第3話 辻荒
それは、僕が通っていた小学校から
そう遠くない場所に実在して
いました。いや、今でもあるのかも
知れないけれども。
『神隠』っていう地名は、何やら
周りの風景と相俟って不穏なものを
彷彿とさせられる。
実際、小学生だった僕らよりも寧ろ
親たちの方が、ずっと現実的な
警戒心を持っていたんじゃないかと
思う。
不審者情報がない訳では
なかったし、学校の帰り道で出会す
大声で奇声を上げながら追いかけて
来る、何かちょっとヤバい人?
そういう人もいたから。
PTAでも巡回なんかを当番制で
やっていたんじゃないかな。
昼間でも鬱蒼と暗い山道にかかる
三叉路。
一応、県道にはなっていたと
思うけど、車の通りは特に多くも
少なくもない。片側は山。反対側は
荒地が続く中、民家が幾つか軒を
並べる。見通しも決して悪くはなく、
一見、何の変哲もない田園風景。
県道から山に入って行く細い道が、
奇妙な 三叉路 を形成していた。
何となく、良くない場所。
既に、周囲の認識はそうだった。
実際に薄暗くて気味が悪いのは
山へ向かう道の方なんだけど、
それだって車が一台、ギリギリ
通れる程度の広さはあったと思う。
あの辺りが開発されたのって、
今からおよそ三十年ぐらい前で、
元々は単なる荒地だったんだよ?
土地に纏わる因縁なんかがあれば
皆んなも知ってる筈だ。
何となく良くない場所。
でも、理由はよくわからない。
実際、僕が中学校に上がる迄で
行方不明者六名。近隣の民家への
放火が一軒。交通事故は自損も含め
十六件、そのうち、死亡事故が三件。
そうそう、ひと頃ワイドショーを
賑わせた、人死の出た陰惨な事件も
あったっけ。
事件や事故の後は勿論、
お祓いなんかもきちんとやっては
いたと思う。でも、あんまり効果は
なかったのかな。
後を絶たなかった訳だから。
あれは一体何だったのか。
忘れもしない、小学六年の、塾の
帰り道。仲の良い友達三人と、
肝試し気分で山道から三叉路の
通りに出るルートを選んだ。
仲間と一緒で、気が大きく
なったんだろう。通常より時間は
掛かるけど、少しでも皆と一緒に
いたかった、っていうのもあった。
誰かが懐中電灯のキーホルダーを
持っていて、顔を下からライトで
照らしたりしながら。
丁度、山道の下りに差し掛かった
時だった。もうすぐ広い通りが
見えてくる、その時に。
ふと目の端に映り込んだ。
物凄く古い、祠みたいなものが。
しかも祠の前には、火の玉が、
等間隔で浮かんでた。
最初はギョッとしたけれど、
その時は皆で盛り上がるネタを
見つけたって気持ちの方が
大きかった。
だけど、それを見たのは僕だけで
一緒にいた友達は誰もそんなもの
見えないって。
最初は、逆ドッキリでも
仕掛けられたのかと思ってたし、
暗い夜道を内心怯えながら歩く
非日常感もあったから、次第に
見える見えないの言い合いになって
そうこうしているうちに。
今まで祠の前に並んでた火の玉が、
一つずつ、ゆっくりと。こっちに
向かって近づいてきた。
それは一つ、また一つ列を作って。
確実にこっちに来る、って
そう思ったら急に怖くなって。
怖くて怖くて、
何故だか物凄く怖くて。
気付いたら全力で駆け出してた。
以来、僕はずっと。
誰にも言えずに一人で怯えてた。
一緒にいた友達は。結局、誰一人
家には帰らなかった。まるで、
本当に『神隠し』に遭ったみたいに
皆いなくなってしまった。
そして、僕だけが。
僕らは、あの夜一体 何 に
行き遭ったんだろう。
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