6.町一番の魔道具屋?
魔法教団を出て真っ先にリサラが向かったのは街中にあるこじんまりとした1件の店。外観はとても綺麗で見た所最近出来たであろう店だ。
「ここが魔道具を売っているお店よ」
「初めて来ましたが、とても綺麗なお店ですね」
モニカですら初めて訪れる店。リサラは来た事があるようで、躊躇いもせずにドアを開けて足を踏み入れた。
この店の店主を見て俺は驚きを隠せなかった。
「いらっしゃいませ。……またお会いしましたね」
先程会ったシナトス・リュートン、元いシナだったからだ。リサラはこの事を知っていたのか平然としていた。一方モニカも驚いていて、俺とリサラを交互に見ている。
シナはそれを見ても何事もなかったかのように接客を始めた。
「今日は何用で?魔道具ですか?薬ですか?」
「おい。知ってたのか?なんで言わなかった」
「言い損ねてたわ。ごめんなさい!」
真顔で問い詰めるが、手を合わせて必死に謝罪するリサラ。この様子からするとわざとでは無さそうだ。仕方がない。
「わざとじゃないならいいよ」
「郁……!貴方本当にいい人ね!」
微笑んで許してやると、パァっと笑顔になって俺を称え始めた。そんなに言われるほど良い人間じゃないぞ俺は。
それにしてもなんで最初に魔道具屋なんだ?疑問だらけの中リサラが説明してくれようとしたが、それはモニカによって遮られた。
「モニカと郁は戦えないでしょ?ましてや郁は魔力があるかどうかすらも怪しいから──────」
「リサラ様、郁様!なんでしょうかこれは!」
声がして振り返ると、何やら銃のような物を両手で大事そうに持っているモニカがそこに居た。その表情はまるで新しい玩具を見つけた子供のようだった。キラキラした瞳でシナを見つめるモニカ。
「それは催眠銃です。相手を撃つと眠らせる事が出来る魔道具です」
先程からずっと変わらない顔のままシナは魔道具についての説明を始めてしまった。今日2度目の対面なのだが、まだ心を開いてはいないのだろうか。
「えっと……さっき会ったよな?」
「え。あ、すみません。魔道具などの事になると人が変わるとよく言われてしまうのです」
困惑しながら確認を取ると、同一人物で間違いないようだ。背後ではモニカが不思議そうに催眠銃とやらを眺めている。大きさからしてモニカにも扱えそうだな。
「それで、モニカと郁が使える魔道具が欲しいのだけど」
「お二人が使える魔道具……なるほど。少しお待ちください」
そう言い残し奥に入っていったシナ。程なくして戻ってきたと思えば奥から魔道具と思われる物をいくつか持ってきた。見た目からして用途が分かる剣だったり刀だったり。他にも使い道の検討がつかない物もある。前者は結構わかりやすいが、後者の物は形からして全くもって不明。
「郁さんに関してはまず魔力を調べる必要があります。」
そう言ってシナが取り出したのはタブレットのような機械。彼女が画面に手を触れると、VRのような球体が浮かび上がる。
「この中に手の平を入れてください」
「……こうか?」
言われるがまま手を入れると痛みや痺れを感じる事は無く、球体の色が緑色に変化した。
「緑色……これは風力ですね。その人の魔力によって色が変わるんです。例えばこのように風力なら緑、光力なら黄色など、色で調べる事が出来ます」
このタブレットは万能な物らしく、この世界でもタブレットと呼ぶらしい。他にも機能があるようだが、この魔力を調べる機能は魔道具屋専用。この店でしか使えないのだとか。
おかげで俺の魔力の種類が分かった。
「風力?」
俺としては発電の方を思い浮かべる言葉だが、話の流れからして魔力の事だろうな。つまり俺は風に関する魔法が使えるのか。まさか魔力があるとは思って無かったから嬉しいな。
なんて密かに喜んでいると、シナがある魔道具を差し出した。それは何の変哲もない剣だった。風の魔力と剣になんの関係が?それを疑問に思っているのが分かったのか、シナが使い方の説明をしてくれた。
「この剣は風力魔法が使える人にふさわしい魔道具です。魔力を込めると通常ダメージに加え風力魔法によるダメージを敵に与えます」
説明をしてくているシナは瞳を輝かせながら語るその表情からは本当に魔道具が好きだという感情がよく伝わってくる。
「なるほど。風力魔法の使い方から知る必要がありそうだな……。ありがとう、シナ」
シナの説明のおかげで次にやる事が明確になった。礼を言うと、シナは目を見開いて見つめてきた。なぜそのように見つめられたのか知る前に普段通りのクールな表情に戻ってしまった。今聞いても彼女は答えてくれないだろう。もう少し親しくなって心を開いてくれたら分かるかも知れないしな。
「モニカさんは催眠銃で宜しいのですか?」
「えっと……これなら私にも使えそうですし」
「その銃で他の方のサポートは出来るかと」
不安そうなモニカにそれとなく俺達のサポートが出来る事を伝えてくれた。やはり普段はクールだが優しい性格か。こっちに来てから嫌な思いはあまりしていないな。恐らくこれから先に困難が待ち構えている事くらいきちんと理解しているが。
「それじゃあその2つを頂こうかしら」
これからの事を考えている間に話が進んでいたようで、リサラの声でふと気づいた。俺金ないぞ?内心焦っているが良い解決方法はないか……?
「あ、安心しなさい。ここは私が出すわ」
ドヤ顔。ドヤ顔で俺達の方を振り返って宣言するリサラ。一体なにが彼女をそうさせるのか……。とりあえずここは有り難く払ってもらうとするか。
「では、5000ルギーとなります」
ルギー。ここではそれが通貨単位となるらしい。覚えておかないとな。自分で買い物する時に知らないと恥ずかしいしな。まだまだ知らない事が多いから覚えるのが大変そうだ。
「助かったよリサラ」
「ありがとうございますリサラ様」
モニカと2人で感謝を伝えると、リサラは嬉しそうに笑った。先程から見ていると彼女は人の役に立つことが余程嬉しいのだろう。それが分かってきた。まだ出会ったばかりだが不思議と彼女達の人となりは知れた気がする。
これから生活して行く事でより人柄も知れるのが楽しみのような気がしてならない。今まで女の子との関わりが無かったのに、自分がここまで話したり行動したりする事が出来るとは思っていなかった。
それも全てリサラが居たからだろう。彼女がいなかったら、モニカやミル、シナとスムーズにやり取りする事は出来なかっただろう。
「私、郁の役に立ててるかしら」
「あぁ。とても助かってるよ」
その言葉に嘘は無い。元々人とコミュニケーションを取る事に苦手意識は無かった。ただ女の子との関わり方が分からなかったのだ。リサラが助言してくれてスムーズに女の子とコミュニケーションが取れている。
それを含めて礼を伝えたが、隣でモニカが不安気にしていた。
「わ、私はやはり郁様のお役に立てていないのですか……?」
「そんな事はない。さっきも宿の予約してくれてただろう?おかげで困らずに済んだんだから。ありがとうな、モニカ」
「えへへ……ありがとうございます」
先を読んで宿の予約をしてくれていた事には本当に助かった。そこまで考えていなかったからな。さすがはメイドと言った所だな。モニカも役に立っている事が嬉しかったようで、目を細めて笑う姿は何処と無く犬を連想させた。
「それじゃ、宿に向かいましょうか。そこで郁には基礎的な事を覚えてもらうわ」
「私もお役に立てる様に頑張ります!」
しばらくは2人に助けられる事になりそうだな。頼もしいリサラの隣で、意気込むモニカ。今日は夜更かししてでも此処、セルティマータ王国について頭に叩き込もう。幸い勉強は好きだからな。
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