第28話 透器

 陶器の話題が一段落して自室でのんびりする。一息入れて、もう一つの課題を思い出す。パラケル爺さんからの課題で、ポーションの保存の案件だ。ポーションの瓶は、なぜガラスを使用しているのだろう? パラケル爺さんでも素材については疑問点を持っていなかった。その保存性が今回の問題だ。一ヶ月の期限は短すぎる。備蓄ができない。いざという時に使用したい冒険者。買い付けのときに万が一の時を考える商人。遠征をする際、必要なときに必要な効果が出ないのは信頼性に欠ける。領主や国の立場としてはどうだろうか? 向こうでは震災などに備蓄することを推奨していた。水一つとっても少なくても二年間の保管期限がある。多いものは十年だ。もしもの時に備えて保管できるものが作成できれば統治側も安心できるに違いない。定期的な大口の取引先となり得る。定期的な需要という観点からは、魔術師ギルドの思惑があったりするかもしれない。

 有事に備えて長期保存ポーションを作るのは画期的ではないか? アイテムボックスと魔導具がある世界。時間遅延なるマジックアイテムが有ったりして解決はできると思うけど・・・。


 ポーション瓶の素材はガラスだ。その役割は中身が見えている安心感。もう一つは魔素を拡散させないことだろうと推測する。残念ながら一ヶ月は期限が短すぎる。他の条件があるに違いないと予想を立てる。パラケル爺さんのポーション瓶はしっかりと気密状態が保たれていると感じた。かなりの精度で瓶を作成していた。隙間ができていて魔素が拡散することは無さそうだ。一か月の保存の件はパラケル爺さんの作成物だけでなく、ポーション全体の案件のようだった。さらなる追加の工夫が必要か?いや、それなら先人がすでに試行錯誤をしている可能性がある。できる工夫があるかもしれない。一考する必要がある。ガラス瓶の割れやすさも課題の一つと読む。


 ポーション液の液性はどうなのか?今までは作成してから、瓶に入れるまでは時間を置いていない。作成後、すぐに注いていた。体にかけたり肌に触れたりすると驚くほど即効性がある効果だ。放置するとすぐに魔素が霧散してしまうのだろう。即効性、即時性のあるものは、品質保持が難しい。向こうの商品の瞬間接着剤を思い出した。あの容器の中の乾燥剤がキーアイテムだった。乾燥剤を入れて密閉することが接着剤の固着を防いでいた。今回は、魔素の拡散、霧散がなぜ起こるのかを考える必要がある。


 ポーションの薬効は治癒を促すとこの世界の住民は言う。向こうのカワラヨモギはこちらのアルテミ草ということはレッド少年との会話で判別できた。同じというならばアルテミ草の自体効果はかなり緩徐となるだろう。それを魔素が各段に増幅、方向付けしているのか? それともこちらのアルテミ草の効果が全く違うのか? 現状は疑問だらけだ。機序は不明。結果として体に取り込まれ、魔力機関に働くらしい。効果は正常な状態に戻す役割があるそうだ。魔素が有効な要因なのは間違いないと思う。


 そのポーションの効果が一か月で無くなる理由として二つ考えられた。アルテミ草自体の薬効が無くなることで魔素の力の方向性が失われる。もう一つは魔素そのものの霧散、拡散で効力が無くなる。アルテミ草自体の薬効については、今の段階ではわからない。有効成分を分析する方法は無い。向こうでは効果も緩和だったので評価自体も難しいようだった。むしろざっくりとした効果が万能性を持たせている?


 一方で、魔素そのものの拡散、霧散については、かなり疑っている。こちらにきてからの新要素の魔素。その特性は不明だ。現在のガラス瓶は薬効を損なう保存方法をとっているのではないか? ガラスが最適ではないのでは? ガラス瓶の欠点は何か? 割れやすいことと光を通してしまうことだ。通常、長期保管を行ううえでの条件は、湿度、温度、光を考える。気密瓶として液体の劣化は避けられていると思われる。ゆえに湿度は考えない。温度は加熱して抽出している。まず条件でないだろう。そうなると光だ。光に焦点を当ててみよう。


 今ある作れるものとして、ガラス瓶、素焼き磁器、釉薬処理陶器、釉薬付磁器がある。さらに光または闇魔法による魔導具の補助があれば欲しい。前世であった有色ガラス瓶は作れるか?有色瓶と魔導具に関しては、爺さんが帰宅してから聞いてみよう。できることからやっていこう。

 まずはポーションの薬効の劣化具合と安定性か。散々行った劣化評価のための品質試験をしなくて済むのは助かる。【物質鑑定】をかけたらわかるのだから。まずは普及品のポーションを使用してどのくらい下がるかで試してみよう。


 魔力がなくなっても考えることはできる。明日からの実験に備えて条件を組み立てていった。

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