第15話 城下町へ!
しかし、その意気は廊下を歩く途中で折れた。
足が止まる。
「うぅ」
「……どうした?」
「いえ、その……この目の色では、皆様を怖がらせてしまうのではないかと思いまして」
「ふむ」
イクスも立ち止まる。
「不安なら、目の色を変えるか?」
その提案に、断る理由はなかった。
お願いします、と首肯するミリエラに対し、リーファが小瓶を取り出して見せる。
綺麗な碧色の液体が見える。
「大丈夫。ちゃんと用意してあるわよ」
「え?」
「ちょっと目を開けていてね。
リーファの目が蒼く発光。。
小瓶を開け、中の青い液体をピンっと弾く。
そして一滴ずつがミリエラの両目に当たると同時に、
「
「わっ」
ごく弱い静電気くらいの衝撃が目に走る。だが痛みはない。
「はい、これで青くなったわよ。とは言っても、目に青色の膜を張っただけだけれど」
「えっすごい、ありがとうございます!」
「
「はいっ」
元気に頷くミリエラからは、不安の色が綺麗に抜け落ちていた。
――
「わぁ~~~っ」
三人で城下町まで行くと、ミリエラはその賑わいに心が踊った。
街は活気に溢れていて、歩いているだけで元気をもらえる。
イクスもリーファも街の皆から慕われているようで、老若男女から「イクス様~!」「旦那!」「リーファさん!」「お姉様!」などと口々に声を掛けられていた。
中にはリーファに対し「罵ってくれ~!」などと特殊性癖をアピールする酔っ払いもいたが、そういう輩には笑顔で手刀を入れ撃沈させていた。こわい。
「お二人共、好かれているんですね!」
「……ありがたい事だ」
「これはナイトヴェイル家が積み上げてきた信頼の結晶よ」
「ミリエラには……知っておいて欲しかった」
「? はい」
イクスの言いたいことがいまいち読み取れないでいると、横からリーファが苦笑しながら補足してくれる。
「つまり、領地の人々も家族のようなもの、と言うことよ。
「な、なるほど……」
突然大家族どころではないほど大家族になってしまった気分だ。
全然実感が湧かない。
「おやぁ、イクス様とリーファちゃんじゃないかい! 珍しいね~~~新しいメイドさんかい!?」
「ああ、そうだ」
「ちょっと街の見学にね。ミリエラ、この方は八百屋のダリラさん。相変わらずお元気にしていらっしゃる?」
ダリラと呼ばれた大柄の女性は店主のようで、豪放磊落と言った雰囲気だ。
「うちはみんな元気さね! これも全部ナイトヴェイル家のおかげだねぇ! ところで嬢ちゃん、名前は?」
「わっ! えと、はいっ、ミリエラ、と申しますっ」
「ミリエラちゃんね! いやぁナイトヴェイル家にメイドが増えるなんて三年ぶりくらいかい? 家族が増えることは良いことだねぇ」
そう言いながら、ダリラは店先に置いてある色艶のいい林檎をぽいっとミリエラに投げ渡す。
「アタシからの歓迎の印だよ! うまいから食ってみな!」
「お、おいしそう……ありがとうございますっ」
勢いに押されて林檎を口にする。しゃくっと言う小気味の良い音と共に、口の中へ程よい甘みと酸味が広がる。
自然の恵みを感じさせてくれる味だ。
「ふあぁ、おいしいです……!」
「あら~~~~! そんなにキラッキラして食べてくれるなんて嬉しい限りだよぉ! よ~し大サービスだ! 全部持ってきな!!」
そう言って大量に入った林檎の箱をふんっと力任せに持ち上げ、ミリエラに渡そうとする。
すると、
「うおおぉいアホババァ! 売り物をタダであげてんじゃねぇ!」
剣を携えた少年が息を上げながら戻ってきた。
「誰がアホババァじゃいこのドラ息子!」
「ぐぉあ」
踵落としが炸裂し、少年は一瞬で地に叩き伏せられる。
「ダリラさん、お気持ちは嬉しいけれど大丈夫よ。今日は街を見て回りたいの」
「あらそうかい? ミリエラちゃん、新鮮な野菜が食べたくなったらいつでもウチに来るんだよ!」
「はいっ、ありがとうございます!」
少年が痛みの余韻の中立ち上がる。イクスの姿を確認すると、慌てて膝をつき、丁寧に挨拶をした。
「も、申し訳ありません! イクス様の前でとんだご無礼を!」
「あぁエド。訓練、お疲れ様」
「勿体なきお言葉!」
「……そんなに、堅苦しくなくて良い」
「え、えっと……慣れなくて……というか、そういうワケにも……」
歳はイクスよりも年下に見える。短い黒髪の彼は、出会ったばかりのミリエラにも伝わってしまうほど実直さが漏れ出ていた。
「ナイトヴェイル家の新しい方ですか? 初めまして、私は騎士見習いのエドワードと申します」
「こ、こんにちは……! 私はミリエラです」
二人が挨拶をし終えると、突如男の怒号が響いた。
「ど、泥棒~~っ!」
びくりとするミリエラ。
だがリーファはと言うと、「あら珍しい」と落ち着き払っていた。
こ、これがメイド長の貫禄……!?
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