第17話 かわいい服

 三人が服屋に辿り着くと、リーファは「私は泥棒されたパン屋さんにお代を払ってきますね」と一人踵を返した。


(二人きりになってしまった……)


 イクスと二人になると、彼の胸で号泣してしまったことが思い出され、つい気まずくなる。

 表情変化の薄い彼なので、何を考えているかいまいちわかりにくい。

 悪い人ではないだろうとは思えていたが、ぎこちなくなる。


「……? 入ろう」

「あ、はい!」


 店内に入ると、試着用のドレスがずらりと目に入る。


「いらっしゃいませー! って、イクス様じゃないですか!」

「ああ。一着、見繕ってほしい」

「もちろんです。こちらの女性でよろしいですか?」

「あ、はい。ミリエラです。よろしくお願いします!」


 その店主と思しき若い女性はミリエラを頭から足先まで見つめる。


「ふむふむ……今はかなりお痩せになられていますが」

「そのうち、回復するはずだ」

「承知致しました。それではその時を見越して仕立てますね。……新しいメイドさんですか?」

「ああ」

「やっぱり! セラさんの時もミリスさんの時も、最初に服をご用意した時は痩せておられましたからね」

「いつも手間を掛ける」

「いえいえ、ご贔屓にして頂いて、ありがたい限りです」


 そう言って四着ほどババっと出す。飾りは少なめで動きやすさ重視と言ったところだ。

 だが、


「どれも可愛い……!」


 思わず声が出てしまった。


「ふふっ。では試着してみましょうか」

「はい!」


 着せ替え人形のようにされるがままだったが、憧れの可愛い服たちを着ることができてミリエラは幸福感に包まれていた。

 上流階級が社交界で着るような豪勢極めたドレスにも興味はあったが、それよりも今試着している日常的なものには安らぎと可愛さが同居している。

 しかも試着のたびに参考用として撮影されたので、より気分が上がった。


「どれも可愛かったです……!」

「いやぁ、張り切っちゃいました。ミリエラさんはとても可愛らしくて着させ甲斐があって……できればあと十着くらい……」


 そう言って店主の目がきらりと輝く。

 これ以上時間を取らせてしまっては悪いかと思いイクスをちらりと見たが、彼は「構わん」とでも言いたげにうんうん頷いていた。


「それでは早速失礼して……」

「お、お手柔らかにっ」



――



「ふあぁ、楽しかったです……」


 終盤に入るとミリエラも興が乗ってきてしまい、撮影に合わせてポーズなど取ったりしてしまっていた。


「あとで試着写真もお送りしますが、現状だとお二人はどれがお気に召しましたか?」


 二人はしばらく考え込み、同時に「全部……」などと答えてしまったものだから、店主は思わず吹き出す。


「すっ、すみません……こちらも試着させすぎてしまいました。私もどれも似合いそうだと思ったものですから……」

「私、服を買うのは初めてで……選びきれなくて……」

「ふむ。なら後で決めよう」

「かしこまりました。ではオススメの小物も合わせてご紹介しますね」

「助かる」


 そこでリーファが店に戻ってきた。

 その目に真っ先に入ったのは、


「えへ……これかわいい……こっちもかわいい……これのリボン好き……」


 と、だらしない顔で服たちをべた褒めするミリエラの姿だった。

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