第30話 品質

 さらに一日が経過して、ようやく準備が整った。ものをそろえて、爺さんの作業場に立つ。両親が集めた試作材料を使用して、磁器瓶と陶器瓶、ポーション瓶、試験に使う箱を作成していたためだ。磁器瓶と陶器瓶は厚さの異なる数種を用意した。ガラス釉薬付きと素焼き物も用意した。試験箱は商品から母親の許可をもらって改造した。100本程度入る遮光箱とした。料金は家族価格、しっかりと料金を支払ったうえでのやり取りとなった。商人の家族は金銭管理がしっかりとしていた。


 光過酷試験に使用する光の強さは、太陽光を目安に十倍の強さとした。およそ百万ルクス。イメージした魔力光を箱の中に放射する。狭い箱への放射ならば一時間くらいの時間は楽にもつ。魔力残量の感覚として少なく見積もっても10回は実行できる。爺さんの作業スペースには各種砂時計がそろっていた。体感として、一時間くらいのものを選ぶ。


 光の波長は可視光を選んだ。試験結果に差が無いときは、違う波形で再試験だ。記録ノートには、磁:磁器、厚さ:薄・普通・厚、コーティング:素焼き・釉薬とした。スタート物質に【物質鑑定】をかける。【効果】の項目が増えたのは幸いした。魔術操作の訓練と【物質鑑定】の数をこなした影響と思う。劣化具合が確認することができるのは便利だ。試験サンプルは1級品ポーションを使用する。


光劣化試験その① 素焼きでの試験条件と結果を紙に記す。

#####可視光/太陽光10倍/放射時間1時間/釉薬無#####

 ポ瓶【一級品】【効果******】対照品。出発物質。

 ポ瓶【効果****】

 磁薄素【効果*****】

 磁普素【効果*****】

 磁厚素【効果*****】

 陶薄素【効果****】

 陶普素【効果****】

 陶厚素【効果****】

#####

 ポーション瓶では2ランクほど効果が落ちた。陶磁器の厚さではデータは変わらない。陶器のほうは効果が一段分落ち、効果の減少が確認できた。この現象を待っていた。光での試験は可視光で進めて問題無いだろう。他の光の波形はいったん保留として可視光に絞り、追加試験を設ける。


光劣化試験その②釉薬を使用した時。

#####可視光/太陽光10倍/放射時間1時間/釉薬有#####

 ポ瓶【一級品】対照品。【効果******】出発物質。

 ポ瓶【効果****】

 磁薄釉【効果******】

 磁普釉【効果******】

 磁厚釉【効果******】

 陶薄釉【効果******】

 陶普釉【効果******】

 陶厚釉【効果******】

#####

 釉薬有では劣化無。磁器、陶器の間では劣化差は認められなかった。

さらに放射時間を延長して試験を持続することにした。星の数を数字で表す方式とすする。魔力量の関係で、数日に分けての実施となった。箱に手を当てるだけなので操作は難しくない。ずっと手を置くのは苦痛に感じ始めた。


光劣化試験その③。②の時間経過延長

#####可視光/太陽光10倍/放射時間5時間→10時間→20時間/釉薬有#####

 ポ瓶【効果0】→ 【効果0】→ 【効果0】

 磁薄釉【効果6】→ 【効果6】→ 【効果6】

 磁普釉【効果6】→ 【効果6】→ 【効果5】

 磁厚釉【効果6】→ 【効果5】→ 【効果4】

 陶薄釉【効果6】→ 【効果6】→ 【効果5】

 陶普釉【効果6】→ 【効果5】→ 【効果4】

 陶厚釉【効果5】→ 【効果4】→ 【効果3】

#####

 ここでようやく、陶器製と磁器製の差が出てきた。

 ポーション瓶の場合だと一時間で二段の効果減少。5時間後では効果0となった。おそらく、三時間ほどで効果は失われると推測される。陶磁器の材料の厚さでも差が出てきた。厚いものよりも薄いもののほうが結果は良い。なぜだろう?さらに疑問点が生じる。いったん保留とした。さらに陶器よりも磁器のほうが良い。数日に分けたのは幸いした。本を読みながらの作業とはいえ、箱に手を置き続けるのは苦行だ。


 光による劣化は一般的に照射時間と光の量で決まる。10倍の太陽光を5時間照射したとして積算すると、10×5=50時間分の太陽光となる。1日8時間太陽に当て続けたとして、6~7日分の保管日数だ。ポーションの有効期限と言われていた、一か月は現実的な話なのか? 経験に則ったものかもしれない。実際には、絶えず日の当たる場所に置くことはない。店では強い光とはならないこともある。爺さんの置き場も薄暗いカウンターの後ろだった。保管もほぼアイテムボックスだろう。一か月はあいまいなままとしていた可能性がある。非常にざっくりとした期限設定だと思う。

 それにしても、厚いものよりも薄いもののほうが結果は良かった。厚さが出ることでおきた現象となる。試験の光は可視光としたが、近隣の波長も存在したかもしれない。おそらく土器の材質が試験による光と熱を吸収した。素材からの熱輻射の効果が起きたかもしれないと予想を立てる。


 試験では磁器製・薄・釉薬が一番優れていた。今の段階として、6倍の延長とみている。一段階が完了したと判断し、結果をまとめ、考察に入った。


 爺さんの作業スペースにて清書をしていると、爺さんが一週間ぶりにふらりと帰ってきた。

 

 


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