第31話 あと半年足らずの我慢だとすれば(ノア視点)
「旦那さま! 今日はかくれんぼをしましょう!」
「今度にして……」
「旦那さま! お茶を入れたいので火を点けてください!」
「僕がやるから待ちなさい」
「旦那さま! マンカラカラハをしましょう!」
「何それ……え、本当に何それ?」
僕は辟易していた。
一人で謹慎生活を送っていたところに現れた異分子。
口ばかり達者なくせに、僕が面倒をみてやらないと食事すらままならない。
そのうえ何をしでかすか全く想像がつかないし、ちょっとしたことで怪我の危険があったりする。
言語の通じない、か弱い生き物と暮らしているような気分だった。
すっかりペースを乱されて、朝は早起きさせられるし、毎日妙な遊びに付き合わされて疲れ果てるせいで夜はすぐに眠くなるし、食事を食べさせないとうるさいので何となくつい一緒に食べてしまうし。
昨日なんて、一緒に昼寝までしてしまった。
どうやら魔法が好きなようで、それに関係する話であれば意思疎通ができたので、それは救いだった。
貴族だし、家では家庭教師をつけていたのかもしれない。――いつかの、僕のように。
辟易しては、いたけれど。
夜空に浮かべたランタンを見上げて、目を輝かせていたアイシャの顔が、頭に浮かんだ。
まぁ、あと半年足らずの我慢だとすれば、耐えられないほどではないか。
そんなふうに思っていた。
昨日も早く寝たせいで、まだ朝なのに目が覚めた。
たまたま目が覚めたから、もしあの子が来たら――今日は朝食を作って、やりたがる遊びに付き合ってやってもいいかもしれない。
もし興味があるなら、魔法の話をしてやるのもいいか。
ああ、でも転移の魔法陣が描いてある本は隠しておかないと。昨日みたいに勝手に試したがったら困るし。
そんなことを考えて待っていたが――いや、別に待っているわけではなくて、まだ起きるには早いかなと思って何となくベッドにいるだけだけど――一向にアイシャは現れなかった。
日はすっかり高いところまで登っている。時計を確認すると、もう昼だ。
妙だな、と思う。
これまで、家に来た最初の日以外は毎日のように朝っぱらから僕を叩き起こしに来ていたのに。
子どもはお腹がすくんですとか何とか、毎日食べ物をせがんでくるのに。
一度おかしいと思ってしまうと、無性に気になってきた。
昨日は魔法を使っていたし、疲れてまだ起きてきていないのだろうか。
ベッドから体を起こす。
廊下を歩いて、あの子の部屋の前に立った。
ドアノブに手を掛けて、思いとどまる。
ジェイドの「女の子なのよ!」という声が聞こえてきた気がしたからだ。
あいつ、本当にうるさい。
うるさいが、アイシャが一瞬で懐いていたところを見ると、僕よりも子どもの扱いが上手いのは事実だ。食べ物で懐柔されただけかもしれないけど。
ドアをノックする。
少し待ったが、返事がない。
「ねぇ、朝だけど」
部屋の中に向かって呼びかける。やはり返事がない。
まだ寝ているなら、この程度では起きないか。
先ほどよりも少し強めにノックする。
「ちょっと、ねぇってば」
ボリュームを上げてみても、反応はなかった。
まったく、どれだけぐっすり寝ているのやら。
あまりの無反応っぷりに焦れた僕は、結局ドアを開けて部屋の中に乗り込んだ。
そもそも毎朝勝手に侵入してきて僕を叩き起こすのはあの子の方だ。
今更僕が乗り込んだからって何だというのか。
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