第16話 自練

 魔力回路の自主練をして10日。ようやくそれなりに動かすことができるようになった。毎日爺さんの店に通い、爺さんからのまずまずだなとのお墨付きをもらった。これで次のステップを踏むことを許される。


 次の訓練は水の移動だ。ポーション作りにおいて、薬草の魔力成分を抽出するので、魔力による水の操作が必須のようだ。人間は食事を摂ることで、自然界の魔力を取り込む。人には固有の魔力があるので、人から人へ魔力を渡すことは非常に難しい。できないことはないが、できる人間は限られているとのことだ。教会に努める聖職者などの一部ができるらしい。


 水の訓練は、まずはコップの水の移動からが定番のようだった。コップの水を支配下に置き、ぐるぐる掻き回す。掻き回した後、水を出したり、宙に浮かべたりして制御を行う。訓練を行ってきた結果、体内での魔力の循環はずいぶん慣れてきた。コップの水に置き換えただけの体外の魔力操作は、勝手が違い魔力と精神力を消耗させていった。水にある魔素を制御下に置く。必要な魔力量と制御は、個それぞれで異なる。制御できるぎりぎりで、消費を抑える感覚は共通となる。人それぞれの奥義みたいなものだ、と爺さんはガハハと話す。バケツ一杯くらいの水を思い通りなるまで続けるように、と言われて、地道な訓練だ。


 訓練をしながら、もはや定番となった爺さんの話は続く。

「属性魔法で使用する水魔法というものがある。魔力を変換して大気中の水を集めて放出する魔法だ。属性魔法は、無から有を作り出すことはできない。魔法で作った、集められた水は、自らの魔力に染め上がっているので、ポーション作りには適さない。自分専用のポーションにはなるがな。他人の水魔法の水は少量なら飲むことはできる。体内の魔素が乱されるのでたくさんは無理だ。自然界の魔素は特徴がなく汎用性がある。魔素に固有の波長が乗っているのがヒトの魔力だ。長期に飲まないといけない場合は、水竈などに数日置け。置くことで個人魔力の影響を抜くことができる。自然界の魔素に変換すれば飲用が可能だ」


 そんな話を聞きながら、コップの水の制御を行う。初めは水の移動も難しいし抵抗があるなと思った。そういえば水の成分はなんだ?と思いを馳せてからは操作が早かった。つらつらと脳内で再生される。もちろんH2Oだ。むこうでは、小学生でも知っている。このコップの水は、純粋なH2Oではない。微量ながら鉱物も含まれている。温泉やペットボトルの裏側にある成分表を思い出した。

 環境衛生では水の成分分析も行ってきた。前の環境は当然のように衛生概念が整いすぎていた。環境衛生の分野も職務なのは、悲しいことにあまり知られていない。水の品質確保も職業としての仕事の一つだった。基礎実習もあったのも思い出す。水にはH2O以外にも、さまざまな物質が溶け込んでいる。Na、K、Mg、Caなどのミネラルや土壌由来の有機物質を含んでいる。さらにこの水には病原、非病原関わらず微生物もいるだろう。もちろん、塩素による消毒という概念はない。衛生管理という考えもあっても少ないだろう。

 

 そんな世界の水には、混在物も多いに違いないと水以外の混在物、微生物などの存在を認識しつつ、手元の水を観察する。飲用できそうなほど綺麗な水に見える。水の中には混在物があるから抵抗がある。そのように理解をしてからは早かった。制御下におくため、水に魔力を満たす。成分を把握し、仕分ける。不純物が濃くなったところは捨てる。分離した水だけを操作すると、今まで抵抗が嘘のように動かすことができた。

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