𝑰𝑽
センセイ
至
───あなたの、好きな数字は何ですか?
「好きな数字は?」
パッと答えやすい質問じゃないけれど、何故かそこそこ耳にする質問のひとつ。
あんまりひとつの数字に思い入れのある人って居ないと思うけれど、何となくで答えるのなら、一とか九とか、零なんかもよく聞くメンツなイメージがある。
でも、好きでは無いけど……気になる数字を聞かれたら、四って答えるかもしれない。
四って、結構不憫な数字だから。
まず、『し』って響きがもうダメ。
運悪く『死』が一音なばっかりに、百とちょっとの中から上手い具合にハズレくじを引いちゃってる。
せめて『死』で『しぬ』と読むか、一文字ではあんまり使い道の無い『ぬ』を『死』の読みにしてやれば良かったのに、『し』はよく使われるからいけない。
あと漢字。
『一』『二』『三』って綺麗な流れを、『四』がぶつ切る。
『三』までは綺麗に画数と見た目と全てでその数字を表していたのに、『四』は5画。
せめて『匹』だったら、まだ良かったものの。
ただ、『一』『二』『三』の流れで増やしていくと読みにくくなっちゃうから、どこかでこの流れを止めなきゃいけないし、画数だって、増やせば増やすほど書きずらくなってしまう。
ただ……そんな『四』の決断を不憫にしてしまっているのはその後の、『五』の存在だ。
『五』。
4画でありながら、何故か『5』を数えるツールとしてよく登場する漢字。
それは、『四』の決断を全て無くする存在になってしまった。
他に道は無かったのだろうか?
『四』を横線4本にする。
『五』は4画なので5を数えるツールとして利用しない。
『七』『九』などの他の漢数字も同様にそれぞれの数字を数えるツールとして利用する。
他にもたくさんあるだろう。
そんな沢山の選択肢で、『四』は『四』だった。
前には美しい記号のような漢数字、すぐ後ろには画数の違いをもろともせず『五』として活躍する『五』、その後に続くのは、自身に続くハズだった漢数字達……。
そこまで不憫な『四』。
これ以上不憫なものは無いと思っていた所に、追い討ちをかける様に現れたのは『V』。
『Ⅰ』『Ⅱ』『Ⅲ』『IV』『Ⅴ』と来る。
『Ⅲ』までは『三』同様、自身を自身の力だけで表していたのに、『IV』に突きつけられた現実は、まるで『Ⅴ未満』とでも言いたげなその並び。
ここには、『IV』のオリジナリティすら存在しなかった。
それでも、『し』や『四』よりは、『IV』の気持ちは穏やかだろう。
何故なら、ここには味方が居るからだ。
『Ⅴ』より上のハズなのに、オリジナリティを持てない『VI』『Ⅶ』などや、自分と同じ、一つ上の数字に不憫にされていそうな『Ⅸ』。
今までの孤独とは違う、『不憫な仲間』が居る現状に『IV』は何を感じただろうか?
きっと初めは、プラスな感情を抱いたハズだ。
いや、今まで『IV』がされてきた事を考えれば、そう思わずには居られないだろう。
でも、『IV』だって、いつかは気づくハズだ。
不憫な数字が増えたから何だって言うんだ。どんなに仲間が増えようと、自分が不憫なのには変わりない。むしろ、『し』や『四』の時より、よっぽど真っ当じゃない。……と。
こんな自分が、果たして『し』や『四』の時の待遇に対して意見する資格があるんだろうか?
自己嫌悪に陥る『IV』。
それを救ったのは、『4』の存在だった。
『IV』は『4』を見た。
『4』は他の数字に勝らずも劣らず、オリジナリティもある。
それに何より、今まで見てきたものと違い、『4』は最もポピュラーな数字と言える程世界に浸透している数字だ。
『4』は気づいた。
狭い世界や、自分の劣等感を呼び起こす様な所だけ見ているから、こんなに卑屈になってしまっていたのだと。
『7』だって、ラッキーな数字なイメージがあっても、所が違えば不吉な数字として言われる事もある。
『6』だって、三つ集まれば悪魔の数字と言われてしまうんだから。
自分が特別不憫な訳じゃない。
要は、不憫な事もあって当たり前なんだ。
そう思うと、『4』の気持ちは軽くなった。
そうだ、これからは、『4』である事に誇りを持てるような“何か”を探してみよう。
世界はこんなに広いんだから、探せばきっとある。
『4』はまっすぐな気持ちで、新たな目標を掲げた。
……ただ、完璧で優秀な『5』を妬む気持ちだけは、どこかで『4』に残り続けていた。
それでも良い。
その気持ちもあってこそ、深みは増すという事だろう。
「……で? 結局のとこ、何が好きなん?」
「まぁ……強いて言うなら、1かな」
𝑰𝑽 センセイ @rei-000
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