第29話 光線

 父親が陶石の確保に近隣に旅立ち、今日も自分は店番となる。母親は村の中での仕事に出かけていった。運営会議という村長や村の重役達との話し合いに参加するためだ。パラケル爺さんの魔導具店には張り紙を張っておく。"本日休業の為、御用の方はベルナル商店へ"としておけば良いだろう。いつも客など来ないのだから問題無い。最近は店番が多い。パラケル爺さんからもらった魔術教本を眺めつつ、ベルナル商店の店番を勤める。


 爺さんから出ている課題は、「ポーションの劣化を防ぐための改良」だ。教本に載っている光魔法は、劣化をする方法に応用できると目論む。逆に品質を保持できそうな闇魔法は試験としては難しい。現段階で劣化しないことを即座に試験をするのは難しいからだ。

 そんなポーションの品質試験に使えそうな闇と光のうち、まずは使えそうな光魔法の欄を真剣に眺める。習得には、”自然の光をみながら、指の先から放出することをイメージしろ”と記載がある。さらに”光はランプや日差しの明るさも参考にすること”とある。

 一か月経過させて自然に任せてポーションの劣化試験をするのは時間がかかる。仮説を立てた劣化要因は光とみている。使用する光は太陽光でも良いのだ。自然に左右される太陽光では、曇りでは使用できない上に強さが一定ではない。試験条件は一定としたい。今後を考えると天候に左右されるのはまずいだろう。ここはしっかりと光魔法を習得して試験に応用としたい。


光魔法の習得に向けて、光の性質を考える。光を生み出す属性魔法。こちらのイメージは、ランプの光。太陽光。ランプ火の明るさをイメージする。魔術は自然界の現象の模倣だ。向こうでは光は溢れていた。白熱電灯。LEDライト。ランタンなどの日用品を思い出す。

光の本質は波と粒子だ。電磁波としての波と粒子の両方の性質を持つ。太陽の光は波長の異なる光の混合物の可視光。その他は紫外線、赤外線、放射線。磁場と電場の振動。光子でもあると物理学で教わった。波とも取れるし、光子とも取れる。両方の性質を持つ。有名な物理学者が言っていたと思う。光魔法は原子の振動の結果、光を生み出す魔法とみている。火魔法は原子間の振動と考えると括りは近いかもしれない。振動の度合いにより波長が異なってくる。波長が短いものは直接体へ作用する。波長によっては物を透過させることで検査もすることもできる。ガンマ線も光の一種。人体にも影響が出る危ない電磁波だ。


 本をパタリと閉じて、そんな光の特性を考えながら体内で魔力を練り上げる。火、土、水、風を習得したように、ペンライトのイメージを持つ。指の先から出力してみる。師匠はいないが、波形は可視光青色付近の単波長の光を試す。危なくないように自重して少量の魔力量でだ。青色の単波長で直進させるように具体的なイメージを持って魔術を行使する。一直線に青色ライトの光が店内の陳列商品を照らす。まさに指から出るLEDライトだな。さらに太陽光の光を模倣した可視光線を試す。確か十万ルクスくらいの明るさだったな。汎用の白色を出力する。一区画が非常に明るい。サングラスが必要だ。店の中に客がいなくてよかった。

 

 他の波長も試す。可視光付近の紫外線、赤外線だ。紫外線、赤外線はほぼ見えない。少しあたる場所を変えて膝に向けたところ、赤外線は温かい印象があるので成功しているのだろう。紫外線は全く分からなかった。白色光はさらに太陽光の十倍くらいの明るさまで出力させることができた。試験に使用するには、このまま1時間露光維持させる必要がある。自分の魔力では1時間くらいで枯渇しそうなので途中でやめた。木の箱を用意し範囲を限定するのが良いと思う。出力量を少なくして試験をすれば節約も可能だ。明日から仕切り直して実施だ。箱は物入れとして店の商品としてある。家族価格の料金を払い、失敬すれば良いだろう。魔導具化も検討したい。コレがあれは闇魔法を取得した後も利用できるに違いない。

 

 光の一種のマイクロ波を使用したものに、確かレーダーがあったなと思考する。小刻みにマイクロ波のパルスを送るものだと聞いている。まずは目を閉じ指先一箇所から反射を試す。店の中の商品に当たって戻ってくる。距離5m。目を閉じ、そのまま縦のラインで数回放出を繰り返す。仰角90度の範囲で9箇所同時で送り出す。そのまま水平に90度向かい10度ずつ9*9だ。あと270度分実施して、9*9*4で324回同時に体から放出してみる。ギリギリの処理速度だ。頭に店の中の風景と反射波の距離情報を擦り合わせていく。ドーム型に出力とし、さらに倍の648。現在の出力最大数だ。これを一秒単位で放出が理想だが、駄目だ。情報量で頭がパンクする。処理に慣れさせるために練習が必要だろう。外出までには是非とも習得したい。護身用に常時発動できるのが理想だ。

 

 余計な発動をしたので今日の魔力が少なくってきた。だがレーダー魔法と名付けた魔法は自分を守るために今後必要だろう。さらに習得できるように考えておく。ふと、店番をしていたことを思い出す。両親に言われていた品出しをサボっていた。省エネLEDライトのイメージの魔法を使用しつつ慌てて商品の補充を始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る