第27話の2 試作 ※27話を分割しましたR6.4.10

 今日は休みの日。優先事項を陶器に変更することにした。両親の期待が思いのほか高い。自宅の庭にて作業を行う。火魔法を使用するので、焼き物は外で行わなければならない。

 

 作って産業まで発展するとしたら、確実に新規参入になる。陶器の作成は貴族の利権が絡みあう。できれば既存の商圏との競合は避けたいところだ。貴族の逆恨みは怖い。陶器での競合にならないように注意は必要だ。


 陶器は保温性に優れる。半面、重く割れやすいのが欠点となる。家に飾っているものは白度が少ないとも感じた。そうなると狙うは白度の高い磁器がよいのではないか? 粘土よりもアルミナ・ガラス質が強い石を選べば良いだろう。これは【物質鑑定】の力を借りればさほど難しいことではないはずだ。


 折角、一から作成するので工夫をして、この磁器に付加価値をつけたい。魔の森を背後に抱えたパール辺境ならではのものを考える。魔物はいくらでも取れる。肉は食べて消費しているだろう。狙うはその骨。骨のリン酸カルシウムを利用した骨灰磁器はどうだろうか。以前、向こうの製品にbone c***aと書かれてびっくりしたことを思い出した。骨の粉砕物を混ぜ、白色度の高い磁器としていることを図書館で調べたのだ。作成過程はわかる。今回は作成の道筋さえつかめればよいだろう。絵付けに関しては確保した職人が発展させるに違いない。方針は決まった。骨灰磁器に的を絞って試作をしよう。


  【物質鑑定】から、パール領の土はアルミナ・ガラス質を多く含むようだ。釉薬は草木の灰と水晶を混ぜたものがよく使われる。両親が持ってきてくれた釉薬は、どんな変化をするかわからない。釉薬の研究までは手が回らない。代用としてポーション瓶を割ったものを使用する。

 

 骨は自宅のゴミとして転がっていたミノタウロス・ブラックウルフ・オークの骨がある。母親に了解をもらい、調達した。城郭都市の近郊なので、周辺の村々も同じような魔物が取れると思う。【物質鑑定】で調べたら陶器に使用することもあると載っていたのでこれで間違いない。鑑定結果に振れが大きいことが気になるところだ。後で爺さんに聞いてみよう。


 用意した石をまずは粉々にする。もちろん土魔法、風魔法を併用しつつ行う。この段階でだいぶ自分の魔力が奪われていく。石がサラサラになった段階にて、水分を含ませて粘土状に練り上げる。ホーミー村の粘土も用意した。別に、ミノタウロス、ブラックウルフ・オークの骨の下準備をする。よく熱して白化し、細かく粉砕したものを揃えた。


 素焼きの試験の材料五種類。三つの開始物質と三種の条件振りだ。ホーミー村の粘土は固定で行う。特産品を狙いたいことと、【物質鑑定】結果にて陶石のみだとガラス質の割合が多いための調整用だ。少量ずつ五瓶ずつ作成し、組み合わせをしてみよう。

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数字は配合割合。

 ピレ2*ホーミィー8 、ピレ5*ホーミィー5、ピレ8*ホーミィー2

 マロ2*ホーミィー8、マロ5*ホーミィー5、ピレ8*ホーミィー2

 そこに、

 ピレ4*ホーミィー3*ミノタウロス3、マロ4*ホーミィー3*ミノタウロス3。

 ピレ4*ホーミィー3*ブラックウルフ3、マロ4*ホーミィー3*ブラックフルフ3。

 ピレ4*ホーミィー3*ブラックウルフ3、マロ4*ホーミィー3*オーク3。

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 原材料を組み合わせ混合し、捏ねあげ、整形する。汎用に使えるよう、皿の形だ。魔法の支援下、水分を除去し、暗い赤い炎のイメージで八百度にて焼成する。温度の管理については火の色頼りとなる。本焼きの釉薬は当初のとおりポーション瓶を粉砕したものを使用した。目指す温度は本焼き千三百度だ。磁器のほうの温度は何とか覚えていた。明るい赤い炎をイメージし、火魔法で焼成を行う。それにしても制御を甘くすると魔力をとられてしまう。緻密な制御を心がけていくしかない。


 できたものは、自分の主観にて判別するだけだ。判定は今のところ白度しかない。ピレ5*ホーミィー5は見本の陶器と比べると白度が改善されている。これでも十分に通用すると思う。骨を混ぜ合わせたものはより白色が高い。骨の種類による影響は見られなかった。少し脆いように感じるのは骨が多いためと推測する。白度と強度をそれぞれ合わせ持つ配合割合があるはず。これを基点として配合割合の条件を振る。数が増えるため、まずはピレネ村産の石に絞る。骨の種類はすべての骨を混ぜたものを開始とした。今回は骨の含量に焦点を当てた試験とした。評価は白度ということになる。

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数字は配合割合。

#骨1で固定

ピレ5*ホーミィー4*骨1

ピレ6*ホーミィー3*骨1

ピレ7*ホーミィー2*骨1

ピレ8*ホーミィー1*骨1

#骨2で固定 記載省略ピレ4-7、ホーミィー4-1

#骨3で固定 記載省略ピレ4-6、ホーミィー3-1

#骨4で固定 記載省略ピレ4-5、ホーミィー2-1

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 各種条件の中で、白色の度合いは、ピレ7*ホーミィー2*骨1が非常にいいようだ。上品な透明感もあるように感じる。こればかりは目視以外なかった。硬度もそれなりだ。簡易な試験を実施した。まるい陶器製の球を作って上から落としただけとなるが。ガラスと陶器よりも強度が少し高いくらいで収まる。配合の組み合わせは、骨1の割合でよいと思われた。両親も同席してもらい、確認をしてもらおう。


 マーロ石は薄い青色だ。こちらでも試験を行った。至適な配合割合は同じくらいと思う・・・。枯渇状態に陥ったため、すべての試験をすることができなかった。骨の含有量試験の途中で本日は終了となる。ピレネ石の試験を踏まえて開始としたので、結果が覆されることがほぼないだろう。目的とした色合いではないがこちらも良い。透明感のあるほのかな青色は上品な焼き物の風合いだ。


 夕食は家族団らんの時間だ。今日のできごとを両親に話す。

「父さん。今日いろいろと試作品ができました。あとで話を聞いてください」

「なに? もうできたのか? 物はどこにある?」

「サルタン。まだご飯の途中よ。終わってからにしましょう。私もゆっくり見たいわ」

試作の条件と物の組み合わせについて食後に意見をもらう。この議論の間は、親子間ではなくもう個別の商人の顔だった。見習いとして売れる商品についての目利きは必要だ。評価には忖度は不要。マリンも嬉々として参戦した。

「ピレネ石、マーロ石。ホーミィー土。各種魔物の骨を混ぜ込んでいます。試験は2段階で行っています。白度のチェックが1段目。2段目が配合割合の至適化を行いました」

札にはそれぞれ配合割合を付しておいた。両親にはそれぞれ確認してもらえばよいだろう。

「なに? 魔物の骨を入れたのか?」

「ええ、自分の【物質鑑定】では、陶器の材料になるとあったので」

「鑑定に乗っていれば従うわよね。それにしても面白い鑑定結果ね」

やはり鑑定項目は人それぞれになるかもしれない。あとで確認は必要だ。両親はしばらく皿のそれぞれを見比べながらチェックを始める。

「どれも、弾くとキィーンとして硬そうだ。流通しているものに比べて薄くて軽いな。白度も良い。売れるものは、白く、透明感が強いものと見て間違いない」

どうやら評価は自分が思っていた項目で間違いない。

「ピレネ石7、ホーミィー粘土2、骨1のものは白色が強いわ。マーロ石が入っているものも上品な青色でこちらも良いわ」

「白くて、かたくて、軽いね。これならマリンでも持てそう」

確かに、磁器のほうが軽いのは特徴かもしれない。軽く薄くできることも評価となりそうだ。我が妹ながら着眼点はよいな。

「鑑定結果から、骨を入れるとより白く、透明感が高くなるようです。骨はどの種類入れても変わらないんですよね。硬さは少し上がる程度でしょうか」

「よし、わかった。これは良い商品見本となる。第一優先はピレネ石で、次にマーロ石の確保に商人ギルドをまきこんで動く。別にベンベルクに魔物の骨も依頼する。こちらは通常廃棄しているから底値だ。冒険者ギルドに声をかけていく。楽しくなってきたな。商売になりそうだ」


 試作品に満足した両親はうなずき、父親は材料の確保に乗り出すようだ。思いの他高評価な結論を出した両親を見てほっとした。この場所は商人の店。少しでも利益に貢献できればよいと思う。



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