#9 浮上した、革命的アイデア

「読んだん? 副部長の小説」

 隣の横山くんが、驚きに目を見開いた。

「あれ読んだん? あの意味不明なのを?」

「意味不明とは失礼な。まあ、君らには文学のことなどわかるまい。パソコンなどという、魂のない機械に夢中な君らにはね」

 城崎副部長は、部員全員を敵に回すようなことを言い放った。なぜこの人、パソコン部の副部長なんかやってるんだろう。順は内心、首を傾げる。

「それにしても、もったいないな。太川君もあんな北高なんかじゃなく、我らが南高校に入れば良かったものを」

 城崎副部長のその言葉に、今度は順もカチンと来た。そりゃ南高校が市内ナンバーワンの名門なのは確かだが、北高校だって誰もが認めるそのライバルだ。「あんな学校」呼ばわりされる覚えはない。


「パソコン部だってないんだろう? 北高は。かわいそうなものだね」

 薄ら笑いを浮かべる副部長。ところがそこに、横山くんが予想外の一撃を加えた。

「こんなおかしな人が部活の副部長になれるような我が南高校より、北高校のほうがまともなんとちゃいますかね」

「貴様! 言っていいことと悪いことがあるぞ!」

 いきなり後輩部員から「おかしな人」呼ばわりされて、城崎副部長は血相を変えた。しかし、本番はそこからだった。パソコン部員たちが、一斉に副部長を攻撃し始めたのだ。


「言って悪いことを言ったのはお前だ、城崎。太川に謝れ」

「そういう偉そうなことは、自分がまともな人間になってから言ってくださいよ、副部長」

「あきれてものも言えないですよ」

「バカ」

 順も驚いたが、副部長はその総攻撃にもっと驚いたらしかった。口をあんぐりと開き、目が飛び出した、漫画みたいな顔になっている。しかし、彼のためにみんなでここまで怒ってくれるとは。むしろ「さすが南高校」という尊敬の念が生まれたほどだった。


 北高を馬鹿にする気は全くなかった、勘違いさせたなら謝る用意はある、とちっとも謝罪になっていない謝罪の言葉をぼそぼそとつぶやいて、副部長は逃げ出すように帰って行った。

「あんなデリカシーのない人が、文学なんか書けるわけないわ」

 追い打ちをかけるように、横山くんはばっさり切り捨てる。

「あの、何であの人副部長なの?」

 順は当然の疑問を口にする。答えてくれたのは、三年生でパソコンの部長である智野さんだった。

「この部を創設した時の初期メンバーの一人なんだよ、あいつ。入ったばかりの文芸部を追い出されて、行き場がなかったからか新設のこの部に参加してきてな」

 智野部長は、げんなりした様子で言った。

「部長はいやだが、何の役割もない『副部長』なら絶対やりたいとうるさくてなあ、三年に上がる時。他に希望者もいなかったし、あれでも一応プログラムは書けるんだ」


 なるほど、本当にどうでもいい名ばかりの「副部長」なのだ。それにしても、創設メンバーがまだ三年生ということは、この部は本当に最近できたばかりということらしい。

 その時だった。一つのアイデアが、彼の脳内を電撃のように走った。

 南高校でパソコン部の創設ができたのなら、同じように北高校でだって可能なはずだ。ならば、自分が創設メンバー第一号となって、北高校にもパソコン部を作ればいいのではないか。


「ええやん、それ!」

 彼の話したアイデアに、横山くんは目を輝かせた。

「北高校にパソコン部ができたら、僕らも嬉しいわ。ライバル校の部活同士で競い合うとか、めっちゃ青春ぽくて盛り上がるやん」

「横山の言う通りだ。もしもそのつもりがあるのなら、うちとしてもバックアップするよ」

 智野部長も、力強くうなずいてくれた。


 パソコン部同士で「競い合う」というのがいまいち良くわからないところではあったが、同じ市内の二つのパソコン部が協力して活動するというのは確かに面白そうだった。

「すぐには無理かも知れないけど、やってみようと思います」

 順は答えた。何から始めればいいのかは分からないが、とにかくいつまでもここのパソコンを借りてばかりというわけにはいかないだろう。まずは、自前のパソコンを手に入れる必要がありそうだった。


(#10 遭遇、銀色の「mkⅡ」に続く)

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