第31話 イクス様ファンクラブ!?
ミリエラは急いでサラダを飲み込むと、二人に相対した。
「おや、恋人ですかな?」
「いえ。親戚です」
ゴドールが目ざとくミリエラを見つけて茶化すが、イクスは即座に否定する。
ゴドール・エルコビッチ。背は低めだが、恰幅は良い。短い茶髪と口ひげが印象的。目つきは流石に宰相で、歴戦の政治家と言う感じだ。
「お初にお目にかかります、ミリィ・ナイトヴェイルと申します」
「ふむ。これは見目麗しい。もしお相手がいらっしゃらないようであれば、ぜひ我が家に来てほしいものですなぁ。フォッフォ」
「あ、はい……」
返答に窮したミリエラを見て、ゴドールの隣にいる男が苦笑した。
「全く、ゴドール殿。ミリィさんがお困りですよ」
疲れ目に、少し疲れたような声。金髪で長身の彼がシュミット・ミラーで、王国の第二騎士団を率いているとのことだ。
疲れが全面に出たような雰囲気の割に姿勢は良い。いついかなる時も戦闘への備えをしている様は、イクスと共通したものを感じる。
「ハハハ。これは失礼。戯言だと思って聞き流してくだされ」
「いえ! その、恐縮です」
「それでは、また後ほど」
そう言って去っていく二人。
ミリエラはう~んと唸りながら、今度は別皿のシチューを頬張る。
『ミリエラ、例の三人とは会えたようね』
イヤリングを模した通信用の魔術具から、骨伝導でリーファの声が聞こえてきた。
もごもごと急いでシチューの肉を飲み込む。
『大丈夫、聞くだけで良いわ。そうね……パッと見た感じで、違和感を覚えた人物はいた?』
更にう~~~んと唸る。
えぇと、白髭の老紳士、恰幅の良い男性、疲れた雰囲気の男性……。
ほんの軽くしかやり取りをしていないが、思い返してみる。
(う~~~~~~ん)
ダメだ。
(皆普通の人に見えました……)
リーファたちならもっと深く観察できたのではないかと、自分に少し落胆する。
『開始早々三人と接触できたのは僥倖よ。イクス様は付かず離れずの距離を保つから、あなたは自由に動いて良いわ。パーティを楽しみながら、機を見て情報収集をお願いね』
そこでピッと言う音が入り通信が終了。
はいっ、とミリエラ心の中で返事をした。
とは言ったものの、いざ情報収集となると難しい。きっかけを探さなければいけない。
どうしたものかと思案していると、
「あの、貴女?」
不意に、後ろから声を掛けられた。女性の声だ。
振り向くと、女性が三人いた。どこか硬い雰囲気でミリエラを、見据えている。
「はい、なんでしょう?」
「一つお尋ねしたいのだけど、そのブローチの家紋はナイトヴェイル家のものよね?」
「はい。私はイクスさんの親戚のミリィ・ナイトヴェイルと申す者です。今回は――」
「「「良かった~~~~!!」」」
練習した台詞を言うよりも早く、三人が安堵の声を漏らした。
そして目を輝かせ、ずいとミリエラに近寄る。
「イクス様、普段こういうパーティにはいらっしゃらないし、久々にいらしたかと思えば女性連れで、もう何事かと思ったのよ~!」
「ししし親戚なら、イクス様のっ、その、日常、とか? 色々ご存知なのではなくって!? ささささ差し支えない範囲でお教えいただけないかしら!?」
「ついでにイクス様ファンクラブのお茶会にもお誘いいただきたいわっ」
「お馬鹿! イクス様がいらっしゃったら私たち溶けてなくなってしまうわ!?」
「そそそそそれも本望ですわね!」
「確かに……」
ミリエラが言葉を挟む隙もなく、わーきゃーと捲し立てている三人。大声を立てると聞こえそうな距離にイクスがいるので、若干声を潜め気味で興奮しているのがおかしかった。
「え、え~っと~……」
「あらごめんなさい。つい興奮してしまったわ」
「いえ、それは大丈夫ですけど……」
もしかして。
(イクス様って、すっごくおモテになる……!?)
三人の目の輝かせように加え、サラッと聞こえたファンクラブとかいう文言。
間違いない。これはモテる。
しかも多分、この感じだとイクスと直接会話したことのある人はほとんどいないのではないかと思った。
(イクス様、人を寄せ付けなさそうな雰囲気ですもんね……)
ミリエラ自身も、メイドとして家にいなければ話す機会など無かっただろうなと思う。
とは言え、出会った初日に胸で大泣きしてしまったとか、お姫様抱っこをされながら空を飛んだとか、そんなことは絶対に言えない……。
ほぼ間違いなく嫉妬に狂われてしまいそうだ。
(でもこれはもしかして、ちょうど良いのでは……!)
情報収集のきっかけ!
これを逃す手はない。
「もう少し、皆さんのお話を聞かせてもらえませんか?」
そうミリエラが切り出すと、三人の目が輝いた。
「えぇ勿論ですわ! イクス様の魅力を語り合いましょう!」
「え?」
「どの話から致しましょう!? やはり、この間の合同訓練の時の!?」
「おおおお待ちなさい! デューイ様とのみみみ密会のお噂の真偽をですね――」
わいわいと騒ぐ三人に連れられ、イクスから離れていってしまう。
(そ、そういうお話じゃないんです~~~!)
今更否定もできず、すっかり女子トークに巻き込まれてしまった。
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