祠のある公園

さかもと

第1話:心霊写真

 ほら、私らくらいの世代の人間だったらよくわかると思うんですけど、私らが子供の頃って、テレビのゴールデンタイムの特番で、よく心霊を扱ったやつ、やってたじゃないですか。私、小学生の頃とか、ああいうの大好きで、テレビで放映される度に、テレビの前にかじりついてよく見てたんですけどね。で、次の日に学校に行ったら、友達とその話題になるじゃないですか。教室で、休み時間に、そういうのが好きな連中で集まって、昨日の番組のあれはどうだったとか、しばらくそんな話をしてたら、そのうち心霊写真の話題になったんですよ。気持ち悪かったですよね、当時のああいう写真って。今のスマホやデジカメで撮る解像度の高い写真と違って、アナログチックなおどろおどろしいやつで、ぼんやりと何かが写っているっていうやつですよ。そういうのを友達と何人かで思い出しながら、あれがキモかったとか、これが怖かったとか、みんなでわいわい言いながら盛り上がってたんですよ。そんな時に、友達の中に、吉田君っていう奴がいたんですけど、そいつが、「俺らも心霊写真撮ってみようぜ」って言い出して。「俺、今日の放課後、お父さんの持ってるカメラ持ち出してくるから、それ使って適当にあっちこっち撮ってみたら、もしかしてなんか写るんじゃね?」って言うんですよ。そんな、狙って撮れるもんなのかどうか、よくわからないですけど、まぁ、小学生の考えることですからね。それでその日の放課後に、みんなで吉田君の家に集まって、そこで吉田君は予定通りお父さんの部屋からカメラを内緒で持ち出してきて、それで近所のお寺とか神社とか公園とか、それっぽい場所にみんなで行って、適当にパシャパシャ写真撮ってたんですよ。そんなことやってるうちに、あれはどこかの公園だったと思うんですけど、その公園の片隅に、祠っていうんですかね、小さな四角い木箱の中に、何かの神様を奉ってあるっていうやつですよね、あれが置いてあるのを吉田君が見つけて、それで吉田君が私にカメラを渡して、「俺を撮ってくれ」って頼んでくるんですよ。仕方がないから私はその祠の前でカメラを構えてたら、吉田君、その祠の扉をいきなりパカッと開けて、中に入ってた何か仏像みたいなものの頭の部分をペシペシ平手で叩きながら、こっちに向かってピースサインしてくるんですよ。何かイヤだなーと思いながらも、私はそんな吉田君にカメラを向けて、一枚だけシャッター切ったんですよね。まぁ、その日はそんな感じで、みんなで大騒ぎしながら心霊写真の撮影会みたいなことをやって、夕方になったらみんなそれぞれ家に帰ることになって、何事もなく終わったんですけど。当時のカメラって、今のと違って、現像するまでに結構時間がかかるじゃないですか。吉田君のカメラで今日撮ったものを現像して見られるようになるまで、どのくらいかかるのかなとか、みんなで話したりしてたんですけど、そもそも吉田君のお父さんに内緒で撮影してるのに、勝手にカメラ使ったのバレたらみんな叱られるんじゃね、って話になったりして。まぁ子供だからあんまり先のこと考えずに突っ走っちゃうんでしょうね。でも、そんなことも気にしてたのはそれから2~3日のうちだけで、そのうちみんなそんなことがあったことも口に出さなくなって、まぁ子供ですからね、忘れちゃうのも早いんでしょうね。で、それから一ヶ月後くらいのことだったんですけど、吉田君が学校の教室に来るなり、私のことを呼び出すんですよ。ちょっと話したいことがあるから、校舎裏まで来て欲しいって言って。なんだろうと思いながらついて行くと、吉田君って、いつもおどけた感じで私らに接してくる奴だったんですけど、その時だけはずいぶん青ざめた顔してて、いつもと様子が違ったんです。で、そんな吉田君がポケットから一枚の写真を取り出して、私に見せてくるんですよ。なんだろうと思いながら見てみると、そこには思わずぎょっとするようなものが写ってて。あの、例の祠の前で吉田君がふざけてる時に、私が撮った写真だったんですけど、吉田君の首を、後ろからこう、誰かが締めているような感じで、その、両手が写ってたんですよね。なんなんだろう、この手はって、二人で話してたんですけど、もちろん私がカメラのシャッターを切った瞬間には、確かに吉田君の背後には誰もいなかったし、お互いそのことを確認しあって、どうやら本当に、これは心霊写真が撮れてしまったぞって、だって、それが目的だったんだから、大喜びするところだと私は思ったんですけど、吉田君の表情は青ざめたままで、私もまぁ、なんというか、あんまりこういうの気にしなくても大丈夫だよみたいな感じで、慰めにもならないような慰めの言葉を吉田君に投げかけたりしていました。それより、その写真を現像した時のことなんですけど、吉田君はお父さんに頼んでカメラ屋さんにフィルムを持って行って、やってもらったらしいんですけど、その時に、どうもお父さんがこの写真を見たらしくて、「○○様だろ、この祠」って言ってたらしくて、もう今は私もあんまり覚えてないんですけど、確かに何かの神様の名前を言っていたらしくて、たぶん、その神様の前でふざけたりしてたから、なんかバチみたいなものがあたったんじゃないのかなって、そんなふうに吉田君は言ってて。まぁ、その日はその後、もう何もその写真のことについてはお互い話さなくて、吉田君も私以外の友達には、写真のことを話していなかったように思います。それからしばらくして、吉田君が学校に来なくなってしまって、今で言う不登校っていうんですか、当時はあんまりそんな言葉も一般的じゃなかったから、私はよくわからなかったんですけど、あの写真が何か関係あったりするのかなと、ちょっと思ったりすることもあったんですけど。何度か、お見舞いっていうか、吉田君の家までみんなで様子を見に行ったりしても、お母さんが出てきて、「今は具合が悪いので」って繰り返すばかりで、本当のところはよくわかりませんでした。それで、その学期が終わる頃かな、「吉田君が転校することになった」って、先生がホームルームでみんなに連絡して、その頃にはみんな吉田君の存在もほとんど忘れてて、そんなに騒ぎになるようなこともなくフェードアウトしていきました。ただ、私だけは、あの写真のことを知っていたので、なんか心の奥底にイヤーな感じっていうのが、ずっと残ってて、吉田君のことはそれからも時々思い出してはどうしてるんだろうと思うことがありましたね。そんな感じで十数年経って、私も大人になって、世の中にネットが普及しだして、そのうちフェイスブックが流行った時期があったじゃないですか、あの時に、誰も彼もがみんなアカウント作って、自分の友達を、それも今の友達だけじゃなくて、過去に交流のあった友達も含めて検索しては、友達申請していってた時期ってのがあって、私もその流れに乗っかって同じようにやってたんですよね。で、ある時、私はふと吉田君のことを思い出してしまって、彼の名前をフルネームで検索してみたんですよ。すると、何件か出てきて、それらのプロフィールを見て、生まれた年や住所なんかで、吉田君本人と思われるアカウントを見つけたんですよ。ほんと懐かしいな、どうしてるのかなって、まぁあの気持ち悪い写真のこともいまだに覚えていますけど、とりあえず友達申請してみたんですよ。すると、すぐに申請許可が返ってきたから、私も嬉しくなって「元気ですか? いまどうされてますか?」とだけ、DM送ってみたんですよ。すると吉田君からは一言だけ返信が返ってきて、その言葉が……


「ハヤク、オマエモ、コッチニコイ」


で、カタカナで、ほんとにその一文だけで、ちょっと、ぞっとしましたよね。

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