8.初クエストで戦闘訓練


 基礎知識を学んで一晩休み、再び魔法教団へ向かった。受付の赤い髪の女の子、確かコウランさんだったか?に依頼を受けたい旨を伝える。


「すみませーん。依頼受けたいんですけど」

「依頼ですか?皆様はまだお受けになった事がないようなのでこちらの依頼はどうでしょうか?」


 差し出されたパソコンの画面には【ムル大量発生につき討伐して欲しい】と書いてあった。ムルってあれだよな。あのハムスターみたいな。


「あら、丁度良いじゃない。これにしましょうよ!」

「ではお願いします。終わりましたらまたお声かけくださいね」


 昨晩教えてもらったマップアプリを開くと、1つの×印。恐らくここに大量発生しているのだろう。情報をタブレットに転送してもらい、そのまま発生地点へ向かう。


「またあれを倒すのか……」

「ムル、可愛いですもんね……」


 俺とモニカが悩んでいると、リサラはあっけらかんと「大丈夫大丈夫!また出てくるから!」と言ってのけた。


 確かに目的は大量発生しているムルを討伐。ようは数を減らせばいいんだよな。それなら良心も痛まない……はず。


「よし、行くか。リサラ、悪いけどまた案内頼む」

「オッケー!」


 マップアプリがあるとは言え、まだ不慣れ。暫くはリサラに案内を頼む。


 道中、大量ではないがムルに出くわした時に魔力を使う練習をしていた。やはり周りの草でムルにダメージを与えている所を見ると心が痛む。すまない、これも強くなる為……!!


 モニカもムルに向けて催眠銃を射つ。これは比較的標的が定まれば簡単そうだ。


 モニカがムルを催眠銃で眠らせ、俺が風力魔法でダメージを与える。この流れを繰り返す。


 さすがに俺1人で倒すまでの力はまだ無く、とどめはリサラの役目。3人で連携してムルを討伐していく。


「これなら簡単に終わりそうね」

「そうですね。……あれ、あそこ何でしょうか」


 あらかたムルを討伐して終わりにするかと言おうとした瞬間モニカが何かを発見したらしく、そこを見ると木の枝や落ち葉などが山になっている。しかも何ヶ所も。


「私でも分からないわ」

「マジか……」


 リサラに視線を向けてみたが心当たりがないようだ。やはり万能では無かったか。モニカも不思議そうに見ていたはずが、いつの間にか隣から姿を消していた。


「あれ、モニカ?」

「きゃっ……!」


 俺がモニカを呼ぶ声と小さな悲鳴が同時にその場で重なった。声がした方を見れば小さな山の傍で固まっているモニカの姿。


 まだ数時間しか一緒にいないが、確実に分かった事がある。


 モニカは好奇心旺盛すぎる。


「モニカ……何か分からないのに近づいたらダメだろう」

「郁様っ……申し訳ありません!ですがムルが見えたのでつい……」


 怒気を含めないようにたしなめれば素直に謝るモニカ。バツが悪そうにしているが、ムルに触れたそうにチラチラと視線を動かしている。


「モニカ、ムルに触りたいの?」

「はい。ですがこの子達討伐しなければいけないのですよね?」

「そんな強いって訳じゃないし、貴女なら触れても大丈夫なんじゃないかしら」


 確かに俺が弱いのもあるが、奴らもそんなに強いわけでもなさそうには思う。それはリサラが言うなら間違いない。


 それを聞いてモニカはゆっくりとムルに近づき、そっと抱き上げた。その表情はいつもより優しい、柔らかい感じがした。こっちまでほっこりしてしまう。


「ふわふわです……!可愛いです!」

「この山はムルの巣って事か?」


 推測するに、ムルがここに巣を作ったのが原因で大量発生したのか?それならば移動してもらえば討伐しなくても良くなるが……。そんな事は魔獣と意思疎通が出来なければ不可能。仕方ない。心苦しいが。


「やるっきゃないよ、郁」


 とても爽やかな笑顔で背中を推してくるが、逆にやりにくい。モニカも悲しそうに顔を伏せていたがやがて意を決したようで、ムルをゆっくり地面に降ろした。


「……やりましょう、郁様」

「そうだな。……ごめんな、ムル」


 わずかに暗いムードの中、連携してムルを討伐していく。ただリサラのみはいつもと変わらない様子で攻撃を繰り出していた。


 残り数匹となった所で、ここにはもうムルが巣を作る事はないだろうと引き上げることにした。残ったムルは逃げて別の所に巣を作るだろうと。どうやら危ない場所になるとその場から引っ越す習性らしい。


「そろそろクエスト終了の報告するか」

「まだ簡単なクエストだからそんなに報酬は期待出来ないけれどねー」


 言いながらリサラはアプリを立ち上げてクエスト終了の報告をしていた。どうやらクエスト確認のアプリから終了報告が出来る仕様らしい。


 ギルドと依頼にはランクがあり、ギルドのランクが上がると受けられる依頼の内容も段々と難しくなるそうだ。


 その判断基準はアプリで確認し、ランクを確認してもらい、ワンランク上の依頼を受けられる。リサラの説明を俺とモニカが聞いている間に教団に着いたので、真っ先に受け付けに向かう。


「おかえりなさい!依頼報酬ですね?」


 朝とは別の子、ユリランさんが報酬の入った封筒をくれた。コウランさんは裏で事務仕事中だと教えてくれた。


「2人で仕事分担してるんですね」

「その日によってどっちが午前午後に担当するかは変わるけれどね。ちょっと待ってて」


 言うとユリランさんは裏に戻り、程なくして封筒を持って来た。中には紙幣が10枚と、硬貨が何枚か入っている。


「あら、ムル討伐にしては結構入ってるわね」

「あの周辺の農家が凄い困ってたみたいなの。ムルに畑を荒らされて野菜を食べられてたそうよ」


 意外な報酬の額に驚いていると、依頼が来た理由を教えてくれた。草食系なのかあいつら。


「これは配分して、それぞれ好きに使いましょう。もし管理に困ったら私にお任せください」

「モニカに?得意なのか?」

「はい、国の金銭管理なども私の仕事でしたので」


 経理担当もしていたのか。メイドなのに。リサラは国王の補佐だから担当が違うのか?それにしてもメイドが経理担当まで担うのは大変だろう。


「国王と補佐のリサラ様に頼まれて私がやってるんです」

「そうだったのか……他にいなかったのか?」

「私には向いてなかったのよ……」


 リサラに視線を向けると気まずそうにあさっての方向を向いた。その表情から察するに、いろいろやらかしたのだろう。計算間違いが非常に多いからモニカに頼んだと自ら話した。


 有能だとは思っていたが、理数系が苦手方だったのか。


 これからは俺は自分で管理し、リサラはモニカに預ける事になり、この話は終わりにした。

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