第23話 はじめましてのメイドたち

――


 ミリエラがナイトヴェイル家に来てから一週間が過ぎた頃。

 彼女の血色や艶は、不思議なくらいの速度で回復していた。


「やっほ~☆ たっだいまー!」

「おみやげあるよ~」


 三人が揃って昼食を取っていると食堂の扉が勢いよく開き、同じメイド服姿の少女が二人入ってきた。


「おかえり」

「あら。セラ、ミリス。お疲れ様」


 もこもことパンを頬張っていたミリエラは急いで飲み込み、少々慌てながら起立する。


「あ、あの、こんにちは! 先日からナイトヴェイル家のメイドをさせて頂いております、ミリエラと申しますっ」


 反射的に、固すぎる挨拶になってしまった。

 それを聞いた二人が微笑む。

 事前に写真は見ていたし通話もしていたのでお互いの事は把握していたが、対面するのは初めてだ。


「わーっ! あなたがミリエラちゃんよね!? 綺麗な金髪! 可愛い~っ! あ、あたしがセラ、よろしくね!」


 にぱ、と快活そうな笑顔を振りまくセラ。

 ミリエラと同じくらいの身長の彼女は、長い茶髪をたなびかせている。頭頂のアホ毛と可愛らしい花型の髪飾りが、奔放そうな彼女にあどけなさを足していた。


「改めまして~、わたしはミリスだよ~。一緒にお菓子食べよ~」


 一方、眠そうな目つきでのんびりした口調の少女がミリス。

 背がかなり小さい青髪ボブの彼女は、むしろメイド服に着られていた。

 袖丈が長く、手が半分くらい隠れてしまっている。


「お二人とも可愛いです……!」


 きらきらと目を輝かせるミリエラ。

 ナイトヴェイル家に来てからの体験全ては新鮮だったが、妹、と言う体験は三女だった彼女にとっては未知。


「姉妹みたい……!」

「確かにそうね。これからは四姉妹、ってところかしら」


 ふふっとリーファが微笑む。


「ミリエラちゃんは何歳? あたしは十七、そうだなー、あたしの見立てだとミリエラちゃんはあたしより一歳か二歳上……」

「私、十八です」

「当たった~! わーいお姉ちゃんが増えた!」

「お、おおおおお姉ちゃん!?」

「ごめんっ、嫌だった?」

「全然嫌じゃないです! むしろ、なんていうかその、嬉しい、ですっ」

「やったーっ☆」


 ぱたたたっとミリエラの側までより、ぎゅっと抱きつくセラ。

 あわあわとしていると、ミリスも近寄ってくる。


「ミリエラさん、これお近づきの印だよ~」

「こっ、これは?」

「これはね~! わたしが開発した無限インクペンだよ~。しかも非常時には武器にもなってね~」


 夢心地で語り出してしまった。

 そういえばミリスは魔術少女だと前にリーファが言っていたが、実際に見てみると思った以上にキラキラしているなぁとミリエラは唸る。


 そして相変わらずセラはミリエラの髪をもふもふしている……。


「はいはい二人とも、ミリエラが困っているからそれくらいにしておきなさい? 食事が着いたから食べましょう」

「はーいっ」「は~い」


 席に付き、二人が食事を摂り始める。


「ねぇねぇリーファちゃん、王都でアレ、見つけたよっ。すーっごく楽しかった!」

「魔術研究会でも、発見あったよ~。早く開発したいな~」


 食卓を見回す。

 そこには明るい雰囲気しかない。


 三人の時も充分に楽しい空間だったが、更に二人が加わると華やかさがぐっと増す。

 居るだけで周りを明るくしてくれるセラ、ゆったりしたペースで場に和やかさを与えてくれるミリス。

 二人の話を聞くリーファも本当に姉のようだし、それを聞いているイクスもどこか楽しげな雰囲気だ。


 この一週間で、イクスの表情変化について少しだがわかってきた。

 実は今もパッと見は無表情なのだが、よくよく見ると口角が少し上がり気味なのだ。

 その微妙な違いに気づけなかった最初は、彼が怒っているのではないかと勘違いし、カチンコチンで魔術指南を受けていた。


(ちょっと懐かしいですね……)


 思ったよりじっと見つめてしまっていたようで、その視線に気づいたイクスと目が合う。


「二人と、馴染めそうか?」

「あっ、はいっ、大丈夫だと思いますっ」

「良かった」

「……っ」


 ふわり、と彼の目尻が綻ぶ。

 不意な微笑みに、ついドキリとしてしまった。

 次の瞬間には全体へと視線が移っていたイクスだが、ミリエラの頭はまだフリーズしている。


「やはり、全員で囲む食卓の方が良い」

「そ、そですね……」


 気恥ずかしさが同居してもじもじとした返答になってしまった。

 気を悪くさせてしまったかと思いイクスを見たが、彼は気にしていない様子で食事に戻っている。


 ナイトヴェイル家に来られて良かった。


 ミリエラは改めてそう感じた。

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