第18話 帰宅
その後、他にも調度品で欲しい物があればといくつかの店を回ったが、基本的に古書知識しか無いミリエラにとってはどれも使うイメージが湧かない。
「何か必要なものがあればその都度……」
と、結局後回しになってしまった。
実はミリエラは調度品よりも、街を回る中で一緒に買い食いした串焼きやお菓子の方が魅力的だった。
誰かと体験を共有するという事が十三年分も抜け落ちてしまった彼女にとって、物よりも体験の方が彩りを持っていたのだ。
屋敷に戻るといい感じに日も暮れかけていた。
「……まだ食べられるか?」
と言うイクスの問いに、元気よく首肯する。
「今日は色々連れ回してしまったわね」
「いえ! 街の皆さんも幸せそうで、素敵でした」
「イクス様をはじめ、ナイトヴェイル家の方々の尽力の賜物です」
「……俺たちなど何も。人々の努力の結果だ」
「努力できる場所を作ると言うのも、大きな功績ですよ」
「大したことじゃない」
自らの功績に興味がないのか、リーファの賛辞を歯牙にも掛けていない。
こういう方の元だからこそ、人々が伸び伸びと暮らせるのではないかとミリエラは思う。
「……そういえば、体の具合はどうだ」
「か、体ですか? えーっと、すごく元気? だと思います!」
「なら良いんだが」
「ミリエラ、お腹いっぱい食べるのはもしかして久しぶりじゃなかった?」
「はい! お腹いっぱい食べた記憶なんて思い出せないくらいです!」
きりりと答える。
「お腹痛くなったりしていない? 胃腸に負担は掛かっていると思うの」
「う~ん」
全然痛くない。
と言うかむしろ調子が良い。そういえば買い食いをしている時も油っぽいものとか甘いものとか、重たそうなものばっかり食べていた気がする。
明かしていないとは言え、令嬢、と言うか淑女的にこれはアウトなのでは、と脳裏に警報が。
(だってしょうがないじゃないですか……! とっても美味しそうなんですもん!)
ぶんぶん頭を振るって自分に言い訳をする彼女だが、リーファからすれば何事か、となる。
「や、やっぱりどこか痛いかしら? ごめんなさい。私たちも途中で止めれば良かったのだけれど、あまりに楽しそうだったものでつい……」
「あぁっ、いえ全然! どこも痛くないです! あ、私昔からなぜか病気しなくて、怪我も治りが早いんです! あと菌にも強いんですよ! 埃とかカビとか」
多分幽閉生活に体が適応したからです。と言う意味だったが、リーファはぎゅっとミリエラを抱きしめた。
「もうそんな辛い生活はしなくて良いんだからね……! これからはお給金も出るし、したいことを沢山しましょうね」
「要望があれば、何でも言ってほしい」
「あ、ありがとうございます……!」
嬉しさもあったが、同時に驚きも大きかった。
本当にこれは現実なのだろうか? 実はあの時どこかに売られてとっくに死んでいて、今は理想の生活の夢を見ているだけではないのだろうか?
「じゃあご飯を食べ終えたら、お風呂に入りましょうね」
「お風呂!!?」
「えぇ。大浴場って言うんだけれど」
「~~~!」
お風呂、しかも大浴場!?
古書の中だと、王家や神の類いが享楽で使っているだけだった。
それが、まさか、体験できるなんて……!?
目がキラキラと輝く。
先程湧いた悪い思考は、一瞬で遥か彼方に消し飛んでいった。
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