4.ギルドと知能とツンデレ少女。
ギルド名を決めた後、俺たち3人はそれほど遠くない魔法教団へ向かい始めた。リサラとモニカから大体の話しを聞き、ギルド立ち上げの為の手続き方法を大まかにだが把握した。
「聞いてる限りだと以外と簡単そうだな」
「話しだけだとね。いろいろ細かい事記入したりするから」
「それと、ギルドを作るには最低3人は必要なんです」
何気に呟いた俺の言葉にリサラが反応し、それを補足するようモニカが説明を加える。細かい事を記入するのはリサラ達に聞きながらでも問題はなさそうだ。
「着いたわ。ここが魔法教団よ」
リサラの示す方に視線を向ければそこには割と高さのある建物があった。俺はそれを見て思わず「ビルみたいな建物だな……」と言ってしまった。リサラは元いた世界の事は理解しており、何も疑問を抱いていないがモニカは全くわかっていない。
「びる……とはなんの事でしょうか?」
「あー……それは、痛っ!?」
「えっ……いったぁ……!?」
中に入ってから説明しようと思い扉に手をかけた。と同時に開き、一瞬触れただけで開く扉なのかと勘違いしたがすぐにそうではなかった事に気づく。
余所見をしていたのが悪く、女の子とぶつかってしまった。
「ごめん……!余所見をしてて……大丈夫か?」
「だ、大丈夫よ!気をつけなさいよね!」
すぐさま女の子に手を差し伸べ、立ち上がらせようとしたが素早く女の子は自ら立ち上がり俺を睨んできた。この分だと怪我はして無さそうだが、気分を害してしまったようだ。
水色の髪に小さな蝶の髪飾りを付けた一見可愛らしい見た目の女の子は、その外見とは裏腹にツンツンとした態度をとる。それもまた可愛らしいが誤解されかねない態度だな。
「出ようとしてた所を邪魔したみたいで悪かった。怪我はしてなさそうだな」
「な、何やらしい目で見てんのよ!」
「そんな目で見てないだろ!怪我してないかと思ってだな……!」
顔を赤くしてさらに睨みつけてくる少女。中にいる人達が不審がってこちらを見ていた。このままだと俺が不審者になりかねない。なんとか誤解を解こうと口を開きかけた時、リサラが助け舟を出した。
「あなた勘違いしているようだけど、郁は女の子をやらしい目で見るような変態じゃないわ」
「そうです!郁様は優しい方です!」
「うっ……か、勘違いして悪かったわ。いきなり変質者扱いしてごめんなさい」
モニカまでもがフォローしてくれる中、俺は呆然としていた。2人の言葉に彼女は素直に謝罪の言葉を述べたからだ。あんなにツンツンしていたのに間違いを認め謝罪出来る所を見ると悪い子では無い事は分かる。
申し訳なさそうな表情をして頭を下げようとしたので慌てて止める。思わず普通に話してしまっていたが、2人には最初は敬語を使っていた事を思い返すと逆にこちらが申し訳なくなる。この世界に来て数時間しか経っていないが調子に乗っている訳ではない。今回は勢いで敬語を使う事を忘れてしまっていたのだ。
だが次の瞬間に俺はある事に気づいた。それは―――
「だからって余所見してぶつかった事は許してないんだからね!」
この台詞。ツンデレだこれ。この言い方は紛れもなくツンデレだ。こんなにもわかりやすいものなのか?ろくに女の子と関わってこなかった弊害がここで出てくるとは……。どう返すのが正解なのか全く考えつかない。
こうなったら思ったままに行動しよう。まずかったらリサラかモニカに頼ってしまう事になるだろうが。
対応に困っていた所、奥からまた1人女の子がこちらへ歩み寄ってきた。シルバーのショートヘアの眼鏡をかけた少女はツンデレ少女に近づくなり、俺に視線を向けつつ謝罪をした。
「ミル。男の人に突っかかるのはいい加減にしてください。……ぶつかってしまった事にはこちらも非があります。代わって謝罪します」
「あ、いや、丁寧にどうも?」
唐突な真面目少女の登場に面食らう。ツンデレ少女、ミル?という少女とは相性は良さそうではある事は分かった。
「私はシナトス・リュートンと申します。彼女はアーミルシア・ドラインです」
「ちょっと何勝手に名前を教えてるのよ!?」
シナトス・リュートンと名乗った少女は本人の許可無くアーミルシア・ドラインと彼女の名前を教えてくれた。プライバシーは無いのかこの2人。仲が良いからこそなんだろうけど。
ここは俺達も名乗った方がいいのか?それより入り口で立ち話してたら通行の邪魔じゃないか。
俺は4人に中に入って話を続けるよう促し、入ってすぐに設置されているテーブルに着いた。右隣にリサラが座り、その右隣にモニカが。リサラの対面にアーミルシア、俺の正面にシナトスが着席した。
「邪魔になると怒られるのよね。それはそうと、リサラ・ステリアル様……ですよね?」
「えぇそうよ。別に畏まらなくていいから」
アーミルシアは恐れ多いといった様子でリサラに名前を確認している。やっぱりリサラは相当偉い立場なのか。
モニカと俺も名前を告げ、2人に軽く事情を話してみた。アーミルシアは興味無さげに話を聞いていたが、シナトスは興味があるのか前のめりでいろいろ聞いてきた。一体何が興味深いのか確認した所、俺の居た世界の薬学についての事だった。
一通り話が済むと、モニカが手を挙げ、「お2人はどのような関係なのですか?」と質問を投げかけた。シナトスとアーミルシアの関係が気になったようで、こちらが話を聞く番となった。
「私たちは幼い頃からの知り合いです。幼なじみと言う奴ですね」
「あたし達の魔力の相性も良いから、色んな意味でピッタリなのよ」
「妖精家とエルフ家だものね。納得だわ」
ちなみにリサラの言う妖精家とエルフ家というのは一族の事だそう。異世界特有の言い回しだ。知らない事を知っていくのは楽しいが、多すぎて教えてもらうのが迷惑ではないかとも思ってしまう。
「郁様が分からない事は私がお教えしますので、御安心ください!」
「ありがとうモニカ」
俺の考えている事が分かったようで、モニカが自ら教師役を申し出てくれた。本当にいい子だなモニカは。まだ物理的距離があるのは仕方ない。嬉しそうに笑うモニカを撫でてあげたい所だが我慢。
「今度郁さんの世界の薬学についてお話を聞かせてください。それと、私の事はシナと、アーミルシアの事はミルと呼んでください。良いですよね?ミル」
「シナがそう言うなら、仕方ないわね」
シナトス、改めシナが有無を言わさずに愛称で呼べと言うと、アーミルシアは諦めた様子で了承した。
「あんた達ギルド作る為に来たんでしょ?あたし達はもう行くから、受け付けして来たら?」
「そうですね。では皆さんまたお話しましょう」
「引き止めて悪かったな。また時間が合ったら話そう」
ミルとシナが立ち上がったのに吊られて俺も立ち上がりながら次にまた会う時にギルドに誘おうと心に決め、受け付けに向かった。
「ギルドを作りたいのですが……?え?」
受け付けカウンターに居たのは、またしても2人の女の子。そこには驚きはしないが、何よりも目を引くのは彼女達の服装だった。
「ギルド立ち上げですね?」
「今から説明しますので、こちらへ来てください」
チャイナ服だった。
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