第22話 その頃、アーギュスト家…
「……まずいことになった……」
アーギュスト家の自室にて、ジョイルは通話を切ると同時に慌てた様子を見せる。
「何?」
ソファに腰掛けるメネスは苛立ちを隠す様子もない。
その隣では、ずっと貧乏ゆすりをして爪を噛んでいるアルネス。
「あぁっもうアルネス!! ガタガタと煩いのよ! 少しくらい大人しくできないワケ!?」
「何よ! イライラしてるからって私に当たらないでもらえる!?」
「当たる? 叱っているだけよ! その淑女にあるまじき行為をね!」
「フンっどの口が言うんですか、ホントにお母様はいつもいつも――」
「えぇい五月蝿いッ!!!!」
ドガッと力任せに机を叩き、ジョイルが怒鳴る。肩で息をしている彼の目は血走っていた。
しんと静まり返る二人。
「良いか? 家長は俺なんだ。お前らぐちゃぐちゃと喧しくしに来たならとっとと失せろ」
「は? 何よ偉そうに。お父様が呼んだから私たちここに来たんじゃない!」
「アルネスお前何だその口の聞き方は!?!? もっと父に敬意を――」
「あ~~もう貴方が騒いでどうするのよ!! 早く話してもらえるかしら?!」
揃いも揃って、激しい自己主張の応酬。
そこにはギスギスとした険悪さしかない。ドブネズミですら居心地悪く感じて退散するだろう。
ジョイルは無理やり一呼吸置き、言う。
「ミリエラが、研究所に引き渡されていないのは本当らしい」
「何ですって!?」「嘘でしょ!?」
「それだけじゃない。計画の失敗に業を煮やしたリチャード・ヘンデルは、うちを売る気だ」
驚き一転、メネスとアルネスは怒りに身を震わせる。
「……たかだか、男爵家のドラ息子が、うちを売るですって……? 折檻して、立場をわからせてあげないといけないわねぇ」
「あの陰険な目……まともにモノも考えられない歪んだクズだとは思っていたけど、本当にゴミ以下ね」
「だが俺たちは共謀関係だ。しかも……奴には強力な後ろ盾がいる」
「誰よ?」
「わからない……うちの調査能力じゃ限界があるんだ! それでも国家の中枢に関係している大物ってことまではわかってるんだ……」
歯噛むジョイルに対し、アルネスが小馬鹿にしたような態度で言う。
「何それ? 大物とか言っても、どうせうだつの上がらないおっさんでしょう? なんなら私が色仕掛けで落としてきましょうか~? お、と、う、さ、ま」
「今そういう世間知らずを目の当たりにすると、腸が煮えくり返りそうになる。お前は黙っていろ」
「なんですって!?」
「いや……この際使えるものは全て使うべきか……」
品定めをする目で二人を見るジョイル。人を見る目ではなく、モノを見る目だ。
その視線に苛立ったメネスが言う。
「一番使えない人が何を言ってるワケ? 要はミリエラを探し出して捕まえて、研究所に渡せば万事解決でしょう」
「それはその通りだ」
「なら私に一度預けなさい。明日ハーウェス・ヘンデルに会ってくるわ。感謝することね」
「ふん、あいつが息子の不始末の尻拭いをするような男か?」
「は~ぁ。貴方は、あの人の表面すらまともに知らないからそういう感想なのよ。私はあの人と
「勝手にしろ」
ジョイルがそう言い捨てると、顔も見ずにメネスがずかずかと部屋を出ていく。
アルネスも無言でそれに続く。
三者三様の、交わらない思惑。
一度瓦解した関係は、修復の心を持たなければただただ破滅へ向かっていくだけなのだろうか。
がらんどうになった執務室に一人、俯き立ち竦む男の姿は……その未来を暗示しているかのようだった。
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