第6話 国守
初めて依頼された仕事現場は
茨城県内の誰もが知るだろう
学園都市だった。
元々が御厨忠興の下で働いていた
という、太田なる男性が運転する
ワゴン車の中では、早くも沈黙が
支配し始めていた。
「私たちの役目は、怪異現象を
収めることではありません。
そうした状況に至った『因果』を
見極める、というものです。」
御厨はそう前置きをした。
初出勤のエレベーターから直行で
『室長執務室』とある分室内の
個室へと。
連行される様な面持ちで後に続くと
早速、執務机の前に設置された
ソファに腰を下ろすよう促される。
同時に話し始めた彼は、実は
存外せっかちなのかも知れない。
「ある程度、共通の認識がある
前提で話をします。でないと、
話が全く進まないので。」
前置きをして彼は続けた。
「国森さん。貴女の御実家の事は
承知しています。平安の昔どころか
奈良以前から、国家の安寧の為に
尽くしていらっしゃる。
『日本一の旧家』にも引けを
取らない歴史があるにも関わらず
その存在を知る者は少ない。」
こういう話になるのも何となく
予想がついていた。だから
事前に用意していた言葉を紡ぐ。
「実家方面とは没交渉です。
そもそも、私に出来ることなんて
何もないですし。」
「それも承知しています。予め
言っておくと、貴女の存在を
政治的に利用しようとか
コネを作ろうとか。そういう
思惑もない。」
「元々そんな価値は私には
ありません。それに適性だって。
どうして自分が此処に呼ばれたのか
その理由もわかりません。」
何の話をしに来たのか。つい
苛立ちが言葉の端に乗る。
「まぁ、ご不満も色々あるやも
知れませんが。」そう言うと、
御厨は一つため息をついた。
「…私が室長を拝命する際に
条件として…いや、先ずは結論から
申しましょう。
『封』が、緩んでいます。或いは
壊されている、か。」
「え。」思わず言葉を飲む。
この男は何と言った?
まさか 『封』が。
その存在を知る者は極々限られて
いるうえ『封』自体、そう簡単に
どうこうなるものではない。
「それも、ここ最近の話です。
全国規模で自然災害や事件事故が
異常なペースで増えてきているのを
貴女も実際に肌で感じているのでは
ないでしょうか。
明らかに不自然な『凶事報告』が
上がって来ているんですよ。
そういった地域には
大抵、『封』が存在する。」
この国の成り立ちに於いて。
数多の神々は長い時間をかけて
丁寧に把握され仕分けられて来た。
祭祀や咒の類によって懇ろに
懐柔され、時には調伏される事で
国家の繁栄構築へと組み込んできた
長い長い歴史があった。
祀られる神は神格を上げるが、
逆に神格を落として怪異となる
神もある。それは『妖怪』などと
呼ばれて親しまれる事もあれば、
想像を遥かに超えた『凶々しく
畏ろしいモノ』へと変貌する事も
ある。
調伏などでは対処出来ない神も
また数多く、そういう存在に対して
『封』を施すのが代々続く、いわば
家業のようなものだった。
「父が。いえ、家の方で定期的に
メンテナンスをしている筈です。」
「ええ。やって頂いています。
遥か昔から堅実に粛々と。実際、
今現在も日本の各地でご尽力頂いて
いるが一向に収まるものではない。
まるでイタチごっこだ。」
「それって、一体…とういう。」
「つまり異常事態という事です。」
正直まさか、そんな事態になって
いるなんて夢にも思わなかった。
だが、しかし
車窓から見える景色が整然とした
街並みを呈して来ているのに、
漸く気付く。
目指しているのは学園都市のほぼ
中心の区画。科学の最先端をゆく
学舎と企業が立ち並ぶ。
「そろそろ、到着します。」
重苦しく垂れ込めた沈黙を制して
運転席の太田が言った。
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