#65 南北合同展示
実際のところ、風紀委員会側としては初めから、パソコン部側からの申し出があれば条件付きで文化祭での展示のみは認めるつもりだったらしい。そうでなければ、厳しい神代班長がこんなに簡単に許してくれるはずはない。
「なぜ鈴木部長は展示の許可を頼みに来ないんだ?」
と彼らは不思議がっていたようで、まさか当の部長が落胆のあまり、ゲームコーナーで現実逃避しているとは夢にも思わなかっただろう。
それにしても、展示内容を事前チェックしてもらう、という順の提案は非常にナイスなもので、神代班長としても話を円滑に進めるきっかけになったようだった。展示を認めるに当たってどんな条件を付けるか、その交渉がこの一発で不要になったわけである。パソコンゲームで好きなだけ遊べたのも、実は嬉しかったらしい。
とにかくこうして、南高校パソコン部の危機は回避されることになった。順たちの行動が、見事に役に立ったのである。
「ありがとう! 君たちのおかげだ、本当に助かった!」
神代班長が立ち去った途端、ずっと神妙な顔をしていた鈴木部長は、うひゃあと躍り上がって叫んだ。
「太川君たちのおかげよ!」
直子さんに至っては、順に飛びついてハグしてくれた。その暖かさとせっけん系の香りに、一瞬夢見心地になった彼だったが、すぐに冷静さを取り戻して周囲をすばやく確認する。こういう時に限ってなぜか葵ちゃんが見ていた、という展開は困る。
一関くんは、爽やかな笑顔を浮かべてうなずいている。一方、西郷副部長は露骨にうらやましそうな顔で「一応、俺らも協力したつもりなんですが……」と言いたげな様子だった。
「実は皆さんに、我々からのお願いがあるのです」
ようやく落ち着きを取り戻した鈴木部長が、順たちに向かって、真面目な顔で言った。これだけ助けてもらっておいて、まだ頼むことがあるというのだろうか。
「今週末の文化祭ですが、北高校さんも合同で一緒に作品を出展していただけないかな、と」
おお、いいじゃないかと順たちは目を輝かせた。これは、緑町城下にわが部活の名を知らしめるチャンスではないか。
山岡たちの作品が欠けることになった寂しい展示スペースを埋めることができるという点で、南高校側にもメリットがある、これはまさに一石二鳥で共存共栄の提案なのだった。
「しょうがないわね。じゃあ、わたしも持ってくるわよ、シンセ。この際、北高校パソコン部の一員として協力するわ」
直子さんからは、そんな発言までが飛び出した。
自業自得とはいえ、山岡先輩や横山くんたちがこの状況を知ったら、自分たちが参加できないことをさぞ悔しがったことだろう。
熊岡先生からもおほめの言葉をいただいて、順たち三人は再び北高校へと帰った。
里佳子先生のところにはすでに連絡が届いていて、
「あのうるさい風紀委員会を説得したなんて、大活躍じゃない!」
と喜んでくれた。まあ、真相は若干違っているような気もするが、この際細かいことは良いだろう。
「それで、実は向こうの文化祭で一緒に展示させてもらえることになったんですが」
順が機材の運搬について相談してみると、
「ああ、いいよ。どうせ南高校の文化祭も見に行くつもりだったから。ついでに運んであげるよ」
当日の朝の搬入なら構わないと、先生はOKしてくれた。
文化祭の前日、土曜日の午後に、パソコン部の四人は機材一式を先生のカローラ・レビンAE85に積み込んだ。SOHCエンジンの廉価版グレードとはいえ、一応はスポーツクーペであるこの車に、またしても機材運搬車の役目をしてもらうことになったわけだ。もっとも、リアゲートの大きな3ドアハッチバックタイプだから、実は荷物も案外積めたりする。
今度もちゃんと、急加速でタイヤを鳴らしたりするようなこともなく、先生の運転するAE85はしずしずと学校から走り去っていった。
(#66「大人気のヒーローたち」に続く)
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