第35話 描画

 次の日の朝。ポーション瓶の図案を考える。一目でポーションと判別ができるもの。ベルナル商会とパラケル魔導具店と関わるものにしたい。いわゆるロゴを作成することにする。魔導具にて使用する古代文字として、当てはめるとベルナルはVernard。パラケルはParacel。ポーションの原料のアルテミ草。ポーション瓶のマーク。

 現状では商会は流通を、魔導具店は製造を担当すると想定している。荷馬車で流通を示し、ペンで製造を、アルテミで原料を図案化したマーク。それぞれの頭文字を使用しPVでブランドを示す。自分の名前Redは要らないだろう。食事の前に、うーんと紙に書いていると、マリンがヒョッコリと現れる。

「レッド兄ィ。朝ごはんだよ。あっ起きてる。何やってるの?」

「ポーション瓶の図案だよ。新しい磁器でね。」

「へー・・。なんかごちゃごちゃしてるね。」

「そうなんだよ。もう少し単純化したいな」

「荷馬車とペンはいらないよ。描くの大変だし。PVでいいじゃん」

「P.V.の文字とアルテミか。それでも良いかも」

「それならこんな感じかなぁ」

とスラスラ可愛い感じでイラストを描いていく。アルテミの図もデフォルメされて描かれている。アルテミの葉に囲まれた瓶とPVの文字だ。この子は絵の才能でもあるのか?

「おっ。いいね。採用していい?」

「いいの?私が書いたモノだけど。」

「シンプル図案なら作りもしやすい。これでパラケル爺さんに話してみるよ」

朝ご飯の時には、図案化の話をした。マリンも手伝ったんだよ、と自慢げに話す。両親も加わる。家族の会話だが半分議論だ。図案はマリンの案が有力だ。


 もう一つの話題として、魔術訓練とポーション瓶の進展状況を説明した。初等の魔術訓練は終了した。今は魔力制御を兼ねて、魔道具作りに入っていることを話した。

「もう魔術訓練は終了したのか?早いな」

「そういえばパラケル爺さんにも言われましたね」

「魔道具作りか。パラケル爺さんは専門家だからな。そういえば本を書いたことがあるらしい」

「そうなんですよ。わかりやすく書かれた2冊の本を渡されました」

と実物を出す。両親はパラパラと本を見始めた。

「まるで図に書いてあるものが読めないな。頭が痛くなりそうだ」

両親には、開設文書は文字には見えないようだ。

「2冊組み合わせながら読み進めるとわかるようになっているみたいです」

「『魔導文字列解析』、『パラケル流魔導具作成法』は有名な本よ。魔導具作りをするものなら必ず持っているくらい」

本の表紙をながめたジーナ母さんが指摘をする。

「パラケル爺さんはすごい人だったんですね」

「すごいも何も、国から実績をもらって一代男爵よ。当時は画期的なことだったみたい。いまは村のご意見番に収まっているけど。実はすごい人よ」

爺さんは男爵だったのか! まったく貴族には見えなかった。


「そのすごい人に、ポーションの改良の課題を出されています」

「ほう、どんな課題だ?どこまで進んでいる?」

「ポーションは1か月の保管しかできないですよね。効果の期限を延ばせないかと課題をだされています」

「また難しい課題だな。パラケル爺さんも無茶を言い出す」

「ポーションの期限が長くなると利点が多くなるともいっていました」

「実際に店で売れないときは廃棄になっているよ。損失は店持ちだからきびしいな。扱わない店もある」

「儲かるのは魔術師ギルドだから改良に本腰とならないわね」

商人側では不満の様子だ。

「現状問題としているのは容器です。改良すると追加の仕事が出るので価格が上がりそうです。もう一つの改良を組み合わせて対策を取ろうと思っています」


 両親から提供された陶石を使用してポーション瓶を作成した。魔術訓練にて光魔法の習得ができた。商品の箱を改良して試験箱を作成した。これは両親には購入時に話したかもしれない。魔法と箱を組み合わせてポーションを試験したこと。太陽光に不安定なことを突き止めたことを話す。

 魔道具の作成の手引きを使用して遮光箱という魔道具を作成したこと。作った魔道具と磁器瓶で性能の確認をしていること。磁器を素地とすることでガラス瓶並の硬度に収まったこと。劣化に関しては、大幅に改良できそうなことの進捗を話す。

 これからは、パラケル爺さんとの共同の仕事となる。クズ魔石と魔導具化をすることで割れない瓶とする検討をすること。磁器の素材にしたため、直接魔導回路を刻む見通しがあること。魔導回路のデザインを考えたときに、今回の図案の件の話となった。昨日の時点で、爺さんとは瓶の規格を決めてきた。爺さんの仕事として数値化は多分終わっているだろうから、魔導回路の構想を練っているはずだと両親に告げる。


 手間賃による上昇を和らげるためのもう一つの改良は、液性の等級を上げる方法だ。技術的な改良とすること実行できると思う。薬草の下処理を入れることで生産品質が大幅に上がった。魔術師ではなくても普及品のポーションが作成できるように改良できることは大きい。さらに魔術師の工程を一工程挟むことでパラケル爺さんが作成する品質まで上げることができる。値段が上がるからには、普及品ではなく、一級品としたい。

 そんな報告を両親は静かに聞いていた。特に父親のサルタンは徐々にその態度を変えた。親子の間ではないような雰囲気でかしこまって話す。


「レッド。これはもはや訓練ではない。これは立派な商品開発だよ。パラケル爺さんもずいぶんと無茶な課題を出したものだ。それに応えたレッドも良い働きをしたと思う。これはもう一人前の商人と技術者の仕事に値する。一度、関係者を集めて話し合いを開こう。我々の村だけで考えない方がよいと思う。それぞれの進展状況を確認して共通認識を持とう。私の方からも報告がある。勿論パラケル爺さんからの報告もあるだろう」


開催は一週間後となった。当事者をすべて集めて、商品化に向けての話をすることになった。

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