第37話 会議

 昼を過ぎた2の刻の時間となった。集会所に人物が揃い始める。ベルナル商会は4名全員出席となり、マリンは従者枠だ。パラケル爺さんとホーミィー村のサーカエ村長。ピレネ村とマーロ村の村長らしき人と補佐役。職人らしき人。貴族の風貌をした爺さんとそのお付きの騎士二名。それぞれ補佐役の他に実際の担当者もいる。総勢20名程度が村の集会所に集まった。開始を想定したのか、出入り口には騎士が張り付いた。


「それでは始めさせてもらう」

 全員が揃った時点でパラケル爺さんが司会進行を司るようだ。

「まずは、招集に応じてくれた皆に感謝したい。初見の者もいるので断っておく。ワシはパール家元相談役のパラケルだ。一代男爵を賜っている。ワシとベルナル商会のサルタンが共同でまとめ役を司っている。まずは、領主代行のお言葉を頂きたい」


 貴族と思われる人物の方に振り向き、言動を促す。今日は鎧を着ていないようだが、筋肉がはちきれんばかりに服が張り付いている。どう見えも筋肉で戦う戦闘スタイルのようだ。


「パール辺境伯家領主代行のホフマンだ。息子は今王都に行っているからな、奴の代わりだ。今日は楽しい儲け話があると聞く。進展を聞かせてくれ。ここは貴族の間ではない。言葉遣いは気にしなくてよい」

 端的に自分を紹介して、パラケルに返す。


「代行、ありがとうございます。詳しい経緯は、ベルナル商会のサルタンから報告をしてもらう」

 パラケル爺さんは当然のように父親に話を振る。父親は商人の語りで説明を始める。

「ベンベルク商人ギルド長アゼルの子、ベルナル商会のサルタンです。まずは私から開催までの経緯を話したいと思います」


 こちらのほうをチラリと見つつ話を始める。

「1か月位前でしょうか。我が息子のレッドが拉致されました。関係者のご協力を賜り、無事に保護されました。皆さまにはご迷惑をお掛けいたしました。御尽力に感謝申し上げます」

「大変、ありがとうございました」

 父親に続いて、自分も礼の作法をとる。


「恐縮ながら、話を続けさせていただきます。息子は魔法の教授をパラケルさんへ請い求めました。その習得の過程でポーション作りを学んでおります。すでに、1級品のポーションを作成できるまで上達しているようです。次の課題として、ポーションの改良を課題として与えられました。また並行して、魔術訓練と称し土魔法の教授を頂いております。息子が土魔法の自主練習を自宅の敷地にて行っていたところを目撃いたしました。複数の魔術を扱い、陶器を作成していたのには驚きました。その出来栄えを見、私は領内で活用できずにいた陶石を思い出しました。方々の商人に陶石の調達を頼み、息子に与え作らせました。我々商人の考えをまねたかもしれません。すでに【物質鑑定】を取得していた影響もあったのでしょう。各領で少数ながら作られている陶器、それに追加の工夫を凝らしたようです。結果、磁器の完成に至ったようでした。これを用いて、課題のポーションの改良、すなわち保存について臨み、解決したと聞いております。磁器の作成はポーション瓶だけでなく、食器などにも応用できます。長々となりましたが、経緯は以上です。ここで、作成物を出しますのでご確認願います」


 父親はアイテムボックスから磁器一式を出す。緊張しているのか一息つき、続きを話す。

「推定保存期間3年のポーション【一級品】です。この瓶が磁器製です。それとピレネ村とマーロ村の陶石で作成したそれぞれの磁器です」

 装飾無しの品をアイテムボックスから取り出し中央テーブルのまん中に置く。


 これは、最近になって魔導回路を組み込んだ封印シール付きポーション。マリンと共に考えたPVのロゴを、パラケル爺さんが魔導回路に組み込んだ。磁器の方は、大小の皿、壺、などをガラスコートした釉薬のみの白磁となる。

 "おおっ!"という声と共に、ともにガタガタと椅子から立ち上がり、参加者それぞれがテーブルの真ん中に集まり始めた。


 特に職人らしき人物がすぐに手に取り見定め始めた。

「こ、こ、これは、どこまで完成しているのか?」

「この試作品は息子が作成しました。配合割合は安定して作れるほどの研究進度となります。原料のそれぞれの石は、領主代行の協力の元、すでに採掘に着手を開始しました。領主案件のため、我が村もはじめ、各村長も協力的です。採掘をはじめ石の加工、焼成窯はそれぞれの村で作成が進んでいます。釉薬の研究はこれからです。ある程度軌道に乗るまで、ホーミィー村にて試作とこの磁器にあう釉薬の研究を試みる予定です」

 父親が返答する。想定した問答のようだ。話に余裕がある。


「ぜ、是非、釉薬の研究からさせてくれ!」

 名の知れない職人が懇願し始める。

「ジュアンよ、大丈夫だ。存分に研究してくれ。その為のお前だ。ただし納期は守れよ」 

 領主代行がジュアンと呼ばれた職人に諭す。

「了解した。おもしろい仕事が来た」


 ジュアンはもうすでに皿の虜だ。皿の出来栄えを確認しながら話す。

「ここで、一つ相談がある。特に代行に頼みたい」

「どうしたパラケル。なにかあったか?」

「この磁器の名づけだ。簡易的には白磁。青磁とした。発掘品のものと同一の名前としてもよいか」

「この出来栄えだ。よいのではないか?念のため、これからは村の名を冠して『ピレネ白磁』。『マーロ青磁』とすればよかろう」

「了解した。皆それぞれの磁器は、ピレネ白磁、マーロ青磁という名で広まることになる。周知しておけ」


 「各村長、職人の候補となる住民の公募も頼んだぞ」

 領主代行は各村長に伝え、父親に話を先に進めるように指示する。

「ホーミィー村では各村からの陶石と城郭都市からの魔物骨の供給を受けます。当面の間、ポーション磁器瓶と完成品のポーションの作成を優先させていただきます。将来的には、人・物が集積する城郭都市で完成品まで行ってもらいたいと考えています。代行様、工房の誘致をお願いします。城郭都市では、速やかに薬草の採取依頼と、乾燥、分別などの加工、薬草の備蓄を手配頂きたく、よろしくお願いします」

「了解した。工房への投資を行おうと思う。関係各所の資金協力も募ろう。工房の名前はそうだな、発案者のレッドから取って、レッド商会か?どうする?少年のレッドよ」

「お、おそれながら、私の名は・・・代わりにマルガリタ商会はどうでしょうか?」


「直接の名は嫌か?マルガリタ・・どういう意味なのだ?」

「代行様のパール辺境伯家から頂いて、パールを古語とするマルガリタではいかがでしょうか?」

「ほう、マルガリタ商会か。よいだろう。名はそれで決まりだ。パラケル、お前が代表となり会を動かせ」

「引退したのだが仕方ない。了解した。・・・副代表はサルタンとしよう」

「よし、決まったな。話を戻そう。薬草の保管はどう手配するのか?」


 領主代行が父親に疑問点を投げる。

「別途、陶磁器での保管甕を供給します。レッド。」

「はい。大甕程度の大きさなら、ある程度試験は完了しています」

「ポーションに必要な薬草部位は、葉と頭花ということが判明している。これもレッド少年が発見したことだ。薬草部位を乾燥してから分別だ。分けることで嵩も減るだろう。乾燥と気密・遮光が確保できる磁器ならば魔素の拡散も防げる。追って担当者に説明しよう。乾燥の魔導回路はワシに任せてもらう。専門分野だ。それほど手間でもない」

パラケル爺さんが追加で解説する。


「価格はどうなのだ?」

 領主代行。質問は端的だ。

「レッド少年。試算結果を」

 パラケル爺さんが自分を指名する。

「はい。改めまして、ベルナル商店サルタンの子、レッドが説明をさせていただきます。皆さんご存知のとおり、公定価のポーションの価格は銀貨10枚。薬草の買い取りはギルド間の協定により通常品質だと10本で銀貨1枚となります。これを魔術師へ通常銀貨2枚で販売しています。魔術師は薬草5本に対してポーション液・瓶一本の割合で魔術にて作成し、商店への卸価格は普及品で銀貨5枚。これは品質次第で変動します。商店の手数料は販売価の半量の銀貨5枚を上乗せして市場には銀貨10枚で流通します。商店は在庫を抱えるリスクを加味した公定価格です。ちなみにこれは【普及品】ポーションの場合です。【一級品】の販売価は上がります」

 パラケル爺さんをチラリと見、再開する。


「今回のポーション作りは、魔術を極力使わなくても良いように工程を分けました。薬草の買い取りは10本で銀貨1枚。変わりはありません。追加の工程として、乾燥・分別・保管・備蓄で5本あたり銀貨4枚程度の手数料とし、銀貨5枚で販売。ポーション用の磁器瓶は銀貨5枚で販売。抽出・液の作成の手数料として銀貨10枚。この工程には現在のところ魔術師が必要です。商店への卸価格は銀貨20枚です。販売価格は銀貨30枚を想定しています。また瓶の回収は銀貨1枚を予定しています。品質は【一級品】限定としたいところです」

 パラケル爺さんや父親と事前協議した内容を話す。


「値段は三倍だが、【一級品】限定。壊れにくい付与もある。保存期間は3年の効果の保証有。使用側の利点としてはいざという時の長期の備蓄も可能・・・いけるな。ただし国内公定価を考慮する必要がある。国王案件だ。別途連絡する」


「「了解しました」」

「またこれも後で正式に連絡をするが、備蓄ポーション1000本をまずは発注したい。量産体制が整い次第、追加発注となる。そのうち100本は国王へ持参するため早急に必要となるので用意してくれ。工房の設立資金は、各ギルドとパール家が担うだろう。当主に伝えておく。その際には都市に呼ぶからな」


「「了解しました」」

「各村長、協力をよろしく頼む。我が領が富むよう、皆で協力してくれ」

「「承知いたしました」」

「事がある程度軌道に乗ったのを確認した段階で、各担当者には褒美をだす。特に初期発見者のレッド少年と統括したパラケルとサルタンの三人だ。期待しておいてくれ」

「「「ご配慮ありがとうございます」」」

「最後にこの案件については、秘密保持が必要だ。特に磁器については貴族案件となりうる。魔法陣による制限をかけることに了承してくれ。君たちを守るためだ。」


 領主代行による言動の魔法陣が騎士によって参加人数分用意される。各人の魔力を吸収し執行した羊皮紙は燃えてなくなり発動した。陣をチラリとみたが、保持範囲は磁器の作成方法と配合割合の項目のみだっだ。それほど厳しい内容の契約ではなかった。


 これで会議は終了となった。1000本。金貨300枚の仕事。薬草5000本の買い取りが必要か。買い取りから行えばほぼ利益になる。それとは別に褒美がいただけるという。作ることばかりに気がとられ、まったく想定していなかったことだ。


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