第36話 予習

 1週間が経過した。この期間は、会議に間に合うように仕上げを行なっていた。アルテミ草の乾燥と分別の手引書を作った。そのほかにもポーションの保存期間の計算。磁器の作成方法の文書化に時間を取られた。いずれもパラケル爺さんの指導を貰いながらだ。

 父親からは見本となる白磁、青磁の各用途別の皿、壺の作成を依頼された。白磁とは、ピレネ村産の陶石をつかった磁器。青磁はマーロ村の陶石を使った磁器だ。それぞれの色にちなんで過去に倣い名付けている。パラケル爺さんも白磁、青磁の話をしていたからだ。過去の失われた技術の一つとのこと。発掘されて解析と復元に廻されるらしい。完品は非常に高価な値が付く。

 属性魔法の習得も少し進展した。光魔法とは対極な闇魔法が習得できたのだ。光魔法は原子などを扱うに対して、魔素、空間、時間などを扱う魔法のようだった。自分は、界渡りをしてこちらに移っている。ある程度の親和性はあったのだろう。今の恩恵としては魔素の扱いとアイテムボックスの容量が向上したことくらいに留まっている。


 当事者会議は、ここホーミィー村の集会室で行われる。少し大きい部屋で、村の重要事を決める場所でもある。先日運営会議なる集まりに母親が行ったのもここだった。父親のサルタンが主催者となり準備をしていた。自分は会場の設営係だ。指示通り四方向き合うように椅子を置く。椅子の数が随分多いことに気づく。自分の想定では5人のはず。パラケル、両親、村長と自分の5人と思っていた。


「会議は改良ポーションの進捗を確認する目的で開くよ。今回の重点は容器のほうと思っておきなさい。勿論、ポーション液の成果も重要だよ。方々声をかけたところ、総勢で10人だな。いや付き人も含めると二十人くらいか。それぞれの持ち場を担当する者も紹介したいと思う。」

「随分話が大きくなっていたのですね・・・」

「現状のポーションに問題があったということだ。むしろ興味を持ったのは容器のほうの磁器だ。生産についても具体的な話をしたいと思う。領主代行も来るらしい」

「領主代行!?」

「ああ。領主の親父だな。60歳くらいの爺さんだ。パラケル爺さんの同期で、今でも魔物討伐の現役の猛者だ。パラケル爺さんからの紹介で今回の話となった」

「またどうゆう経緯で・・・」

「パラケル爺さんが城郭都市に行った時があっただろう?商人ギルドでたまたま会ってお前の話となってな。爺さんからは改良ポーションの話題。オレからは焼き物の試作品の話となったのだ」

「どちらも原材料の手配の関係上、商人ギルドが関連しますからね」

「焼き物の試作品を見た爺さんは、これは磁器だとその場でわかってな。パール家に伝えたほうが良いと言ってきた。パラケル爺さんは元相談役だ。領主には顔が利く。爺さんの伝手で領主に面会をすることとなったよ」 

「元相談役とはいえ、すぐに会えるものなのですか?」

「そうか知らないか。あんまり伝えていないからな。領主代行とパラケル爺さんは盟友だよ。代行が相談役にしたぐらいだ。冒険者仲間も同席したことも影響したかもしれないな。磁器の試作品を報告したところ、代行のほうが乗り気になったな。興味をもったのがわかるくらいだ。どちらにしても経過報告をしていたよ」

 パラケル爺さんは領主とすぐに会える立場のようだ。爺さんはやっぱりすごい人だったのか! 学院に招集されて成果として本を執筆するくらいだ。第一人者だったのだろう。次からはさらに敬意を持って接しようと思う。


会議の設営をしながら父親が続ける。

「代行が興味を持ったため、話が大きくなった。他領から陶器を購入していたので資金が流出していた。特産品となりうる話は大いに歓迎された。いままでは脳筋の領と言われていたからな。勿論資金も人の手も報奨も領主から出る。そこで今回関係者を一堂に介して報告会と当事者会議だ。勿論、秘密保持の契約もしてもらうことになるだろう」


 なるほど、会議まで随分余裕を持って組んでいるのはそのためか。城郭都市まで一日。都市から周辺の村まではそれぞれ一日。そこから来るとなると、1週間の猶予期間があったのは理由があったのだ。


 はじめは同情からくるものだろうと思っていた。魔術訓練はすんなりと許可が降りた。ポーションの作成は商人の学習素材として使われた。途中まで父親はパラケル爺さんを指導教官として頼み込み、教育方針を立てていたに違いない。陶器ではなく磁器を生み出すまでは。磁器を作成した後はずいぶんと根回しに奔走したように感じる。成果物については想定よりも大事になったように思えた。特にパラケル爺さん経由で代行が乗り出したことは想定外だったようだ。

 1週間もかけて城郭都市に行っていたパラケル爺さんは、自分のために随分動いてくれたようだ。根回し、相談と、水面下にて交渉をしていたのだろう。今思えば指導中は放置されていたように感じたが、それとなく大人の目が合ったことに気づく。拉致の件もあったのか、心配をされていたのか?観察が母親とパラケル爺さん。ポーションを教材とした商人教育は父親。パラケル爺さんが技術面の指導と言った感じだったのか?今回の課題はそれとなくみられていたことに気付く。


自分を随分と気にしてくれている人々が居るのだ。レッド少年の支援がほぼなくなり寂しくは思っていたのは事実だ。自分の存在が露見し、放り出されることも少なからず想定していた。大切に育ててもらっていることが分かり、胸が熱くなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る