第18話 御門
「え、それはどういう意味で?」
自分でも間の抜けた問いだったと
思う。しかしこの青年に心当たりは
全くない。
「一応、貴女の又従兄弟って事に
なるんだけど。何せまぁ國護は
一族郎党、そこそこ多いから。」
そう言って又、笑みを浮かべると
漸く気がついた様に
「ああ、申し遅れました。俺は、
三門優也と申します。お父上から
聞いたことないかな?
その顔だと、やっぱり聞いたこと
ないか。」そう言うと、いかにも
残念そうな顔をして見せた。
三門、というからには國護の直系
分家の筋ではないのだろう。
尤も『才』のない自分にとっては
家業は勿論のこと親族間の行事にも
殆ど関わる事がなかったから、
知らない親戚がいても何ら不思議な
事ではないのだが。
「貴女は本来こんな所に居るべき
御方ではないんですよ。早々に
國護に戻った方がいい。」
「え。」
「待たせたー!」その時だった。
しっかり温まって上気した顔の
鬼塚ひづるが姿を現した。
「え?誰?」驚くのも無理からず。
折角、温泉効果で上気していた
ひづるの顔は、俄に戸惑う様な
表情へと変わってゆく。
「まさか、ナンパ…とか…?」
「何か私の親戚らしいんだけど。」
「親戚、らしい…って。」
不穏な空気を感じ取ったのだろう。
それ以上に、誰の目から見ても
この青年、怪しさ しかない。
「アンタそれ、マジで言ってる?
…ていうか、ここ富山だよね。
富山住みなの?そもそも、どういう
親戚なのよ?」
戸惑いから一転、ひづるが言い
募るが、彼は臆する事もなく。
「俺は、彼女の母親の従姉妹の
子供にあたる所謂、又従兄弟です。
住まいは都内で、此処には仕事の
一環で来てる。」「職業は?」
「フリーのライターです。今回、
魚津の集団失踪について取材に
来た、っていうのは建前で。
偶々ちょっとしたツテから
貴女方の事を知って。折角なので
ご挨拶をと思った次第だ。どうぞ、
宜しくお見知り置き下さい。」
三門優也は私たちに名刺を渡すと
ソファの向かい側に腰掛けて、
自分から話し始めた。
「俺の母親と、顕子さんの母親の
脩子様は幼い頃から姉妹のように
育ったそうです。
母は一つ年上の脩子様を本当の
姉みたいに思っていたと、よく
聞かされましたよ。でも、國護に
嫁いでからはもう会う事も出来ず、
そうこうしているうちに…」
「はいはい、そこまで。」
声のした方を見ると、いつの
間にか御厨が、辻浦を伴って立って
いた。今し方、丁度外から戻って
来た様な出で立ちだ。
私たちには館内待機を命じて
辻浦共々いつの間にか消えていたが
大方、この近くにある『封』の
現状視察に出ていたに違いない。
夜の戸外は相当寒かったのだろう
彼らの顔は幾分、青褪めて見えた。
が、三門と名乗る青年は、彼らの
姿を見るや、酷く狼狽えた様子で
慌てて椅子から立ち上がった。
「何か、彼女に御用でも?」
一方、御厨の鋭い視線は真っ直ぐ
彼を射抜いている。どうやら彼と
面識があるのは御厨のようだ。
「い、いえ。」三門優也は、酷く
気まずそうな顔で、早くも退散の
態を見せ始めたが。
「…全く一体誰から聞いたのやら。
好奇心は命取りになりますよ。
今後、彼女に関わる事は一切、この
私が禁じます。出て行きなさい。」
穏やかな言葉の中にも、有無を
言わさぬ気迫があった。
御厨にしては珍しい事だ。
何か言わなければ、と思う
気持ちは、彼の静かな気迫に追い
やられてしまう。
「いや、ちょっと室長。まだ色々
聞きたい事もあるんですけど。」
代わりに、ひづるが割って入るが。
「その必要は、ありません。」
あまりに毅然とした物言いに、
流石の彼女もそれ以上は言い募れず
代わりに辻浦へと視線を向けるが。
「僕たちは公務で来ているんです。
部外者の方は、申し訳ないけど、
お引き取り下さい。」
彼の口から出る言葉も大差のない
ものだった。
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