第26話 工程

 一連のデータと結果、考察を纏めた紙をパラケル爺さんに提出した。いろいろ試したところ10日は過ぎてしまった。特級品のデータは入れていない。うーんと実験データを見ながらパラケル爺さんが唸る。


「まさか、魔工程を一切行わずに普及品・高ポーションを作るとはな。これによると工程の一つを魔工程とすれば、俺が作ったのと同じ一級品のポーションが作れるではないか。ワシもポーション作りにここまで考えたことはなった。小僧、着眼点はすばらしい。飲みづらいポーションが飲みやすくなる意義は大きい」

 特級品ができたことはあえて話さなかった。もしかして気づくかも知れない。言われたら答えるくらいでよいだろう。


「この試験結果と考察は、ワシの考察を加えて学院に提出だな。お前の名前も入れる。おそらく学院・ギルド・領主からワシに連絡がくるだろう。それほど味の良いポーションの普及は昔からの課題なのだ」

「実際に飲むことは少ないので、味の課題はそれほどだったのですね」

「ああ、特に冒険者からの圧力がすごい。けがの度に常用してる連中だからな」

「同じ治りなら、味が良い方が良いですからね」

「そうだな。ここまでやったら、もう一つの課題も挑戦してもらうか」

「もう一つの課題?」

これも昔からの問題だ、と断りを入れてパラケル爺さんが話す。

「実際のポーションは劣化していく。一ヶ月を目安に使い切るのが一つの基準だ。アイテムボックスに入れてもさほど変わらない。破損は防げるがな。一か月をすぎると徐々に効果が下がっていくのだ。おそらく魔素が拡散していくのだろうな。故に劣化品は流通品には適さない。ただの苦い水となるからな。保存が昔からの課題の一つなのだ。」


 なるほど、品質の保持か。魔素の拡散を防ぎ長期保存を可能にすることへの課題。向こうでは日光に弱ければ遮光保存が定番だ。併せて特定の波長の光を防ぐフィルムか錠剤へのコーティング。湿気に弱ければ防湿・気密保存・シール。熱に弱いときは、冷蔵、冷凍保管の条件付与となる。ほとんどの薬剤は、錠剤・カプセルで供給されていた。錠剤・カプセルでの工夫に加え、PTP包装、外装にて追加の防湿遮光を施していた。複合することで錠剤を各種条件から守り、三年間の有効期間を生み出すことを可能にしていた。

 一般的に薬の安定性を示す指標は光・湿度・温度の3条件だ。これらの長期の安定性が取れるよう製剤を開発する。長期安定性試験や過酷試験をおこなうことで、製品の品質を保証しているのだ。流通する状態での安定性と、あえて過酷な条件を振ることで製品の弱いところを調べていた。流通の最小包装単位の外箱。バルクやバラ状態、成分にそれぞれ分けて、細かく試験をしていた。転職により製薬会社・薬局と職種は違う立場となった。試験側、閲覧側に分かれて同じ資料をみていたことは懐かしい。

 

 今回の課題は液剤だ。特性上、即効性を期待しているので他の剤型への変更は必要ないだろう。液剤は、崖で手をつなぐ男2人が出てくる広告の製品と似たようなものだ。最終形態は瓶詰めにて流通している。因果が巡る。かけてもよし、飲んでもよしの不思議飲料を題材に、こちらに来てからも検討することになるとは。


「わかりました。挑戦してみます。しばらく時間をください」

「まあ、しばらく考えろ。すぐにできるモノではない。昔から懸案事項だからな。保存のことだし、時間はかかるだろう。ゆっくりやってくれ。並行して四元素と魔力操作の練習をすることだな。店番を頼むぞ。三日くらい外出する。」


 やれやれ、また自主練・放置のようだった。今回は店番付きで。

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