田は一気にそこまで話すと、
彼を鋭くひと睨みして立ち上がり、
私にも退出を促した。
三門は何か喚いていたが、もう
それも聞こえない。
彼が何かしら関わっているのは
間違いないだろう。でも、
もうこれ以上の情報は望めない。
私にもそれはわかっていた。
「太田さん、待って下さい!」
さっさと車の運転席に乗り込む
太田に遅れまいと慌てて助手席に
滑り込む。
「鬼塚。今から面白いモンが
見られるぞ。」「え?」
太田は口元を笑みの形に歪めると
カーナビを起動した。だが。
「…これ、何なの? 地図じゃ
ない。てか、これって。」
「おぅ、このデカいのが龍脈だな。
首都高に沿って流れてる。それに
結界の位置が…と。」
彼の操作によって、画面の上の
渋谷の街を縦横無尽に色とりどりの
線と点とが光り交差する。
「そして今、ここだ。」
「この黒いの、って。何?」
黒い表示は道なのか?それにしては
建物の形と被っている。
「暗渠だ。」
元々は、河川だったのが、人の
事情で埋め立てられ、地下へと
追いやられた。それはまるで
堕とされた 神 だ。
「川の神サンは祟ると怖いぞ。
門のクソガキのせいで、荒御魂に
なりかけてる。鬼塚、お前もよく
見とくんだな。」
これから此処に、
『封』を造る。
だが、その前に。辻浦のヤツを
暗渠から引っ張り出さねぇとな。
太田は、そう言った。
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