第27話 磁器

 午前中は、実家の店の手伝い。午後は魔導具店にて店番兼ポーション作りをしながら、保存・劣化の改善の試行錯誤の日々となった。

 一家揃っての夕ご飯の時に、両親から陶器材料の調達の目途がついたことの話となった。

「レッド。ここ二週間の間に近隣の商人に声をかけて粘土、きめ細かい石。釉薬に使えそうなものを集めてもらった。試してみてくれ」

「早かったですね。もう少し時間がかかると思いました」

 実は、ポーションの作成と魔力操作の練習に集中していた。両親から頼まれていたことはすっかり忘れていた。陶器の作成はまったく進んでいない。魔道具店の仕事に全振りしていたのは隠しておこう。

「領内だからな。商人ギルドの連中に声をかけて、ピレネ村の石、マーロ村の石を入手してもらった。パール領の産物だ。少し西の山の方で取れる」

父親に現物を少し出してもらい、品定めをする。

「ピレネ村の石は灰色〜白色に近いですね、マーロ村はより灰色。どちらも砕くと細かくなりそうですね」

「原料の入手まではギルドの伝手でできる。それからの作成が課題だよ」

「形が悪かったり、歩留まりが悪かったりして、利用するとしても家庭だけよね。あれでは」

以前にも、領主付きの職人や商人ギルドの方でも検討はしていたらしい。母親も商人の目で現状の物は売り物にはならないとみているようだ。

「実はあそこに飾っている皿は、他領で製造している貴族用の陶器よ。親父から昔に譲ってもらったものだ」

 父親に壁から皿をとってもらい、眺める。

全体的に少し灰色がかかった素地は機械で作られたように、しっかりと整形されている。緻密な幾何学文様が青の色調で丁寧に装飾されている。職人技を披露しているようだ。持つと重量を感じ、素地は厚い。持ち上げて食する文化は無いので、これで問題ないようだった。裏を返すと、領と職人の名前が刻まれている。

そうだ、ここは【鑑定】が使えるのだと思い出す。

【陶器。緻密な絵柄が特徴的】

 ・・・こちらは全く参考にならなかった。仕方がない。観察して絞っていくしかない。陶器は低温で焼き、素焼きとする。そこに絵付けをし、釉薬を塗布した後に本焼きを行ったものになる。

 皿を見るに、素焼きをしたのちに、装飾と釉薬を塗布している、標準的な作成方法のようだ。温度は試行錯誤が必要かもしれない。確か800-1000度くらいだったかと思う。陶器でイメージしやすい物は**焼のような焼き物。皿の精度を見るかぎりろくろを使用して作っていると思われた。

「特に絵付けに技術を感じますね。見せつけている感じがします」

「貴族はお抱えの職人を援助して抱え込んでしまっている。技術の流出が非常に少ないな。我々商人が知っているのは原材料と大まかな作り方くらいだ」

「確か、パール家が他領から流れてきた絵付け職人を確保したと前に聞いたわ。たしか聞いた先はギルドかしら。専門が絵付けだからあんまり進展しないってお義父さんがぼやいていたわね」

 それからは両親の二人でどれが売れるか、今の流行の装飾はこれ、などの話となったようだ。後は二人に任せよう。


「いただいた物で明日いくつか試作品を作ってみますね。既存品と競合しないように考えてみます」 


 ここの家族・社会に溶け込むためには、まずは両親の覚えをよくする必要がある。期待に応えて居場所を確保しなければ、今後も危うい。折角頂いた材料。無駄にはできない。魔力訓練にもなるし、一石二鳥の手伝いを受けていこう。


 

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