第38話 反省

 会議が終わり、両村長とお付きの人はかなりの喜びようだ。窯業として村営の事業ができる。安定した仕事を村民に与えられる。いままで活用できなかった陶石の採掘ができる。絵付けの技術指導が入り最終製品を作ることできる。窯元として利益を安定して得られる。それは喜ぶだろう。

 我がベルナル商店も、商人ギルトでのランクが上がる。貢献度に応じてギルドに意見を通しやすくなるのだ。城郭都市に住んでいる一族の販路を安定して持つことがでる。商売の活性化ができる。領主は他領に落としていた資金を領内で循環できる。加えて魔物素材以外の文化的な商品で稼げる。自分も生きる術が増えたのは良いことだ。


「パラケル。自慢していた弟子を改めて紹介する必要があるんじゃないのか?」

領主代行のホフマンがパラケル爺さんに気兼ねなく話す。確か二人は盟友だっけ。

「ここではいらない話だろう」

 爺さん。しょうがない、とレッドを紹介する。

「ベルナル商店のレッドです。先ほどの会議では失礼しました」

「お前がサルタンの息子のレッドか。ずいぶんと聡明な受け答えをしていたな。年回りは孫と同じくらいだがびっくりしたぞ。会議では大人たちの間で堂々と渡り合っていた商人の顔だったよ。魔術の取得の速さ、観察力などは魔術師連中とは違うと聞いている。独創的な着眼点があるようだな。パラケルが自慢するだけのこともある」

「小僧はすでに4つの属性魔法と光と闇を習熟している。物質鑑定もできる。魔導具作りはこれからだがな」

「この年でそれくらいできれば十分すぎるものだ。わが孫は属性魔法で難儀している」

「今は学院だったな。たしか。当主が見えないのは王都に入り浸りか」

「孫2人ともに学院にいっているからな。オリヴィエも付き添いで王都暮らしだ」

「代行が現役でバリバリ魔物を狩っているから当主も楽だろうよ」

「・・・それよりも少年のほうだ。レッドという名、覚えたぞ。サルタンの子というと商人ギルド長の孫か。彼には都市の運営で手助けしてもらっている。城郭都市に来たときには気軽に寄れ。すぐに面会できるようにしてやろう。オレは城郭都市で気ままに魔物狩をしている」

「ありがとうございます。その際には頼りにさせてもらいます」

「それと報酬の件はまだだったな。期待していい。パール家で報奨をしっかりと考えておく。・・・具体的には進学と金銭面となるだろう。ポーション代はもちろん別だ。ギルドに支払っておくからパラケルと両親と相談しておけ」

「ありがとうございます。ありがたく頂戴いたします」

「ああ、これからも励めよ」

 ホフマンは、パラケルと少し話した後、騎士2名ともに去っていった。言葉は社交辞令というやつかな。今回は顔つなぎと思う。次第に見えなくなる馬車を全員で見送った。ピレネ、マーロの各村長はパラケル爺さんとサルタンとを交え今後の流れを確認する。技術支援を随時おこなうようだ。満足した返答をもらった一行は帰宅の途につく。


「反省会だ。パラケル爺」とサルタン。

「ああ、レッド少年。これからもう少し詰めていくぞ。」

サルタン、パラケルと3人になった会議室で進捗を話し合う。

「領主からの各村での広域な事業の承認は降りた。発注も出た。あとは関係各所に連絡して連携だ。ベルナル商店だけだと到底流通は追いつかないだろう」

「陶石の運搬は我が一族含め、商人ギルドも巻き込む。薬草の買い取りをした後は、工房と人員の確保も必要だな」

「商人ギルドだけだと不平不満を生む。買い取りを行う冒険者ギルド、保管と販売を行う商人ギルドを巻き込む。独占は良くない。代行の話にもあったが城郭都市は一致団結してあたるようだな」

「そうなると魔術ギルドも必要だが、どうする?」

「ウィザーリングの扱いが面倒だが何とかなると思う。代行が間に入るからな。本音を言うと下のギルド員さえ協力してくれればよい」

「下のギルド員は把握しているからな。教授殿」

「その称号はやめてくれ。もう捨てた。工房の設立はどうする?」

音頭はパラケル、サルタンの両名で領主一族からの指名だ。こちらに全て委ねられている。貴族が興味を持っているのは磁器の生産と元売り販売だ。


「貴族の興味があるのは磁器。ポーションは付属したものにすぎん。今回設立する工房は2つの役割を持たせる。一つは磁器の技術支援。これはポーション用の磁器瓶の作成と各村の支援事業だ。これは領主の期待している事業だ。もう一つは薬草の処理とポーションを作成する事業だ。これは我々の希望しているところ。磁器瓶の生産については事業が軌道に乗り次第、各村に委ねていく方針を考えている」

「ポーション事業は必須だな。金は出させてもらう。領主側の大量発注を呼び水にさせてもらおう」

「ベルナル商店でも出資しておきたい。領主も各ギルドに出資を募るだろう。魔導師ギルドにも・・副ギルド長に話をすればよいか?」

「ああ、そのくらいでよいのではないか?最悪魔導師の派遣程度でも構わない」

「よほど、魔導師ギルドからポーションの作成を奪いたいようですね」

「そのくらいしないと専売の特権に胡坐をかき、進歩がしないのだ」

「確かにその通りですね・・・製造と販売とに分ける、か」

「一定品質のポーションは工房でつくる。販売はそれぞれ商人ギルド、魔導師ギルドで行えばよい。従来品のポーションが必要なら魔導師ギルドの専売で従来通り扱うのだから」

パラケルさんは魔導師ギルトに不満でもあるらしい。意見が辛辣だ。

「それでは、自分は商人ギルドを担当し、陶石の流通、工房の確保を担当する。併せて冒険者ギルドと商人ギルドへの折衝をします」

 「頼んだ。ワシは領主との顔つなぎと各村への技術指導となるな」

2人で工房の設立と役割分担を次々に決めていく。これが商人の話し合いか。勉強になる。

「レッド。お前は発注されたポーションの作成だな。あとはホーミィー村での焼成窯での磁器の試作の続きだ。ジュアンとの釉薬研究の担当をしてくれ」

父親から仕事の依頼だ。合わせてパラケル爺さんから補足が入る。

 「具体的な課題は、備蓄用の大甕瓶の作成と、焼成窯での白磁作成条件の詰めだ。大甕用の魔術回路は紙に書いておいた。刻んで試してみてくれ」

「保存用の大甕ですね。了解です」

「白磁の作成は、当然魔力を使用しない方向でだな。ジュアンは大いに役立つだろう。並行して絵付けに使用する釉薬をジュアンと共に研究してくれ。これはジュアンの専門だ。材料を供給しながら脱線しないように見てくれればよい。帰ってきたらワシも合流する。合間に領主に依頼されたポーションをいつものように作成してくれ。アルテミ草の確保は村長にお願いしておいた」

「了解しました」

「領主代行の話は本当だぞ。金は当然として、金銭面の後押しを付けた留学はかなり押してくるだろう。期待してしっかりと励むのだぞ。もっとも今回の案件は成功する未来しか見えない」


 家に帰宅したサルタンは母親と話をした後、城郭都市へ移動していった。爺さんは大甕の作成を待って、遅れて城郭都市へ移動するらしい。

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