第31話 回路

 パラケル爺さんは、ふぅ、と息付く。長旅ではないが、少し疲れた印象を持った。鞄を作業台に置き、こちらに話しかけてくる。

「久しぶりに城郭都市を訪問した。同業者に捕まり、元パーティーメンバーに捕まり、領主一族に捕まりと長くかかってしまった」

「確かに。ずいぶんとかかりましたね」

「最初の想定は三日だったが、向こうを出てくるのに一週間もかかってしまった。それでどうだ、進んのか?」

「居なかったときにしていたことは、2つです。両親の依頼で陶器の皿の作成をしていました。もう一つは課題のポーション瓶の保存については、光による劣化試験を行っています」


陶器、磁器の現物と、ポーション瓶の光過酷試験レポートを渡す。しばらく現物を見、ちらりと遮光箱を見たのちレポートを確認し始めた。読み終わると、爺さんは磁器をピィーンと弾く。


「まず、一点。これはやはり磁器だな。それに白度もかなり良い。白磁、青磁と呼ばれるものに違いない。魔導具と共に失われた技術だ。どうやってこの物の作成に行き着いた?」

「陶石の入手先は近隣の村からです。両親が探してきました。骨は自宅に捨ててあったものに【物質鑑定】を行った結果です。【物質鑑定】の項目も物事を突き詰めているせいか、精度が上がりました。物に依りますが、詳細に情報が出るようになっています」

「そうか。【物質鑑定】で出てくるようであれば間違いないだろう。アレは基礎情報も含めて、人により詳細の出る結果が異なるな。陶器の事を考えていながら【鑑定】をしたのだろう?たまたま結果がでたのか」

 後半は、ぶつぶつと言いながら考え事をしている。鑑定の結果を参考にして磁器が作成できた。この線で問題ないはず。"失われた技術"という言葉でドキリとした。

「課題のポーションの保存の問題は、ポーション瓶を基本に、と陶器を使用して条件を振りました。容器はこのような形です」

と、商人としての食品の流通を鑑み、食品の変質で光、熱、湿気などの保存に気をつけていることを話した。ポーションの作成した工程から、光に焦点を当てて試験をしたことを話す。磁器瓶、陶器瓶も薄、厚それぞれの現物を置く。

 なるほど、と爺さんは返事をして、集中して作成したレポートを読む。読み終わるとばさっ、とテーブルに置く。

「ポーションの瓶の素材は土から抽出されたガラス質だ。ガラスはポーションの魔素を拡散させない働きがあるのは分かっている。効果が劣化する原因が中身の問題ではなく外部要因とはな。初めての事実だ」

「太陽光に模した光魔法となりますが」

正確には、可視光しか含まれていない、太陽光となるがここでは話さない。

「それでも同じことだ。透明な容器が仇となったわけだ。このレポートによると、陶磁器には、釉薬を塗布した。ポーション瓶に使用していたガラスを釉薬に使用した。陶磁器に内と外にガラスの層ができ、魔素を拡散させない役割を付与することができたというわけか」

「はい、実験結果からそのように読み取れます」

「さらに、陶磁器の瓶へ変更することによって、太陽光からの効果の劣化が防げる。より薄い方がよく、陶器よりも磁器の方がより適している、と」

「はい。実験結果からそのように結論しました。ただ、弱点があります。ガラスよりは強くはなりましたが、ガラス瓶と同様に割れる点は解決できていません」


「ほう。そこまで考えが進んでいるのか。それでどうする?」

パラケル爺さんの片眉が上がる。

「そこを相談しようと思っていましたが…魔導回路を絵付けすることは可能ですか?」

「なるほど。ガラスではインクが弾かれて魔導回路を書き込めない。陶磁器ならではの発想だな」

「絵付けをして、機能で弱点を補強するのも良いと思いまして」

「確かに、陶磁器なら容易に書ける。それも規格品として作成するから、同じ紋様が使える。木彫からのインクの転写ができるし、筆で絵付けをする必要が無い。人手もかからないな。確かに、魔導具店ならではの案件だな」とニヤリと話す。


 どうやら仕事として面白くなってきたと感じたらしい。それにしても、一言言っただけでこちらの考えは分かってしまうのは長年の勘か?爺さんの思考誘導に基づき、さらに作成のための案を絞りだす。二人での討議を重ねていくことになった。

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