#32 勢ぞろいした四人の部員
「そうか、そういう選択肢があるのか。やっぱりあっちは詳しい人がいるなあ」
もたらされた解決策に、西郷はほっとしたような様子だった。
「だが、取り置いてもらっているという以上は、あんまりぐずぐずはしてられんな。早いところ、代金を払って現物を受け取ってこにゃならん」
「そうなんだよ。今月中にお願いします、って言われてて。すぐに部活への昇格をお願いしないと」
二人は、実紅ちゃんと一関くんの入部届を手に、急いで浜辺先生のところに向かった。
「それを待ってたのよ。やったわね!」
先生も部員獲得を喜んでくれた。
「急いでたみたいだから、もう全部手配してあるのよ。部員さえそろえば、すぐに昇格できるようにね。来週には、備品購入費を受け取れるはずよ」
さすがは浜辺先生、有能すぎる対応だった。事務とかお金とかは苦手なはずだが、勢いのあるキャラクターを生かした交渉力は一流だった。学校側としても期待をかけている部活だったから、話が通りやすかったのだろう。
幸い予算額は、予定のパソコン一式とモニター画面を買うのに充分なものだった。来週にお金が来るなら、取り置きの期限には問題ない。二人は安心して、職員室を出た。
一応、新入部員たちにも説明しておこうと、実紅ちゃんと一関くんに声を掛けて、部室まで来てもらった。この二人は、これが初の顔合わせとなる。
いつものテーブルの周りに座って、みんなで改めて自己紹介をすることにした。まずは順からである。
「ええと、まずは僕から。二年の、
西郷、それに実紅ちゃんと一関くんが盛大に拍手してくれる。順と西郷のどちらがパソコン部長になるかはまだ決まっていないのだが、この挨拶っぷりはほぼ部長確定の感じである。
「じゃあ、次は俺だな。同じく二年生で、太川の同級生の
みんなの拍手に続いて、実紅ちゃんと一関くんもそれぞれ自己紹介する。
「じゃあ、一関さんって、中学校の時からパソコンやってるんですね。すごいなあ、ベテランさんなんだ」
「いえいえ、科学部の活動の片手間みたいな扱いでしたから。本格的にやるのはまだまだこれからです。それより、本気でシンセに取り組みたいなんて、鞍馬口さんのほうがすごいですよ」
「あ、でも、まだ全然何にも分かってないんです……。単に、いろんな音で曲を弾いてみたいなあっていうだけで」
一年生二人は、和やかに会話を交わしている。この様子なら、仲良くやって行ってくれそうだ。
「その、シンセなんだけどさ」
順はそう言って、ヤマハの広告が載っているマイコン・マガジンのページを開いた。
「なるほど、なるほど」
一関くんは感心したようにうなずいた。
「ヤマハのMSX2、というのはいい選択ですね。性能的にゲームも作りやすいし、シンセとしても強力そうです。さすが、先輩方ですね」
全部南高校パソコン部で考えてもらった案だとは言わずに、順はまあねと得意顔をして見せる。
「このテレビの画面で、シンセサイザーの操作ができるのがすごいです」
実紅ちゃんも感心しているようだ。シンセとしての性能そのものは約束のDXシリーズには及ばないはずなのだが、シンセキーボードのボタン操作だけで音色の設定を行うよりも、パソコンの画面上で操作できるほうがわかりやすいだろう。
CXという名前だけではなく、デザインもDXシリーズに近いらしくて、そこも彼女は気に入ってくれた。
つまり、二人とも問題なくOKということになったわけだった。
「じゃあ、お金もらったらすぐに買いに行ってくるよ」
と順は部員一堂に告げた。送料を払えば機材一式を送ってもらうこともできるのだが、その到着を待つよりも、直接取りに行くほうが手っ取り早い。
「ああ、俺も行くよ。パソコン本体とキーボード、両方持って帰らなきゃならんのだからな。一人じゃきついぞ」
相棒たる西郷が申し出る。
「しかし、先輩お二人に何もかもお任せするのでは申し訳がありません。僕も手伝いますよ。荷物くらい持ちます」
一関くんが、絵に描いたような爽やかな笑顔でそんなことを言いだした。
「あ、じゃあ、わたしも……」
実紅ちゃんが小さく手を挙げる。
そういうわけで、県庁のある大きな町へと、四人そろってパソコンの受け取りに出かけることになった。全員の電車代を考えると、これでは送料の節約にはならないだろう。
しかしこれは、ついに勢ぞろいした部員四人による、北高校パソコン部としての初めての活動だ。みんなでそろって出かけること自体に、意味があると言って良さそうだった。
(第三章「駆け抜ける彼らの夏」に続く)
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