5.受け付け嬢は中華姉妹


 容姿から双子である事は容易に想像出来た。それよりも強いインパクトを受けたのはチャイナ服である事だった。衝撃的すぎて俺は足が根付いてしまったかのように動けなくなった。


「この世界はコスプレ要素が強いのか……?」


 呆然としてそんな事を呟いたが、リサラを除く3人は首を傾げていた。リサラには後で話を聞こう。他にもコスプレ少女が居るのではないか。いや、居るだろう絶対に。


「なぁ、リサラ。ここでは普通の事なのか?」

「普通って?……あぁ、彼女達の格好の事?普通よ」

「そ、そうなのか……」


 念の為リサラに確認を取ると、こっちの世界じゃこれが普通らしい。生憎コスプレ文化には疎いので驚いてしまう。モニカのメイド服には対応出来たが、受け付けの2人には上手く対処出来そうもない。それだけは自信を持って言えるぞ。


「リサラ様、ギルドをお作りになるのですか?」

「私じゃなくて郁よ」

「あ、俺です。真田郁」


 あれ、今更だが漢字で書いていいのか?英数字は問題無いみたいだけど漢字とかの文化は存在するのか?


 俺が名乗ると薄いピンク色の髪のチャイナ少女に1枚の紙を手渡された。


「こちらの紙にギルド名・メンバーの名前・各々の得意魔法を記入してください。この情報を踏まえて依頼を受けていただく事になりますので」


「わかりました。リサラ、モニカ。少し手伝ってくれるか?」

「あ、はい!」


 先程まで居た所に戻り、早速必要事項を書こうとするがふと思い出す。


 リサラが書いた方がいいんじゃないか?俺が日本語で書いてモニカや受け付けの子が読めないなんて事にならないか?


「……なあ、リサラ。俺が書いて大丈夫なのか?」

「何言ってるの。メンバーの事を把握するのに郁が書かないと意味が……あぁ、文字の事?それなら大丈夫大丈夫!」


 さりげなく相談するも、リサラは笑いながら紙に俺の名前を漢字で書き始めた。その様子を俺は不安気に見つめる。モニカは字を見て瞳を輝かせていた。状況が読めない今、目の前の光景を黙って見る。


 書き終えたリサラは満足気に紙を顔面スレスレに突き出した。自信満々に言葉を発したかと思えばそれはとんでもなく的外れなもの。


「どう?私の字!結構上手でしょう?」

「いや、そうじゃなくて……」

「リサラ様はやっぱり字もお上手ですね!」


 2人はリサラの字についてきゃっきゃっと話している。そんな中に割って入る訳にもなぁ。


 思い悩んでいると、ふとリサラが俺の方を向いた。とてもいい笑顔で3秒見つめたかと思うと、過酷な現実を突きつけてきた。


「ごめんね郁。英文は問題ないんだけど、漢字を読める人は滅多にいないの。いても私か外語を好んで学んだ人くらいかな」

「マジかよ……どうすればいいんだ?」

「簡単な話よ。英文で書けば問題ないわ。名前は元の世界で言うローマ字で書けば大丈夫大丈夫!」


 英文。つまり英語若しくはイタリア語あたりか。それを勉強するとなると時間がかかりそうだな。見てると全く知らない文字もある。恐らくこの世界特有の言語。これも課題の1つになるのだろう。


「受け付けの子達は読めないのか?」

「そうね……あの子達は外語学んでるはずだから読めると思うわ」


 しばらくは漢字で大丈夫そうだな。それでも英語等を学んでおいて損は無い。


 リサラを信じて必要事項を書いていく。隣でモニカがまたしても瞳を輝かせて見ていた。


「リサラ様も郁様も凄いです!外語を読み書き出来るのですね!私は苦手で未だに読めないんです……」


 かと思えばしゅんとして読めない理由を教えてくれた。表情がくるくる変わる所が本当に愛くるしい。これは典型的な妹タイプで間違いない。いや、妹メイドか?


「それじゃあ、書き終わったし。受け付けの子に渡しに行くか」


 先陣切って受け付けに戻り、声をかける。やはり反応したのは薄いピンクの子だった。一緒に居る赤い髪の子は傍で話を聞いている。


「はい。確認しましたので、ギルド申請は完了です。コウラン、これファイルにまとめてちょうだい」

「分かりました、姉さん。こちら、魔法教団のマナー・ルール等が書かれている冊子です。どうぞ」


 ピンクの子に仕事を頼まれた赤い髪の子、コウランさんから薄い冊子を渡された。パラパラと捲って見た所、ローマ字が並んでいて読めなかったがルールブックに該当しそうな感じはする。状況的にも。


 俺に冊子を渡してすぐにコウランさんは裏に入って行ってしまった。同時にピンクの子……聞いている限りコウランさんのお姉さんだろう、彼女がルールやマナーについて簡単に説明してくれた。


「そんなに厳しくはないのですが、依頼を受ける際は私達に声をかけてください。皆さんの情報を元にこちらでいくつかご提示いたします」

「ギルドメンバーを募集するにはどうしたらいいんだ?」

「メンバー募集の際は隣の掲示板をご利用になってください」


 丁寧に示された方を見ると確かに掲示板があった。色とりどりの紙が掲示されており、これでギルド加入を決めて入る人も多いらしい。なんでも魔法教団で1人で依頼を受けている人が少なからず居て、そういう人達にオススメのギルドを紹介する事もあると。お姉さんが事細かく教えてくれたおかげで大体の事は分かった。


「これで大体分かったよ。ありがとう、えーと……」

「ユリランです。さっき隣に居たのは双子の姉のコウランです」


 彼女が名前と関係性を教えてくれた事により、これでスムーズにやり取りが出来る。


 にしてもさっきの子が姉なのか。ちょっと以外だな。まぁ双子ならどっちが姉か曖昧な時もあるしな。


「ユリランさん、これからよろしくお願いします」

「畏まらなくて大丈夫ですよ!皆で楽しく仲良く!がここのモットーですから」


 ユリランさんにそう言われて確信した。よっぽどの目上じゃなければフランクに接して大丈夫のようだ。


 一通り済んだ所でリサラが手をパンパンと叩き、次の行動へ促す。


「今日はギルド申請まで済んだから、宿を探しましょ。さすがにそろそろ決めないと寝泊まりする場所がなくなるわ」

「リサラ様、先ほどこの近くの宿に予約しておきました!」


 …………仕事が早いな。さすがと言うべきか。やる事が1つ減った事により空白時間が出来た。ならば。


「モニカ、ありがとう。時間が出来た事だし、街を観光したいんだけど、いいか?」

「そうね。時間空いちゃったし、そうしましょうか」


 満場一致の結果、この街・ルーティス街を観光する事になった。

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