7.魔力の種類と使い方


 次は俺の衣服を調達する為に服屋へと向かう。ファッションセンスが無いとは言いきれないが、こちらの世界でのファッション感覚は皆無の為リサラとモニカにも見てもらう事にした。


「郁!これなんかいいんじゃないかしら」

「お、良さそうだな。さすがリサラ」


 リサラが持って来たのは黒のベストに白いズボン、それに合わせられる白のケープと呼ばれる物にブーツだった。ほぼ全身コーデでなかなかにかっこよさそうで俺好みでもある。


「これにするか……いや待て。俺金ないぞ?」

「安心しなさいって。ここも私が出すから」

「さすがに悪いだろう」


 魔道具も買ってもらい服まで買ってもらうとかただのヒモでしかない。そんなのはお断りだ。断固として拒否していたが、モニカより提案されてしまった。


「それならばクエストの報酬でリサラ様に返す、というのは如何でしょうか?」

「確かにそれなら郁も気にしなくて済むわね。これでどう?」

「そうだな……今回はそうさせてもらう」


 こうして一時的にではあるがリサラに借金が出来てしまった。きちんと返すべくクエスト、と言ってもどんな物かはまだ分からないが頑張るのみだ。


 買い物を済ませ外に出ると既に日が沈みかけていて、綺麗な夕日が視界に飛び込んで来た。丁度良い頃合だと宿に向かう途中でふと気がついた。シナは何故俺の魔力について分かったんだ?リサラですら分からなかったのに。


「なぁリサラ。何でシナは俺に魔力があるって分かったんだ?」

「あぁ、シナって眼鏡かけてるでしょ?あれ特殊な眼鏡らしくって。あれで見たら魔力を持っているかは分かるんですって」


 本当にリサラは情報通だな。それを聞いて納得したけども。それもあってまず魔道具屋に行く事にしたらしい。


「宿に着いたらまずこの国について学びましょうか」

「私も少しならお力になれるかと」


 リサラはこの後の予定を提案してくれる。未だ戸惑っている自覚はあるから、しばらくは頼ろう。頼りっぱなしは気が引けるから、慣れて来たら俺が指揮してもいいよな?


 そんな他愛も無い話をしている内に宿の目の前まで来た。建物内に入ると人の良さそうなおばちゃんが受付に居た。


「あ、あの。予約していたモニカです」

「はいはい、モニカさんね。2階の角部屋とその手前の部屋だよ」


 モニカが率先して受付のおばちゃんに声をかけた。予約してくれていたおかげでスムーズに行けている。


 おばちゃんから部屋の鍵を受け取り、2階へ続く階段を登る。与えられた角部屋の前で一旦2人とは分かれた。


「一気にいろいろ起きすぎだろ……」


 冷静に対処してはいたが、内心テンパっていた。それに対応出来たのはリサラが居たから。彼女が居なかったらここまで対処しきれなかっただろう。2人のお陰で1日目を終えられそうだ。


 特に荷物も無かった為、先に1階の食堂へ向かおうと部屋を出ると、丁度2人が部屋から出てきた。


「丁度よかった。この宿の裏に行ってちょっと軽く戦闘訓練をしましょう。と言っても簡単にだけど」


 言われるがまま裏に行くと、モンスターは出そうにないような小さな森があった。日が暮れて薄暗かったが、明るい方だ。そこでふと疑問を感じた。


「戦闘訓練ってリサラが相手をしてくれるのか?」

「まさか。ここには弱いけど経験値が貯まりやすいモンスターがいるのよ」


 リサラの言葉と同時に木の影からハムスターのような見た目のモンスターがひょっこり顔を覗かせていた。大きさは犬くらいだが、どう見てもハムスターにしか見えない。


 え、あれを倒すのか?良心が痛むな……。


「あれは "ムル" よ。まぁ、郁に分かりやすく言うとスライムよ、スライム」

「すらいむ、とはなんなんでしょうか?気になります!」


 いや、見た目ハムスターでスライムは無いだろう。恐らくスライムと同じく序盤に出てくるモンスターだと言いたいのだろうが。またしても隣で瞳を輝かせている子が1人。急に好奇心が前に出てきたな。


「スライムは後で説明するよ。で、倒す前にまず魔力の使い方が分からないんだが?」

「魔力を使うにはまず魔道具が必要なのよ。これは例外は無いの」


 言いながらリサラも魔道具を出す。何処にしまっていたのか、身長よりも長い杖を取り出した。先端には小さな水晶が付いている。


「魔力の出し方はこんな感じかしら」


 言うと同時に杖をムルに向けると、ムルは光に包まれた。次の瞬間、ムルの姿は消えていた。


「魔道具を的に向けて、力を込める。そしてどうやって攻撃するか頭の中で想像するのよ」


「頭の中で想像……?」


 先程から得意げな顔で説明してくるのが気にはなるが、今は魔力の使い方を教わっているから何も言えない。


 俺は試しに近くの石に向けて剣を振る。風力と言われた事を思い出し、何となくだが風で草を切る様子を思い浮かべた。


 すると、石の周りの草の周りに風が吹き、その草は切れていた。


「まだ固いものは壊せないか……モニカも実戦形式じゃないと訓練にならないし……」


 リサラが顎に手を当て考え出してしまった。俺とモニカは顔を見合わせる事しか出来ない。


「うん。簡単な依頼を受けてそこで訓練しましょう!私がサポートすれば終わらせられるはずだし」

「悪いなリサラ」

「リサラ様、ありがとうございます」


 その言葉で2人してホッとした。依頼をクリアしていけば強くなれるのは確かだ。戦闘訓練は依頼の中でする事に落ち着き、次はこの国の基礎知識を学ぶ為に宿に戻った。







「さて。次はこの国、セルティマータとルーティスについてよ」

「セルティマータはとっても大きな国で、ここ、ルーティス街の他にも町や村なんかもあるんです」


 リサラが仕切り始めたかと思えば、モニカが説明を始めた。分担したのか?


 セルティマータ以外にも国がある。ここでの通貨はルギー。基礎知識はそのくらいの量で、ほかの事はその時々で説明してもらう事となった。


「1ルギー1円と考えて問題はないから安心なさい」

「それは助かる。というかなんでリサラは日本に詳しいんだ?」


 リサラの口からは普通に日本の言葉や通貨が発せられている。俺の部屋に来た事と、探しに来た事。それなのにモニカは日本に関する知識はない。辻褄が合わなすぎる。その理由が明かされたと思えば衝撃の事実も明かされる事となった。


「日本についてはね、国王とその補佐しか知らない事よ。国王は日本から転移してきてるの」

「え、は?ほとんどって」


 俺は空いた口が塞がらないという体験は初めてだ。ほとんど日本から転移?中には例外もいるという事か?すました顔でで言ってみせたリサラはじっと俺を見つめていた。モニカはリサラを見つめている。


「先代は隣の隣の村から選ばれたのだけど、この国から選ぶと妬みで暗殺されてしまったからやっぱり日本から探す事にしたのよ」


 日本から探すのも容易ではない。これからはセルティマータ国から選出する事にしたはいいが、他の国民から暗殺を企てられて実行されてしまったと。セキュリティ低く無いか?なんだか怖くなってきたぞ。


 基礎学習はこれで終わりにし、明日に備えてそれぞれ部屋で休む事になり、備え付けのベッドに寝転がった。


「なんか、大変な事しようとしてたのか、俺」


 思い返せば、リサラが困っているからと安請け合いしてしまったような気がしてならない。別に彼女を責めたいわけじゃない。俺の悪い癖なのだ。困っている人を放っておけない。他人が困っている事にすぐ気づいて声をかけてしまう。それが例えどんなに些細な事でも。それが気味悪いと思われていたらしい。


 だが、こっちにきてリサラに俺が必要だと言われ、モニカに尊敬されて、正直調子に乗ってしまっているかもしれない。けどそれで良いのかもしれない。


 魔力をちゃんと使えるようになって強くなりたい。


 まずはそれを目標にしよう。それはそうとどうやって自分のレベルを知るんだ?ずっと気になっていた事を聞こうとした瞬間、受け付けに居た女の子が俺たちが座っている座席に向かってきた。その疑問をモニカに聞けば、ユリランさんから泊まる宿の確認を取っていたと教えてくれた。


「ごめんなさい!さっきコウランが渡し忘れたみたいで」


 焦った様子で差し出された物はさっきも見たタブレットだった。


「依頼を受けて頂くのに必ず持っていて欲しいので、間に合ってよかったです!」


 それだけ言い残してタブレットを置いて戻って行った。という事はこれで自分のレベルを確認出来るのか?


「丁度良かった。このアプリでレベルとか確認できるから、開いて見て」

「これか?」


 四角いアイコンには"Lv."と表記されている。タッチしてアプリを開くと、<iku sanada Lv.2>と画面に表示された。どうやらこれが今の俺のレベルらしい。

「あとはこのアプリね」


 隣には"request"の文字。開いて見たが、何も表示されていない。


「依頼を受けた時に内容とチェック欄が出てくるから、終了した時に使うのよ」


 なるほど。確かに受け付けにパソコンが置いてあったな。そこから情報を転送するのか。他にもいくつかアプリがあり、とりあえずさっきの2つとマップアプリについてだけ教わった。

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