第15話 魔法

 魔力回路の増強訓練は続く。起きている間はできるだけ費やしたほうが良いとの爺さんの話があった。起きてから、家業の店頭に立つまでの間。取引相手の細工職人、鍛治職人へお使いに行くとき。あらゆる隙間時間に行っている。こういった地道な作業は案外得意だ。筋肉痛のごとき痛みがあるのは困り事だが、確実に身につくなら更なおさらだ。妹からは構ってくれないと苦情がくる。



 魔力回路の増幅訓練の間に、爺さんは魔法の知識として講義のように伝えてくれる。いつもは寡黙だが、爺さんは専門分野になるとペラペラと喋る。

「ワシの【職業】は魔導師だ。属性魔法全般と、錬金が得意な魔法専用職となる。もちろん魔法も使えるぞ。属性魔法は火・水・風・土・光・闇・無だ。まあ、一般的な範囲だな。現在わかっているのは六属性となる。それぞれを複合する魔法も存在する。アイテムボックスは無属性で、大体の人間に適応がある。収納量には人により大小はあるとのことだ。商人は一般的に容量が多い。戦士や格闘系の職業は申し訳ない程度の量だな。【職業】による恩恵もあるが大体は魔力機関の総量によって増えていくぞ」


 魔導具店として店を開いているのもあるだろう。系統だった魔術と魔法陣への知識は非常に深く感じる。魔力・魔術への理解がないと魔導具は作れないためだ。

 爺さんは、基本4属性と無属性を持っている。兵士の話では、大体が生まれてから7歳くらいまでに適性数が増えていき、七才の石の儀式にて固定することが多いとのことだった。


爺さんの話は続く。

 「学院の研究によると本人の経験と血統により決定されると推測されている。魔力機関の魔力の蓄積量は人ごとに異なっている。一般に血統に準じて初期の量がきまる。領主一族などの貴族に適性が多い傾向だ。訓練で量を増やすこともできるらしいな。たまに隔世遺伝で魔力量の多い庶民が現れることがあるようだ。大体が冒険者の魔法職となっているようだ。ワシも庶民の隔世遺伝者で魔法量が多い。小僧もそうだと思うぞ、拉致の後で魔力量が格段に増えたと感じた。経験でも増える事例があるらしいからな」


"拉致の後"という言葉で、ドキリとする。"経験でも"という補足で内心安堵する。一瞬乱れた魔力を正して循環させる。パラケル爺さんは、こちらをちらりと見た後、話を再開する。

 「体内の魔力機関の総量で、規模の大きい魔法、もしくは一日で使用する魔法数の増加が可能になる。魔力回路の訓練により扱う魔力の出力量を増やせる。今回訓練しているのはコレにあたるな」

「魔力量はわかりました。魔力波形では何かあるのでしょうか?」

「学院でも今のところ分からない。魔術の適正に関わっているのではないかという学説があるだけだ」

 電気でいう電線の太さと充電池の総量に近いと思う。電力を魔力で置き換えた場合、電流は魔力回路。電池は魔力機関に相当すると思われる。では電圧に相当するものは? 魔力出力を電力と想定して考える。電力は電流と電圧の掛け算で決まる。そうなると個人で異なる魔力波形が電力に相当するとみている。残念ながら仮説段階で検証はできていないらしい。魔力波形と電力との関係は今後確認してみよう。


爺さんの話は魔道具の作成に移る。

「魔導具の作成は、魔素が多く含まれるインクを使用することで発現する。インクを作るには魔力を豊富に含む植物と魔力の塊である魔石が原材料だ。魔石を動力源とする魔導具は、魔力回路を通じて魔法陣から魔法を出力することで効果を発揮する。魔法陣は、ヒトの属性魔法を放つ擬似的な出力装置の役割だな」


 魔法陣は、特殊な古代文字を使うと言う。この国に限らず、種別間の共通言語はアルミア語だ。たいていの場所ではアルミア語が通じてしまう。ここで問題となるのは、魔法陣で使用する古代文字とアルミア文字体系が異なることだ。別言語の理解と学ぶ知識が格段に少ないのだ。古代文字の文字体系は4種類ということがわかってきたという。さらに組み合わせて使用していることが難解とさせていた。学院にて学び、習熟していないと解読は無理とのことだった。自由に記載できるのはほんの一部に過ぎないと爺さんが胸を張って話をする。学院の研究過程で、古代文字の文字体系は4種類ということがわかってきた。


パラケル爺さんは魔導具を解体して魔法陣をこちらに見せる。

「緻密に書かれていますね」

「ああ、いかに正確に記述するかで稼働の安定性がきまるからな。発掘される古代の文字は個性があって大変なのだ。昔は一つ一つ紐解いて解析したのを覚えている」

 

 心がざわつく。日本語と英語を組み合わせた制御言語と回路図だからだ。カナ、ひらがな、漢字、英数字の4種となっていた。他にも界渡りをした人物がいて伝達したのか? 古代の発掘品として出てきているらしい。自分が渡っている以上、むこうとこちらに関連があることは否定できない。 4種類の文字体系が含まれているので、こちらの人間にとっては難解らしい。自分には、少し達筆な日本語と英語といった印象を持つくらいだ。尊敬の眼差しを向けたが、心の中は動揺が隠せない。必死に魔力の制御を図る。


 魔導具は、電力を動力とする家電にますます似ているように感じる。さらに文字が読めてしまうことはどこまで開示すればよいのか?不審に思われないように注意しなければならない。現在は修行中。自重が必要と心に刻む。

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